『北海道の維持困難線区のあり方』を読み解く。5線区の存続強く求める

国策意識した記述に

JR北海道の路線見直しに関し、北海道の有識者会議が、道内鉄道網のあり方に関する報告書を正式発表しました。JR北海道の維持困難線区の将来像を示した重要な報告書ですが、その内容を読み解いてみましょう。

広告

1線区ずつ検討

この報告書は、『将来を見据えた鉄道網(維持困難線区)のあり方について~持続的な鉄道網の確立に向けて~』と題されたもの。北海道運輸交通審議会「鉄道ネットワーク・ワーキングチーム・フォローアップ会議」がまとめ、2018年2月10日に公表しました。

この会議は、北海道知事の附属機関である「北海道運輸交通審議会」の小委員会として、2017年5月に設置されました。JR北海道が2016年11月に発表した「単独では維持困難な線区」への対応を検討するために設けられたものです。

この会議の前身となる「鉄道ネットワーク・ワーキングチーム」は、2017年2月に『将来を見据えた北海道の鉄道網のあり方について』という報告書を提出しました。「フォローアップ会議」は、それを踏まえて、北海道の将来の鉄道網のあり方について、集中的に審議を行ったものです。

今回の報告書は、「維持困難線区」のあり方について、1線区ごとに詳らかにしたのが特徴です。その内容を見ていきましょう。

釧網線

宗谷線(名寄~稚内間:183.2km)

宗谷線の名寄~稚内間は、日本最北の鉄道路線です。報告書では、線区の特性として「ロシア国境に近接し」「今後のロシア極東地域と本道との交流拡大に向けた可能性を有する路線」と表現しました。

宗谷海峡を挟んでサハリンとの交流が可能な路線、という意味だとは思いますが、ロシアが提案している「宗谷海峡トンネル」を意識した記述にも読み取れます。だとすれば、シベリア鉄道と接続する可能性がある、ということを匂わせているのかもしれません。

また、宗谷線を「札幌圏と中核都市から最も遠い地域中心都市である稚内市を結ぶ路線」と定義し、「鉄道は、札幌と稚内間における旅客輸送の半分以上のシェアを占めている」と指摘。

沿線が国の広域観光周遊ルートに指定されていることから「インバウンド等による交流人口の飛躍的な拡大に向け、重要な役割を果たす」との期待も寄せました。

結論として、宗谷線を「ロシア極東地域と本道との交流拡大の可能性も見据え」、「国土を形成し、本道の骨格を構成する幹線交通ネットワーク」と位置づけました。そのうえで、「維持に向けてさらに検討を進めるべき」と、強い調子で維持を求めています。

広告

根室線(滝川~富良野間:54.6km)

根室線の滝川~富良野間は、かつて道央と道東を結ぶ基幹ルートの一部でしたが、石勝線開業後は、札幌方面と富良野を短絡する役割が主となりました。

報告書では、線区の特性として「農産品等を本州方面に輸送する広域物流ルート」と「札幌と富良野を結ぶ観光路線としての役割」の2つを挙げました。

広域物流ルートについては、貨物列車が運行されているものの、「現行のアボイダブル・コストルールのもと、旅客会社が線路の維持管理費の多くを負担している」と指摘。2015年度の貨物収入(線路使用料)が500万円に過ぎないことを記し、JR北海道の収益にはほとんど貢献していないことを示唆しています。

観光路線としての役割については「繁忙期には、臨時の観光特急も運行される」としていますが、運転期間は6月~9月に限られ、年間の利用者数は約31,800人にとどまることも記されています。

結論として、「地域における負担等も含めた検討・協議を進めながら、路線の維持に努めていくことが必要」と、地元負担を条件とした維持の方向性を示しています。

また、貨物輸送については、「トラック輸送や海上輸送も含めて総合的に対策を検討していくことが適当」とし、関係機関の議論を促しました。鉄道貨物でなくても運びきれることを、示唆したといえそうです。

路線概要
各線区の概要。「北海道の将来を見据えた鉄道網(維持困難線区)のあり方について」より

根室線(富良野~新得間:81.7km)

根室線の富良野~新得間も、かつては道央と道東を結ぶ大動脈の一部でしたが、現在はローカル線となっている区間です。報告書では、線区の特性として、「住民の日常生活での利用」と「上川と十勝を結ぶ役割」を挙げました。

輸送密度が154人(2016年度、以下同)ときわめて小さく、旭川~帯広間には都市間バスが1日4往復も運行されていることもあげ、鉄道維持の必要性に疑問を投げかけています。2016年の大雨災害により、東鹿越~新得間が不通となっていることあり、報告書は鉄道維持に消極的な文面となりました。

結論として、「他の交通機関との連携、補完、代替も含めた利便性の高い最適な公共交通ネットワークの確保に向け、地域における検討・協議を進めていくことが適当」としました。回りくどい書き方ですが、「都市間バスを活用したほうがいい」ということでしょうか。存続に後ろ向きな表現に感じられます。

広告

富良野線(富良野~旭川間:54.8km)

富良野線は、「富良野、美瑛、旭山動物園などの観光資源を有する路線」と表現されました。インバウンドなどによる観光客数が増加傾向にあることから、「交流人口の飛躍的な拡大に向け、重要な役割を果たすことが期待される」と、観光路線としての重要性を指摘しています。

また、輸送密度が1545人と高く、「単独では維持困難とされる路線の中で最大」と評価。「通学や通院等においても、多くの利用がある」としています。

報告書では「観光客の利用だけで鉄道を維持していくことは難しい」と指摘しており、「観光路線としての特性をさらに発揮する」取り組みと、「地域における負担」の両方を求めています。

結論としては、「路線の維持に最大限努めていくことが必要」とし、存続に前向きな表現となりました。

留萌線(深川~留萌間:50.1km)

留萌線は、留萌~増毛間が2016年12月に廃止され、深川~留萌間だけが存続しています。しかし、存続区間においても輸送密度は188人と低く、沿線住民にもあまり利用されていないのが実情です。

報告書では、並行してバスが運行されていることを指摘し、「所要時間はやや鉄道が短いが、運賃は概ね同水準で、本数はバスの方が多い」と分析しています。

さらに、2019年度に深川・留萌自動車道が全通することにも触れたうえで、「他の交通機関との代替も含め、地域における検討・協議を進めていくことが適当」としました。

要するに「利用者が少なくて、並行して高速道路も整備されており、バスの本数も多い」とまとめているわけで、存続に後ろ向きな表現です。

広告

石北線(新旭川~網走間:234.0km)

石北線は、「維持困難線区」としてはもっとも多い1日4往復の特急列車が運行されている基軸路線です。

報告書でも、線区の特性として「札幌圏と中核都市である北見市(中略)や網走市を結ぶ路線」であるとしたうえで、「鉄道は、札幌と北見、網走間における旅客輸送において、最も高いシェアを占めている」と指摘。路線の重要性を説いています。

貨物輸送も行われており「農産品等を本州方面に輸送する広域物流ルートとしての役割を一部担っている」としました。

結論として、「国土を形成し、本道の骨格を構成する幹線交通ネットワーク」と位置づけ、「維持に向けてさらに検討を進めるべき」と、強い表現で維持を求めました。

しかし、貨物列車の運行に関しては、「旅客会社が線路の維持管理費の多くを負担している」と問題点を指摘。貨物列車の線路使用料が年間3400万円(2015年度)であることも明らかにしています。

貨物輸送については、富良野線同様、「トラック輸送や海上輸送も含めて総合的に対策を検討していくことが適当」とし、鉄道貨物でなくても運びきれることを示唆したといえそうです。

釧網線(東釧路~網走間:166.2km)

釧網線は、釧路と網走・北見という都市間を結ぶ路線のであるものの、輸送密度は463人と低くなっています。

報告書では、線区の特性として「沿線に4つの国立、国定公園や世界遺産・知床を有し、世界的に貴重な釧路湿原を間近に体感できる」といった観光資源の豊富さを挙げ、「道東方面の観光振興にとって大きな可能性を有する路線」としました。

また、並行する高速道路計画がないことも挙げ、インバウンドなどで「本線区が重要な役割を果たす」と期待感を表明。今回の報告書で、観光面に関しては最も期待する記述になっています。

とはいえ、報告書では「観光客の利用だけで鉄道を維持していくことは難しい」とも指摘。富良野線と同様、「観光路線としての特性をさらに発揮する」ような取り組みや、「地域における負担」を求めました。

それでも「路線の維持に最大限努めていくことが必要」と表記。観光面のポテンシャルを評価して「廃止するのが惜しい」という、会議メンバーの声が聞こえてくるような記述になっています。

広告

根室線〔花咲線〕(釧路~根室間:135.4km)

花咲線は、根室線の末端区間です。末端区間であるがゆえに利用者は少なく、輸送密度は457人にとどまっています。

報告書では、線区の特性として「北方領土隣接地域を結ぶ唯一の路線」であることを挙げました。「今後、北方四島における共同経済活動による交流拡大を図る上で、重要な役割を果たすことも期待される」とし、北方領土を全面に押し出した記述となっています。

結論としても、「北方領土隣接地域における鉄道の役割」を強調し、「国の北方領土対策や高規格幹線道路網整備の状況」を考慮したうえで、「路線の維持に最大限努めていくことが必要」と、やや強い表現で路線の維持を訴えています。

札沼線(北海道医療大学~新十津川間:47.6km)

札沼線の北海道医療大学~新十津川間は、輸送密度が62人ときわめて小さい線区です。報告書でも「特に浦臼以北においては、1日当たりの平均利用者数が10人以下」と利用者の少なさに触れています。

月形以北においては、滝川、奈井江、岩見沢といった、函館線沿線の自治体との結びつきが強いことを挙げ、それらの都市へ「多数のバスが運行されている」としました。つまり、札沼線が廃止されても、住民の利便性の低下につながらないことを示唆したといえます。

結論としては、「バス転換も視野に、地域における検討・協議を進めていくことが適当」とし、存続への配慮を残した記述は見当たりませんでした。今回の報告書で、もっとも存続への熱意のない記述に見受けられます。

日高線(苫小牧~鵡川間:30.5km)

日高線は、鵡川~様似間が2015年1月に発生した高波被害などにより不通が続いています。そのためか、現在も運転が続いている苫小牧~鵡川間と、不通の鵡川~様似間が、分けて扱われています。

苫小牧~鵡川間については、「朝の苫小牧方面に向かう列車においては、最大180人を超える利用」があるとして、住民の日常生活で利用されていることを記しました。

しかし、「利用者数が10人以下の時間帯が多くなっている」「鉄道とバスが、概ね全区間にわたって並行している」とし、廃止されても住民利便性の大幅な低下にならないことも示唆しています。

結論としては、「他の交通機関での代替の可能性も踏まえつつ、地域における負担等も含めた検討・協議を進めながら、路線の維持に努めていくことが必要と考える」という、存続に後ろ向きな表現となっています。

日高線(鵡川~様似間:116.0km)

不通が続いている日高線の鵡川~様似間は、もともと輸送密度が186人と少ないこともあり、JR北海道は復旧せずにバス転換を提案しています。

地元自治体では、DMVやBRTによる存続も模索。しかし、報告書では「DMVやBRTは、バスに比べて、初期投資や運行費用が多大であることに加え、運行開始までに長期の期間を要する」と記し、実現性に疑問を投げかけています。

もともと線路が海岸線に沿って敷かれており、自然災害が頻発するなど厳しい環境に置かれた路線です。そのため、「他の交通機関との代替も含め、地域における検討・協議を進めていくことが適当」という、存続に後ろ向きな表現となりました。

室蘭線(沼ノ端~岩見沢間:67.0km)

室蘭線の沼ノ端~岩見沢間は、石炭輸送が盛んな時代には、貨物列車が頻繁に往来していた区間です。報告書でも、線区の特性として、「道北や道東と本州方面を結ぶ鉄道貨物輸送のバイパスルートとしての役割を果たしている」と、真っ先に貨物路線としての役割を評価しました。

とはいえ、いまとなっては、道北方面の貨物列車の大半は札幌貨物ターミナルを経由し、道東方面の列車の大半も南千歳を経由します。報告書はその点を指摘し、「バイパス」という表現を用い、現在では貨物輸送におけるメインルートではないことを示唆しました。

にもかかわらず、「旅客会社が線路の維持管理費の多くを負担している」とし、貨物列車の線路使用料が年間1,700万円に過ぎないことを明らかにしています。

こうしたことから、貨物輸送については、根室線の滝川~富良野間や石北線同様、「トラック輸送や海上輸送も含めて総合的に対策を検討していくことが適当」とし、鉄道貨物でなくても運びきれることを示唆しています。

旅客輸送に関しては、「住民の日常生活で利用されている」としたものの、「鉄道とバスが、概ね全区間にわたって並行している」とし、旅客輸送の重要性はほとんど指摘しませんでした。

こうしたことから、結論として、「住民の利用状況を踏まえ、地域における負担等も含めた検討・協議を進めながら、路線の維持に努めていくことが必要と考える」と、地元負担などを条件とした存続姿勢となっています。

広告

表記ごとにまとめてみると

ここまで線区ごとに見てきましたが、こうしたお役所の文書を読み解く際は、定型的な表記ごとにまとめてみるとわかりやすくなります。今回の報告書の定型表現のポイントをまとめてみると、以下のようになります。

(1)維持に向けてさらに検討をすすめるべき
宗谷線(名寄~稚内)
石北線(新旭川~網走)

(2)地域における負担等も含めた検討・協議を進めながら、路線の維持に最大限努めていくことが必要
根室線(釧路~根室)
釧網線(東釧路~網走)
富良野線(旭川~富良野)

(3)地域における負担等も含めた検討・協議を進めながら、路線の維持に努めていくことが必要
根室線(滝川~富良野)
日高線(苫小牧~鵡川)
室蘭線(沼ノ端~岩見沢)

(4)他の交通機関との連携、補完、代替も含めた利便性の高い最適な公共交通ネットワークの確保に向け、地域における検討・協議を進めていくことが適当
根室線(富良野~新得)

(5)他の交通機関との代替も含め、地域における検討・協議を進めていくことが適当
留萌線(深川~留萌)
日高線(鵡川~様似)

(6)バス転換も視野に、地域における検討・協議を進めていくことが適当
札沼線(北海道医療大学~新十津川)

報告書の趣旨としては、(1)の宗谷線と石北線が絶対維持、(2)の花咲線、釧網線、富良野線も、できる限り維持、ということです。(3)の根室線・滝川~富良野、室蘭線・沼ノ端~岩見沢、日高線・苫小牧~鵡川は、地元負担などの条件が揃えば維持、という考え方でしょう。

広告

「国策」を意識した表現

赤字ローカル線の維持には、鉄道会社はもとより、沿線自治体の努力が不可欠です。しかし、北海道のローカル線はいずれも赤字額が大きいため、JRや沿線自治体の努力だけ維持するのは不可能で、なんらかの形で国の支援が必要です。

国が支援する場合には大義名分が不可欠ですが、(1)(2)の5線区の記述を見ると、国の支援を引き出すためのキーワードが含まれていることがわかります。

すなわち、「国土を形成する幹線交通」、「国境路線」、「インバウンド路線」といった言葉です。国土を形成する路線だから維持すべきというのは大義名分が立ちますし、ロシアとの関係改善や北方領土返還、そしてインバウンド増強は、現在の日本の「国策」です。国策に沿う路線には国がお金を出しやすく、政治家が声を大きくする大義名分にもなります。

実際、(1)(2)の5線区には「国土形成」「国境」「インバウンド」の3つのキーワードのいずれか、または複数が含まれています。

線路使用料と地元負担もカギ

一方、(3)の根室線・滝川~富良野間、室蘭線・沼ノ端~岩見沢間、日高線・苫小牧~鵡川間の記述には、国を説得するだけの理屈が弱い印象です。根室線と室蘭線は貨物輸送が一つのポイントですが、代替ルートもあるなかで最大1日数本では説得力に欠けます。日高線も、国に対して必要性を訴える要素が見当たりません。

そのため、(1)(2)と(3)の間には深い溝があるように感じられます。(3)の3線区が国策と無関係であるならば、存続するには、JR貨物の線路使用料の大幅引き上げや、地元自治体の赤字補填が求められるでしょう。となると、JR貨物や自治体がどこまで負担に応じられるかで、鉄路の存廃が決まりそうです。

(3)と(4)(5)(6)の間には、もっとはっきりした溝があります。(3)は存続を模索している表現ですが、(4)(5)(6)に関しては、多少の表記の違いはあれど、他の交通機関の代替を受け入れる内容となっているからです。道がこの報告書を足がかりに政策を決めるなら、これら4線区の存続はかなり難しいといえそうです。

全体をまとめてみると、『将来を見据えた鉄道網(維持困難線区)のあり方について~持続的な鉄道網の確立に向けて~』は、宗谷線、石北線、根室線[花咲線]、釧網線、富良野線の5線区について、国の支援による存続を強く求め、それ以外の7線区については、地域に負担の可否を尋ねた内容と解釈できそうです。(鎌倉淳)

広告
前の記事路線バスの「内部補助」を考える。両備が赤字31路線で廃止届
次の記事「北海道&東日本パス北海道線特急オプション券」の使いこなしを考える