群馬県安中市の「碓氷峠鉄道文化むら」が、変化の時を迎えています。隣接地に道の駅を整備することが決まり、あわせてリニューアルする方向性が固まりました。碓氷峠の鉄道遺産の世界遺産登録も視野に入れ、観光周遊の拠点として位置づけられるようです。現状と将来像をみてみましょう。
横川機関区跡地のテーマパーク
碓氷峠鉄道文化むらは、JR信越線横川駅に隣接する鉄道テーマパークです。1997年に長野新幹線が開業し、信越線横川~軽井沢間が廃止されたのを受けて、横川機関区の跡地に1999年に開園しました。
安中市が施設を保有し、一般財団法人碓氷峠交流記念財団が運営しています。信越線の碓氷峠越えに関する資料館を運営するほか、おもに国鉄時代の車両30両あまりを展示し、廃線を使った遊覧列車の運行もおこなっています。
まずは現地を見てみましょう。4月下旬の週末に訪れてみました。

検修庫や詰所を転用
入園すると、広場に幼児向けの遊具が並び、その先に鉄道展示館があります。実際に使われていたJRの検修庫を活用した建物で、内部には、EF63などの機関車が収まっています。

左手の鉄道資料館は、旧横川運転区の詰所を転用したものです。館内には、鉄道のジオラマや資料展示があります。

旧国鉄の歴史的車両が
奥に進んでいくと、屋外展示場があり、旧国鉄時代からの歴史的車両が並びます。

車内を見学できる車両もあります。
お座敷列車の内部に入れるのは、全国でも珍しいのではないでしょうか。

目玉は「シェルパくん」
豊富な車両展示もさることながら、テーマパークとしての目玉アトラクションは、トロッコ列車「シェルパくん」でしょう。1997年に廃止された信越線横川~軽井沢間の下り線を使用して運行しています。
入場口右手に乗り場があります。オープン型客車と普通客車の2両編成で、機関車による推進・牽引です。
途中、国の重要文化財である旧丸山変電所前で停車。そこから碓氷峠入口の急勾配を登り、約20分で、峠の湯駅に至ります。

周回の遊覧鉄道も
屋外展示場の周囲約800mを回る「あぷとくん」という遊覧鉄道もあります。2フィート(610mm)ゲージ軌道で、めがね橋も渡ります。

そのほか、約300mの5インチ(127mm)ゲージ軌道を走る「ミニSL」もあります。ミニとはいえ、石炭で走る本格派です。

老朽化も目立ちはじめ
碓氷峠鉄道文化むら全体を、ざっと見るための所要時間は3時間くらいでしょうか。広い敷地に価値のある車両が多く展示されていて、遊覧鉄道も本格的。実際の機関車を運転できるプログラムまであります。
鉄道関係の博物館・テーマパークとしては、質量ともに全国屈指の水準といえるでしょう。
ただ、開園から四半世紀を経て、施設の老朽化も感じられます。展示車両では、手入れの行き届いていないものも見受けられました。

文化むら一体化型道の駅
そこで、横川駅に隣接して道の駅を整備するのにあわせ、鉄道文化むらも取り込んで、一体的にリニューアルする方針が固まったわけです。
安中市が公表した基本計画によりますと、道の駅はJR信越線横川駅南側に新設し、駅と線路に沿って、東西に敷地が広がります。
計画の整備範囲は、駅周辺と鉄道文化むら全体が対象になる見込みです。方向性は「碓氷峠鉄道文化むらと一体化した道の駅」で、道の駅からトロッコ電車に乗ったり、鉄道文化むらに入場できる形とします。

施設配置をみてみる
施設配置をみてみましょう。まず、駅南側には農産物直売所などの物販施設と、カフェ、観光案内所、道路休憩施設を設けます。
駅西側のロータリーは交通広場として維持します。軽井沢へのバスも、これまで通り発着する見込みです。

鉄道資料館はレストラン併設に
鉄道文化むら側では、ゲート前にスペースを確保し、イベント会場として利用できるようにします。
また、文化むら内にある鉄道資料館は、改築してレストランを併設します。
鉄道資料館は、前述したようにかつての機関区の詰所で、昭和30年代の建築です。そのため耐震性に問題があり、バリアフリー化もされていないことから、建て替えることも検討します。
現在の鉄道文化むらの有料区域のうち、ゲート付近から車庫の手前までが道の駅に取り込まれるようです。したがって、現在の有料区域の一部が無料区域になるのでしょう。
乗降場は集約
峠の湯までを往復するトロッコ列車「シェルパくん」と、園内を周遊する「あぷとくん」は、乗降場の集約を検討します。
新乗降場の位置は決まっていませんが、現在のトロッコ列車文化村駅に「あぷとくん」の乗降場を新設するのはスペース的に難しそうなので、屋外展示場の北側に新設することになりそうです。
ただ、屋外展示場付近のリニューアルに関しては、基本計画で情報が提示されておらず、詳細は明らかではありません。

入館者は漸減傾向
碓氷峠鉄道文化むらの入場者数は漸減傾向で、開園当初は年間29万人だったところ、2024年度は約10万2000人にまで落ち込んでいます。
実際、筆者が訪れた日は日曜日の好天でしたが、園内は驚くほど空いていて、平日かと見まがうほどでした。
とくに、外国人観光客の姿をほとんど見かけませんでした。いまの時世に外国人が来なければ、入場者数が伸び悩むのも仕方ありません。

世界遺産登録目指し
碓氷峠を越えた軽井沢には、外国人を含む観光客があふれています。そのため、安中市としては、軽井沢から横川へと向かう観光ルートを開発し、旅行者を呼び込みたいところでしょう。
そうした背景もあってか、安中市では、「碓氷峠の鉄道施設群」を世界遺産に登録するための運動を開始しています。碓氷第三橋梁(めがね橋)や旧丸山変電所などを対象にしています。
群馬県では2014年に「富岡製糸場と絹産業遺産群」が世界文化遺産に登録されましたが、その際に、碓氷峠の鉄道施設群も、生糸などの輸送に貢献したとして構成資産の候補となりました。しかし、製糸場との直接の関係を示す史料がなく、最終的に除外されたという経緯があります。
そのため、今回は交通機関の段階的発展を象徴する事例として、世界遺産の登録を目指すようです。ただ、その場合も単体での登録は難しそうで、国内の他地域の鉄道遺産群と連携するなど、複数での登録も視野に入れています。
世界遺産登録となると、10年以上の期間がかかりそうですが、それも見据えて、鉄道文化むらをリニューアルしようということなのでしょう。
道の駅とセットの理由
では、なぜ道の駅とセットなのでしょうか。推測ですが、おそらく補助金の問題です。鉄道テーマパークだけをリニューアルしようとしても、使える補助金は限られますが、道の駅なら、社会資本整備総合交付金を筆頭に、さまざまな補助金の交付対象になります。
くわえて、国土交通省では、道の駅の整備について「第3ステージ」と位置づけて、新たな支援の枠組みを策定しています。対象となるのは、「地方創生・観光を加速する拠点」で、単なる物販機能にとどまらず、観光拠点として機能することが求められます。選定されると、さまざまな予算的・制度的な支援が得られます。
今回の安中市の道の駅の総事業費は44億円が見込まれていますが、鉄道文化むらを整備区域に取り込むことで、「道の駅第3ステージ」の認定を受け、補助金を施設のリニューアルにも役立てる狙いがあるのでしょう。
やや不便な立地
横川駅周辺は、上信越自動車道のインターチェンジから少し離れていて、軽井沢の手前のエアポケットのような場所になっています。軽井沢観光のついでに訪れるにはやや不便で、足が向きづらい立地です。
鉄道の場合でも、東京駅から新幹線と在来線を乗り継いで2時間ほどかかります。新幹線で長野駅に行くより長くかかるわけで、「近いけれど遠い」というのが実感です。
そうしたなか、道の駅の補助金を活用し、日本屈指の鉄道テーマパークを維持しつつ、鉄道遺産の世界遺産登録を目指して、軽井沢へとつながる観光ルートを作り上げていくというのが、安中市の考え方なのでしょう。

2032年度開業予定
道の駅の開業目標は2032年度です。そのときに、鉄道文化むらがどう変わるかは明瞭ではありません。
現時点で示されているのは、鉄道資料館が改築されてレストランが併設されることと、「シェルパくん」と「アプトくん」の乗降場が集約される可能性があることくらいです。
碓氷峠鉄道文化むらは貴重な車両を多数保存していて、鉄道博物館として高いポテンシャルがある施設です。新たな取り組みがうまくいき、施設がこれからも維持できるよう願いたいところです。(鎌倉淳)






















