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JR羽田空港アクセス線「二重加算運賃」検討か。西山手ルート分、開業前に設定も

「新たな利用者負担制度」の適用示唆

JR羽田空港アクセス線について、西山手ルートの加算運賃が開業前に設定されるかもしれません。小池百合子都知事が、都議会の答弁で示唆しました。その場合、東山手ルート開業後に、西山手ルート分も含めた「二重加算運賃」が設定される可能性があります。

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羽田空港から3つのルート

羽田空港アクセス線は、JR東日本が計画している鉄道新線です。東海道貨物線の一部を旅客化しつつ、新線も建設し、羽田空港新駅から東京駅、新宿駅、新木場駅などに直通列車を運行する構想です。

計画では、羽田空港新駅から東京貨物ターミナルまで約5.0kmの「アクセス新線」を建設し、そこから新橋駅方面への「東山手ルート」、大井町駅方面への「西山手ルート」、東京テレポート駅方面への「臨海部ルート」の3ルートを建設します。

すでにアクセス新線と東山手ルートは着工済みで、2031年度の開業予定です。臨海部ルートは東京臨海高速鉄道りんかい線の車庫線を活用するので、大規模な土木工事を必要とせず、東山手ルートと同時期の開業が見込まれています。

残る西山手ルートは、東京貨物ターミナルとりんかい線大井町駅付近との間に短絡線を建設し、りんかい線、埼京線方面に乗り入れます。既存の地下トンネルに新トンネルを接続する大工事となりますが、まだ事業化がされていません。

JR羽田空港アクセス線
画像:JR東日本

 
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「新たな利用者負担制度」適用示唆

西山手ルートの建設は、これまで大きな進捗が伝えられていませんでした。しかし、小池都知事は2025年2月26日の東京都議会で、東村邦浩議員(公明党)の質問に対し、「政府提案要求や国の検討会などの場において、都市鉄道の整備に必要な財源確保を含む整備促進策を要請し、国からは新たな利用者負担制度の方向性などが示されたところ」と答弁しました。

「新たな利用者負担制度の方向性」とは、2024年6月に示された、『今後の都市鉄道整備の促進策のあり方に関する検討会 とりまとめ』を指しているとみられます。

このとりまとめでは、新線の加算運賃制度について、受益の範囲を広くとり、整備区間外でも運賃を上乗せできることを盛り込みました。また、運賃を上乗せできる期間も開業前に広げます。

これまでの新線建設に係る加算運賃制度は、原則として開業後に整備区間で加算運賃を設定する仕組みでしたが、今後は、開業前に整備区間外で加算運賃を設定できることになります。

知事が、答弁であえて「新たな利用者負担制度」に触れたということは、この制度を西山手ルートに適用する方針を示唆したと解釈できるでしょう。

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西山手ルートの加算運賃の設定

では、西山手ルートを建設する際に、どこに事前の加算運賃を設定するのでしょうか。

新制度では、加算運賃を「受益すると認められる利用者から収受」することが認められます。羽田空港アクセス線の場合、「受益すると認められる利用者」が空港旅客を指すことに異論はないでしょう。

となると、JR羽田空港アクセス線の東山手ルートの新橋~羽田空港間が、西山手ルートの事前加算運賃の適用範囲として認められる可能性は高いといえます。

つまり、東山手ルート開業後に設定される新橋~羽田空港間の加算運賃を、東山手ルートやアクセス新線の建設費の償還に充てるほか、西山手ルート建設にも使用できる、ということです。

東山手ルート分の加算運賃は事後徴収、西山手ルート分の加算運賃は事前徴収という、「二重加算」ともいえます。

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加算運賃はいくらになるのか

JR羽田空港アクセス線の距離は、東山手ルートが7.4km、アクセス新線が5.0kmの計12.4kmです。東京~羽田空港間は、約17kmになるとみられます。

JR東日本の17kmの現行運賃は電車特定区間で320円ですが、2026年に電車特定区間が幹線と統合され、値上げとなるので、350円となります。つまり、JRの東京~羽田空港間を運賃表に当てはめると350円が予価となります。

いっぽう、2023年に値上げを実施した京急の品川~羽田空港間は330円、都営浅草線日本橋~羽田空港間は590円です。また、東京駅~羽田空港間のリムジンバスの運賃は1,200円です。

これらと比較すると、JR東日本が運賃表通りの価格設定をすると、他社に比べ圧倒的に安くなってしまうので、加算運賃を設定する余地は広いと言えます。

おそらくは250円程度の加算運賃を設定し、東京~羽田空港間の運賃を600円、グリーン車(750円)利用で1,350円くらいにして、京急やリムジンバスと価格のバランスを取るのではないでしょうか。

その潤沢な加算運賃の一部が、西山手ルートの建設費にも充当できるようになる、というわけです。

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事業スキームの具体化へ

都議会での答弁で、都知事は西山手ルートについて、「本年度からは国の助言や協力を得ながら事業スキーム等の具体化に必要な検討を実施していく」とも述べました。

東山手ルートとアクセス新線は、空港島内の基盤施設を国が整備するものの、基本的にはJR東日本の単独事業です。これに対し、西山手ルートや臨海部ルートでは、りんかい線を活用することから、その運営会社である東京臨海高速鉄道と役割分担について協議が必要です。

ただ、知事のいう「事業スキームの具体化」が何を指すのかは、現段階で明確ではありません。おそらくは、短絡線部分をJR東日本が整備し、りんかい線に乗り入れる形を取るのだとは思います。

しかし、ひょっとすると、東京臨海高速鉄道を第三種事業者とする上下分離として、短絡線を整備する可能性もある、ということかもしれません。

なんであれ、これまであまり進捗が伝えられていなかった西山手ルートが、これから実現に向け動き出すことは確かなようです。(鎌倉淳)

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