路線バスの「内部補助」を考える。両備が赤字31路線で廃止届

他社の参入に抗議

両備ホールディングスが、傘下2社の赤字路線バスのうち計31路線について廃止届を提出しました。格安運賃を武器にした他のバス会社が、同社のドル箱路線に参入することに対し、抗議の意志を示した形です。

広告

延べ113kmを廃止

両備ホールディングス(HD)が中国運輸局に廃止申請したのは、両備バス全36路線中の18路線と岡電バス全42路線中の13路線。運行距離は延べ113.8kmに及びます。

2018年9月末と、2019年3月末に分けて廃止予定で、両備バスで1日当たり約4,000人、岡電バスで同1,500人、あわせて5,500人に影響が出る見込みです。

廃止が発表された路線は、以下の通りです。

■両備バス
・2018年9月末廃止
新倉敷駅線、青葉町車庫線、玉野光南高校線、企業団地線、宝伝線、旭川荘線、岡山荘内渋川線、岡山宇野渋川線、川鉄本線、岡山国道30号線、クラレ・住友線、操南台団地線、岡山倉敷旧2号線、王子ヶ岳線
・2019年3月末廃止
牛窓北線、牛窓南線、岡山小串鉾立線、岡山上山坂宇野線

■岡電バス
・2018年9月末廃止
三野線、中央病院線、神道山線、西小学校線、京山線、ポリテクセンター線
・2019年3月末廃止
花尻入口線、北長瀬線、新保・万倍線、中庄・北長瀬・バラ園線、汗入・火の見・重井病院線、コンベックス線、付属校線

小嶋光信代表
両備グループ小嶋光信代表 写真:両備ホールディングス報道資料より

「めぐりん」参入を受け

両備HDが、突然、大量の路線廃止を発表した理由は、岡山市中心部を走る循環バス「めぐりん」の新路線の開設にあります。

「めぐりん」は、タクシー事業の八晃運輸が2012年から運行している路線バスです。現在は岡山市中心部で5路線を運行しており、100~200円の格安運賃が売り物です。

八晃運輸は、2017年3月末に新しい路線として「めぐりん益野線(仮称)」開設を中国運輸局に申請しました。岡山駅前を起点に県庁前、東山、西大寺などを通り、イオンモール岡山を経由して岡山駅前に戻るコースです。この路線は、両備バスのドル箱路線である西大寺線と重なっています。

「めぐりん益野線」の料金は両備バスの140円区間と220円区間が100円に、400円区間が250円に設定されています。そのため、運行開始されれば、両備にとっては大打撃となることが予想されます。両備では、岡電バスとあわせた2社で年間2億8100万円の減収になると見込んでいます。

広告

「廃止するために廃止届を出したのではない」

両備HDの小嶋光信代表は、2018年2月8日に記者会見し、「廃止するために廃止届を出したわけではない」と述べました。「めぐりん」新路線が認可されなければ廃止届を取り下げるという主張で、今回の廃止届は問題提起の側面が強いようです。

しかし、両備が記者会見をした日の夜に、中国運輸局は「めぐりん」の新路線を認可しました。

2002年の改正道路運送法による規制緩和で乗合バスの参入は自由化されており、運賃も上限価格認可制となっています。そのため、八晃運輸に瑕疵がなければ、運輸局としては認可せざるをえなかったのでしょう。

黒字路線で赤字を補填

この問題は、交通機関の「内部補助」をどう考えるかが一つのポイントになりそうです。内部補助とは、黒字路線の収益で赤字路線の損失を補填することをいいます。バスに限らず、全国の多くの公共交通機関で実際に行われていることです。

たとえば、JR東日本は東北地方に多数のローカル線を抱えていますが、首都圏路線の収益で、ローカル線の損失を穴埋めしています。地方のバス会社でも、都市内の一部路線や高速バスの黒字で、赤字路線を維持している会社がほとんどでしょう。

両備HDの場合、両備バスは3割の黒字路線で7割の赤字路線を、岡電バスは4割の黒字路線で6割の赤字路線を支えています。

小嶋代表は、同社ウェブサイトに掲載したメッセージで「黒字路線を狙い撃ちにした(新規事業者の)進出がなされれば、黒字路線も大幅赤字となってしまい、今まで黒字路線の利益で支えていた赤字路線の維持はできなくなります」と訴えました。

広告

100年かけて育てた路線

両備グループの前身にあたる西大寺鉄道以来のバス路線に他社が参入してくる点も、両備HDとしては受け入れがたいことだったようです。

小嶋代表は「創業以来108年にわたり岡山駅から西大寺に至る伝統的バス路線を育て、また、お客様の需要に対して応えるべく十分な運行を行ってきました」とし、「より便利で住み良い土地となるよう開発し、育ててきた美田(路線)」と胸を張っています。

そのうえで、「地域貢献を一切行わず、利益のみを収穫しようとする新規参入事業者に国がお墨付きを与える」のかと、八晃運輸と国の対応を批判しました。長い年数をかけてドル箱路線に育てたのに、そう簡単に他社参入を許すわけにはいかない、という思いがあるのでしょう。

2002年改正道路運送法

補填元となる黒字路線がないと、赤字路線の維持はできません。仮に公共交通機関の内部補助を全否定したら、地方の交通網を維持するのはきわめて困難になります。その意味で、両備HDの問題提起は身勝手とはいい切れません。

ただ、内部補助は、営利事業になじまない路線を民間企業に抱えさせるという点で、問題があります。事業者に過度な負担を強いる制度という批判も強く、2002年の改正道路運送法では、内部補助による路線維持を前提としない方向に、国は政策の舵を切りました。

2002年改正道路運送法では、供給輸送力が輸送需要量に対し不均衡とならないよう調整する「需給調整規制」を撤廃。新規参入や路線開設が免許制から許可制へと変更され、市場原理が強化されました。同時に撤退も簡単になり、路線の休廃止は6ヶ月前までの届け出で行えるようになっています。

この規制緩和によって、多くのローカル路線バスが切り捨てられることが予想されました。そして、実際、その通りになっています。赤字路線バスのある程度の廃止は織り込み済みの法改正だったわけです。

ただ、近年のバス路線の縮小はローカル路線にとどまらず、都市近郊にまで及んできました。これだけの路線バス縮小を2002年の段階で予見できていたかというと、やや疑問も残ります。

広告

規制緩和の果実も

一方で、規制緩和が、利用者や社会に果実をもたらしている面もあります。たとえば、成田空港への格安バスは、リムジンバスのドル箱路線に低価格で他社が参入してきたことで、利用者は手ごろな価格で成田空港へ行けるようになりました。

LCCとの相乗効果で成田空港の活性化にもつながり、路線全体のパイを広げる役割を果たしたともいえます。

東京~大阪間の高速バスの価格が下がったり、多様なシートのバスが次々と登場したのも、規制緩和のおかげといえるでしょう。このように、需要の多い区間では、規制緩和が効果を発揮している面も確かにあるわけです。

本当にいまの制度でいいのか

バスは新規参入と撤退が容易なだけに、新規事業者は容易にドル箱路線「だけ」に参入することができます。しかし、ドル箱路線だけを運行するバス会社ばかりになったら、利益にならない赤字路線バスを運行する事業者はいなくなってしまいます。

そのため、現行制度で赤字路線バスを維持する場合は、地元自治体が補助金を投入したり、自治体自らがコミュニティバスを運行するなどの施策が求められることになります。そう考えれば、今回、対応を迫られているのは、一義的には岡山県や岡山市ということになります。

国の政策の方向性や、現在の法制度からすれば、八晃運輸の新規参入も、両備HDの不採算路線からの撤退も認められるべきものです。市民生活に不可欠な路線バスの維持は、民間企業でなく、地元自治体が責任を持たなければならないのです。

しかし、それは際限のない税金投入につながりかねません。今回の両備HDの問題提起は「本当にそれでいいのか?」という疑問を投げかけているといえます。2002年の改正道路運送法施行から16年。そろそろ、見直しがあってもいいのかもしれません。(鎌倉淳)

広告
前の記事青春18きっぷ、2018年の期間と価格を発表。「佐世保特例」を追加
次の記事『北海道の維持困難線区のあり方』を読み解く。5線区の存続強く求める