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北海道新幹線「札幌~倶知安」部分開業はなぜできないのか。公式検討の結果をみてみる

本末転倒になりかねず

北海道新幹線札幌延伸工事が大幅に遅延しています。明確な開業時期は示されておらず、早くても2038年度ごろになる模様です。札幌~倶知安間だけで部分開業ができないのか、という声もありますが、難しい様子。なぜなのでしょうか。

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2040年代にずれ込む可能性

北海道新幹線は、新青森~新函館北斗間が開業済みで、新函館北斗~札幌間が建設中です。札幌までの開業時期は、当初2035年度とされていましたが、2015年に5年の前倒しを発表し、2030年度となっていました。

しかし、トンネル工事などで遅延が発生し、2024年5月に、建設主体の鉄道・運輸機構が目標通りの開業は困難と発表。国交省の有識者会議が検討したところ、新たな開業時期は2038年度末頃になる見通しが示されました。工事の進捗によっては、開業時期はさらに数年遅れて、2040年代にずれ込む可能性もあるそうです。

あまりに遅いので、部分開業ができないのか、という声も出てきています。そうした声を受けて、有識者会議の報告書では、部分開業についても検討しています。いわば、公式な検討結果が示されたので、その内容をみてみましょう。

H5系北海道新幹線

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部分開業の4つの課題

部分開業が検討されたのは、札幌~倶知安間です。北海道新幹線の建設工事でもっとも遅れが出ているのが新函館北斗~新八雲間なので、そこを後回しにして、札幌に近いところから部分開業できないかを検討したわけです。

では、部分開業へのハードルには何があるのでしょうか。報告書では、技術的な課題として、以下の4点を挙げています。

・送電の能力確保
・新幹線車両の搬入
・営業運転に必要な車両検査施設の確保
・全線開業時の指令設備のシステムの試験時間の制約

この4つの課題について、順番にみていきましょう。

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送電能力の問題

まず、送電についてみてみます。北海道新幹線の倶知安~新札幌間では、新昆布変電所と新小樽変電所の2か所から送電する予定で、分界点は倶知安~新小樽間です。

札幌~倶知安間の部分開業時には、倶知安以南にある新昆布変電所からの送電は期待できません。したがって、部分開業区間の全線を新小樽変電所から送電しなければならなくなります。

そのため、新小樽変電所の送電能力を強化するなどの追加工事が必要となり、当然費用もかかります。

北海道新幹線部分開業
画像:北海道新幹線(新函館北斗・札幌間)の整備に関する報告書(令和7年3月報告)〔参考資料〕

 
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車両搬入の問題

車両の搬入も課題です。北海道新幹線札幌延伸時の車両搬入は、函館方面からを想定していて、札幌駅周辺に搬入経路を確保していません。札幌駅の東に小さな車両基地を設けますが、都市部の狭隘な場所に計画しており、車両搬入経路はありません。

しかし、札幌~倶知安間で部分開業するのなら、札幌の車両基地周辺で搬入をしなければなりません。その経路確保が問題となります。

北海道新幹線部分開業
画像:北海道新幹線(新函館北斗・札幌間)の整備に関する報告書(令和7年3月報告)〔参考資料〕

 
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検査の問題

車両搬入ができたとしても、新幹線を営業運転するのなら、定期的に検査をしなければなりません。しかし、これも、新函館北斗の車両基地(函館新幹線総合車両所)での検査を予定していました。

札幌の車両基地には、検査施設の設置は予定していません。札幌車両基地には、着発収容庫(車両の留置)、仕業検査庫(車両の仕業検査や融雪作業)、保守基地(保守用車両の整備・留置)があるだけです。

北海道新幹線部分開業
画像:北海道新幹線(新函館北斗・札幌間)の整備に関する報告書(令和7年3月報告)〔参考資料〕

日常的な仕業検査はおこなえますが、より大がかりな交番検査や、臨時修繕はできません。きちんとした検査・修繕をおこなう施設がないということです。

たとえば、台車の検査をするには、在姿車輪旋盤装置の設置が不可欠ですが、装置の設置には軌道下部に大規模なピットが必要で、現在計画されている高架橋に設置はできません。設置のため、追加用地を取得するのも困難です。

北海道新幹線部分開業
画像:北海道新幹線(新函館北斗・札幌間)の整備に関する報告書(令和7年3月報告)〔参考資料〕

 
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システム試験の問題

部分開業後、全線開業時を前に、指令設備のシステムの試験をしなければならないのですが、部分開業をしてしまっていると、その試験時間が大幅に制約されます。

営業時間外の深夜にしか作業ができなくなり、そのために試験期間が大幅に伸びる可能性もあります。

北海道新幹線部分開業
画像:北海道新幹線(新函館北斗・札幌間)の整備に関する報告書(令和7年3月報告)〔参考資料〕

 
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先行開業の差は1年未満

北海道新幹線の工事の見通しをみてみると、最も工事が遅延しているのが新函館北斗~新八雲間の渡島トンネルで、設備の完成が2035年度後半になる見込みです。

一方、新小樽~札幌間の札樽トンネルも、2035年度の前半にずれ込む見通しです。

札幌~倶知安間で先行開業をするとしても、新函館北斗~新八雲間に比べて、工事完了の時期の差は1年未満にとどまりそうです。数ヶ月の差にすぎないわけで、そのために検査施設をつくったり、システムの変更をするなどの作業をするのは無駄です。

さらにいえば、部分開業の準備のために、全線開業が遅れる可能性もあり、そうなると本末転倒です。

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大きな手間がかかる

報告書を読むと、新幹線工事で、一部区間の先行開業をするには、大きな手間がかかることがわかります。

それでも、たとえば新小樽~札幌間の工事が遅れて、そのために新函館北斗~倶知安間の先行開業をする、というのであれば、まだ、実現可能性があるかもしれません。

しかし、新函館北斗~新八雲間を後回しにして、他の区間を先行開業するのは、ほとんど不可能といっていいようです。いずれにしろ、工事の先行きははっきりとは見えておらず、当面は、部分開業が具体的に検討されることはなさそうです。(鎌倉淳)

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