旧上瀬谷通信施設跡地に建設を予定している上瀬谷ラインについて、横浜市が横浜シーサイドラインに運行事業者となるよう要請していることがわかりました。跡地再開発の行方が不透明ななか、本当に作るのでしょうか。
花博輸送の交通機関
横浜シーサイドラインは、横浜市の新杉田~金沢八景間で新交通システムを運行する事業者です。同社は、横浜市より、「上瀬谷ライン(仮称)」への事業参画の依頼があったことを発表しました。
上瀬谷ラインは、旧上瀬谷通信施設跡地に横浜市が計画している新交通システムで、相鉄線瀬谷駅~上瀬谷(仮称)間2.2kmを整備します。同跡地では、2027年に国際園芸博覧会(花博)が予定されていて、その後は大型テーマパークを核とした集客施設を建設する計画です。上瀬谷ラインは、その主要輸送機関という位置づけです。
しかし、肝心の大型テーマパークの誘致構想が頓挫。当初、誘致に関わっていた相鉄が撤退し、現時点で跡地利用の先行きは不透明です。そのため、上瀬谷ラインを建設しても、花博が終了した後は、利用客が限られる可能性が出てきています。
2021年11月までに回答
このような状況の中、横浜市が横浜シーサイドラインに事業参画の依頼をおこなったわけです。依頼内容は、車両や電気・通信設備、駅施設、車両基地などを運行事業者として整備するというものです。
シーサイドラインによると、上瀬谷ラインは2027年3月までの開業を目標としており、横浜市は事業参画の可否について、2021年11月末日までの回答を求めています。同社では外部有識者を加えた検討会議を開催し、事業の採算性や継続性について検証した上で回答するとのことです。
無理がある
広大な土地があり、そこにテーマパークを作る計画はあるけれど、できるかどうかはわからない。できたとしても、人気の施設になるかはわからない。そうした状況で、軌道系交通機関だけを先に作るというのは、ふつうに考えれば無理のある計画です。テーマパークの開業後、集客力を見極めてから着工しても遅くはないでしょう。
にもかかわらず、新交通システムの整備を急ぐのは、花博の2027年3月開幕が決定事項だからです。それまでに新交通システムを開業させるなら、すぐにでも運営事業者を決定し、建設に着手しなければなりません。そのため、このタイミングでの事業参画の要請になったのでしょう。
しかし、花博閉幕後の跡地利用が確定しないと、はっきりとした需要予測は立てられません。となると、採算性も判断できません。市では、跡地利用で将来的に年間1500万人の集客を見込んでいますが、その根拠は曖昧です。
事業費700億円
事業費は約700億円。うち市が約400億円を負担し、約300億円の負担を運行事業者に求めているようです。こんな不透明な事業に手を挙げる民間企業はないでしょうから、横浜市としては「身内」の第三セクターである、シーサイドラインに頼るほかないのでしょう。
見方を変えれば、シーサイドラインが断れば、上瀬谷ラインの2027年開業はほぼ不可能になり、事業は事実上頓挫するでしょう。となると、上瀬谷ラインの事業の成否は、シーサイドラインの「検討会議」が握ることになるわけです。
横浜市が63%出資
横浜シーサイドラインの株主構成は横浜市が63.37%、京浜急行が11.94%などとなっています。この出資割合を見る限り、横浜市の依頼をシーサイドラインが断るのは、普通に考えれば難しいでしょう。
ただ、横浜市は市長選が終わり山中竹春新市長が誕生。市政において「政権交代」が実現したばかりです。上瀬谷ラインは前市長時代に決まったプロジェクトですので、新市長の誕生により、方針が覆る可能性もあります。
楽観的な需要予想に基づいて建設した鉄軌道に厳しい現実が待っていることは、近年の事例でも明らかです。その負債は、最終的には市民にのしかかってきます。上瀬谷ラインを本当に作るのか。冷静な判断を期待したいところです。(鎌倉淳)