『鉄道未来年表』発売開始。鉄道新線計画とローカル線の将来像がわかる本

5年後、10年後、20年後

『鉄道未来年表 5年後・10年後・20年後』(鎌倉淳著、河出書房新社刊)が発売開始されました。現在進行中の鉄道新線計画や、ローカル線の将来像などについてまとめた一冊です。概要をご紹介しましょう。

※当記事は、『鉄道未来年表 5年後・10年後・20年後』のまえがき、あとがきと目次を再構成したものです。

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鉄道を取り巻く新たな社会情勢

人口減少時代に入り、日本の鉄道は新たな局面を迎えつつあります。大都市の鉄道では輸送力増強の必要性が減り、乗りやすさや使いやすさ、安全性の向上などが重視されるようになってきました。

郊外や地方都市の路線では、利用者減少を食い止めつつ、路線を健全に維持していくことが課題です。外国人観光客や高齢者が増えたこともあり、あらゆる人が使いやすいユニバーサルデザインの必要性も高まっています。

鉄道新線計画で増えているのは、空港や新幹線駅へのアクセスを改善する路線です。整備新幹線は全線着手が視野に入る段階になり、基本計画路線の建設へ向けた動きが活発になってきました。

本書は、こうした鉄道を取り巻く新たな社会情勢に基づいて、新線や新駅、新車両、ローカル線の再構築などについて、現在決まっていることや将来の見通しを紹介するものです。

鉄道未来年表

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鉄道新線計画を中心に紹介

「鉄道の未来」というテーマは非常に大きいですが、紙幅には限りがあります。そのため、本書では、実現可能性のある鉄道新線計画の概要を中心に取り上げ、利用者の関心が高い内容に絞って記載しています。

既設線については、おもに都市鉄道で人口減少がどういう影響を及ぼすかについて概観しました。ローカル線は、最近整備された制度に基づく方向性を示しました。特定の線区について、その存廃を予測するものではありません。

今後の新型車両の導入予定については、公表されている範囲でまとめてあります。ただし、鉄道技術の進歩などについては、ほとんど触れていません。そうした未来を知りたい方には、残念ながら物足りない内容でしょう。

なお、構成は序章で年表形式を取り入れ、1章以降はテーマごとに記しています。

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「鉄道未来年表」内容構成詳細

序章 鉄道未来年表2025~2050
2025~2030年の鉄道未来年表/2031年~2040年の鉄道未来年表/2041年以降の鉄道未来年表

1章 人口減少時代の鉄道の未来
鉄道各社が有料着席サービスに注力する事情/人口減少は鉄道の未来にどれだけの影響を与えるか?/鉄道会社を悩ませる「働き方改革」/京阪が火をつけた関西の有料着席サービス競争/近畿圏の人口減少は首都圏よりも深刻/これからの都市鉄道で何が起こるか?/ローカル線には厳しい未来が待ち受けているのか?「相鉄・東急新横浜線開業」に見る社会情勢の変化/都市鉄道の未来像を示した「答申198号」を読みとく/近畿圏の新線建設が「これから容易ではない」理由/「鉄道整備の評価方法」の読み方/新線計画を「物価高と人手不足」が襲う/運転士不足で公共交通の支え手がいなくなる/バリアフリー強化で鉄道は「より便利で安全な乗りもの」に/インバウンドという「救世主」をどう取り込むか?/未来の鉄道に求められる「ユニバーサルデザイン化」

2章 東京圏の鉄道の未来
JR羽田空港アクセス線、2つのルートが開業へ/京急は品川駅大リニューアルでJRを迎え撃つ/羽田空港アクセスの伏兵「新空港線」が誕生/成田空港の旅客ターミナル再編で新駅設置へ/東京メトロ南北線の品川延伸が持つ意味とは/東京メトロ有楽町線の住吉延伸で利便性が向上/「東京8号線」延伸という大構想、今後どうなる?/つくばエクスプレスは双方向で延伸を目指す/いよいよ動き出した都心部・臨海地域地下鉄の全貌/都営大江戸線の大泉学園延伸、着手へと進む/埼玉高速鉄道の延伸計画に立ちはだかる壁とは/「エイトライナー・メトロセブン」構想は動き出すか?/葛飾区が熱望する「新金線旅客化」実現のカギとは/壮大な多摩モノレール延伸構想、その現在地は?/小田急多摩線の延伸計画は、2027年まで動きなし/横浜市営地下鉄ブルーライン、日本最長の地下鉄へ/完成形が見えない横浜市営地下鉄グリーンライン延伸構想

3章 大阪圏の鉄道の未来
なにわ筋線の開業が「革命的」である理由/阪急大阪空港線計画も動き出す?/大阪モノレール延伸で大阪空港アクセスが向上/近鉄奈良線から大阪メトロ中央線へ、直通特急計画の狙い/IR予定地への新線計画、各社が抱える思惑と不安とは/「神戸空港地下鉄」実現の可能性はあるか?

4章 新幹線と並行在来線の未来
リニア中央新幹線の品川─名古屋間、開業後の姿は?/東北・北海道新幹線、札幌延伸と時速360km運転の夢/北海道新幹線「函館駅乗り入れ」は実現するか?/一部区間のバス転換に合意も、函館線の未来は課題山積/三セク鉄道の生命線「貨物調整金」制度はどうなる?/青函トンネル共用問題と「貨物新幹線」構想の現在/先行きが見通せない北陸新幹線の新大阪延伸/西九州新幹線に立ちはだかる佐賀県の「正論」/整備新幹線の建設スキームは曲がり角に/新幹線の基本計画路線は、全部建設されるのか?/国交省が検討する「新幹線の効率的な整備手法」とは/北海道新幹線の旭川延伸と北海道南回り新幹線の可能性/羽越・奥羽新幹線実現の突破口はどこに?/北越急行がミニ新幹線になる?「新潟県内鉄道高速化」のゆくえ/四国新幹線計画は「十字型ルート」で4県が合意したが…/山陰・伯備新幹線を実現させる方法はあるか?/東九州新幹線は「日豊線ルート」と「久大線ルート」、どちらに?

5章 地方鉄道の未来
滑り出し好調な宇都宮ライトライン。延伸計画も加速/那覇でもLRT計画が具体化。その全貌とは/広島の新たな玄関口に路面電車が乗り入れる/各地で進む路面電車延伸計画の現状は?/広島アストラムライン延伸、最後の新交通システム建設に?/熊本空港アクセス鉄道、ついに実現へ/新千歳空港駅大改良で空港アクセスの利便性が向上/「沖縄鉄軌道」で、沖縄本島の公共交通が激変/富士山登山鉄道構想、日本最高所への路線は誕生するか?/ひたちなか海浜鉄道、廃線間際からの延伸実現/城端線と氷見線の再構築事業はローカル線維持のモデルとなる?/「ローカル線の再構築事業」とは/再構築協議会の設置を自治体が警戒する理由/肥薩線「八代─人吉間」、土壇場からの復旧実現/近江鉄道の存続を沿線自治体が選択した事情/北陸鉄道、「バス転換不可能」で存続へ

6章 車両ときっぷの未来
最後の寝台特急車両「サンライズエクスプレス」の見えない将来/特急「やくも」新型車両から読む「鉄道の未来」とは/非電化区間に新タイプの車両が続々。液体式気動車は絶滅危惧種に?/新幹線、在来線、私鉄…新型車両導入の動向は?/ワンマン運転からドライバレス運転への移行状況は?/「みどりの窓口」縮小を進めるJRの事情とは/鉄道各社が磁気券をQRチケットに切り替える理由/クレジットカードのタッチ決済も全国へ拡大/交通系ICカードはさらなる進化を遂げる/顔認証に無線通信認証…タッチレス改札が次々登場

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過去と未来

鉄道の建設・運営は、国の政策の影響を強く受けます。したがって、国の方針を確認すれば、未来の鉄道の姿を、ある程度は予見できます。そのため、本書では、国交省の有識者会議の答申やとりまとめ、それに基づいて制定されたガイドラインなどをベースにして、鉄道の将来像を見通す形にしました。個々の計画については、地方自治体や鉄道事業者などが作成した資料を参照しています。

未来を語るには、過去を振り返る必要もあります。鉄道プロジェクトは一つ一つに長い経緯があり、構想から実現まで数十年かかることも珍しくありません。10年後を見通すには20年前から振り返る必要があります。たとえば新幹線の基本計画路線については、実現性はさておき、基本計画策定から50年という長い歴史を尊重して、建設運動のある路線についてはできるだけ触れました。

JRには、国鉄分割民営化という重い歴史があります。国有財産を継承した経緯を尊重するならば、利用者の少ないローカル線とて、簡単に切り捨てるわけにはいきません。そうした事情を改めて確認するために、ローカル線の再構築を説明する項では、20年以上前の国会答弁を紹介しています。

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ローカル線の未来

ローカル線については、急激な人口減少という、分割民営化時におそらく想定していなかった時代を迎え、いつまでも過去の枠組みにとらわれ続けることができない状況になっています。今後、利用者の極端に少ないローカル線で廃止が進むのは避けられません。

一方で、バスの運転士不足という深刻な問題が広まっています。鉄道を廃止してもバス転換ができないという、こちらも過去に予測できなかった時代が訪れました。

鉄道でも運転士は不足していますが、列車には少ない人員で多数の利用者を運べる利点があります。自動運転へのハードルも、バスよりは低いでしょう。

一方で、保線要員の確保はバス事業者にはないハードルです。今後のローカル線議論では、鉄道をできるだけ維持する前提を置きつつも、いかに維持・活用するかについて、知恵を絞るようになっていくのではないでしょうか。

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建設・維持が目的ではない

本書では2050年までの未来を記しましたが、人口減少はその後も続きます。インバウンドは増えるでしょうが、受け入れ能力には限界があり、いずれ頭打ちとなるときが来ます。鉄道新線建設のハードルは上がっていき、建設できる区間は限られていくでしょう。

鉄道新線には夢がありますが、現実をみれば、既設線の維持・更新で手一杯になっていく可能性が高いといえます。

いうまでもなく、鉄道は建設、維持それ自体が目的ではありません。まちづくりに組み込んで、誰もが利用しやすい公共交通を提供することが重要です。今後とも、日本全国の鉄道ネットワークが広く維持され、より使いやすい形に進化していくことを願ってやみません。(鎌倉淳)


『鉄道未来年表』9月25日発売!

いつ、どこに新線が開業する? 最高速度はどこまで伸びる? 将来消える可能性がある路線は?……鉄道は5年後・10年後・20年後にどう変化するか。そのスケジュールと変貌の中身を浮き彫りに!
鉄道未来年表カバー

【本書の内容構成】
序章 鉄道未来年表 2025~2050
1章 人口減少時代の鉄道の未来
2章 東京圏の鉄道の未来
3章 大阪圏の鉄道の未来
4章 新幹線と並行在来線の未来
5章 地方鉄道の未来
6章 車両ときっぷの未来

鉄道未来年表 5年後 10年後 20年後』(鎌倉淳著)河出書房新社より、9月25日発売!

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