福岡地下鉄・西鉄貝塚線直通運転はなぜ頓挫したか。半世紀の夢も実現遠く

このままお蔵入りか

福岡市営地下鉄箱崎線と西鉄貝塚線の直通運転計画が凍結となりました。乗り入れ計画の概要と、頓挫した理由を見てみましょう。

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1971年に計画

福岡市営地下鉄箱崎線は中洲川端~貝塚間4.7kmを結ぶ路線。西日本鉄道貝塚線は貝塚~西鉄新宮間11.0kmを結ぶ路線です。

両線の直通構想は、地下鉄建設前から存在します。1971年の都市交通審議会答申第12号で、「都心部から箱崎方面に至る路線(現地下鉄箱崎線)の新設」が必要とした上で、「西鉄宮地岳線(現貝塚線)との直通運転についても検討する必要がある」と記されました。つまり、地下鉄箱崎線は建設検討段階から西鉄との直通運転を想定していたわけです。

1985年に西鉄貝塚駅を現在地に移転し、翌1986年に地下鉄が貝塚駅まで開業。両線は将来の直通運転を想定し、進行方向で向き合う同一平面のホームとなりました。しかし、宮地岳線は最大3両編成対応のため、6両編成の地下鉄が入るにはホーム長が足りません。そうした課題があり、直通運転の実現は先送りされ続けてきました。

動きが出たのは1997年。福岡都市交通問題協議会で、福岡市と西鉄が相互直通運転の実現に向けて検討を行うことで合意。このときは、貝塚~西鉄香椎間3.6kmが相互直通運転区間とされました。

1999年には国の都市鉄道調査の対象となり、事業化に向けて、資金の調達方法や需要喚起策、運行経費の低減などが課題とされたものの、結局、着工には至りませんでした。

西鉄・福岡地下鉄地図
画像:福岡市

3両、2両の直通案

2002年には、福岡市議会で、西鉄三苫まで地下鉄箱崎線を乗り入れる趣旨の請願を採択(三苫までが福岡市内のため)。2006年には西鉄香椎駅付近の立体化が完了。一方で、2007年には、宮地岳線の西鉄新宮~津屋崎間9.9kmが廃止されてしまいます。このとき、路線名が貝塚線へ変更となっています。

2010年になり、福岡市が3両編成での直通案を発表。このときも三苫までの乗り入れ案でしたが、後に天神~西鉄新宮間を直通する乗り入れ案に修正しました。しかし、費用対効果や、地下鉄線内の利便性の問題から断念します。

そして2017年度に公表されたのが2両増結・分離案です。4両+2両の6両編成の車両を製造し、貝塚駅で増結・分離し、2両のみが西鉄線内に乗り入れるという計画です。

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現状の乗り継ぎ

これらの案を比較してみると、以下のようになります。まず、現行は、地下鉄区間は6両編成で、西鉄区間は2両編成の列車が走っています。

貝塚駅で西鉄線と地下鉄を乗り継ぐ旅客は1日12,747人(2019年度)で、近年は増加傾向です。

福岡地下鉄・西鉄乗り継ぎ
画像:福岡市

西鉄貝塚線

3両乗り入れ案

3両乗り入れ案では、3両編成の車両が天神・中洲川端~西鉄新宮間を直通します。天神駅には折り返しホームを増設します。

この場合、単年度収支は0.1億円の黒字と見込まれ、約99%の公的資金を充当した場合、開業30年後に累積収支で黒字化が可能です。しかし、初期投資として260億円が必要で、費用便益比(B/C)は0.6と試算され、基準の1に届きません。

福岡地下鉄・西鉄3両乗り入れ案
画像:福岡市

この案では、箱崎線から乗車して天神以西に行く場合は利便性が低下するという難点もあります。福岡市の調査によると、貝塚線から乗車し天神までのいずれかの駅で下車する人は1日5,230人で、箱崎線から乗車し天神より西の駅で下車するのが同6,423人(2015年度推計)です。

つまり、3両案では、直通のメリットを受ける人よりも乗り換え増のデメリットを受ける人のほうが多いことになります。こうなると、直通運転をする意義が問われてしまいます。

3両編成が姪浜まで走ればそのデメリットが解消しますが、空港線内での輸送力が不足します。

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増結・分離案

そこで浮上したのが、増結・分離案です。4両+2両の車両を製造し、地下鉄線内を6両または4両、西鉄線内を2両で運行するというものです。西鉄新宮~姪浜の直通運転列車は、終日で片道58本相当を見込みます。おおむね毎時4本です。

福岡地下鉄・西鉄増結・分離案
画像:福岡市

この場合、ホーム改良工事の費用が少なくなりますし、箱崎線から天神以西への利便性も変わらず、空港線内の輸送力も保てます。

ただし、貝塚駅での列車の増結・分離作業に時間と人手が必要となります。増結・分離のイメージは下記の通りです。

増結・分離イメージ
画像:福岡市

増結・分離にかかる時間については、増結に5分、分離に2分が必要と見積もっています。一方、現状のダイヤでは、地下鉄と貝塚線の乗り継ぎ時間は5分以内が8割ということもあり、直通による時間短縮効果は、1.3分にとどまるという計算になりました。

増結・分離案は、設備投資費用が少ないとはいえ、駅構内の改修や、貝塚駅での待避線設置、ホームドアの4両対応などで約108億円がかかります。さらに76両の車両費が約47億円で、合計約155億円と見積もられました。

一方で、便益については、所要時間短縮による利便性向上の便益が約32億円にとどまったため、合計でも約44億円で、費用便益比(B/C)は0.42と低い数字になりました。単年度収支に関しても約2.6億円の赤字が見込まれ、累積損益で黒字化ができません。

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補助基準を満たさず

西鉄貝塚線と地下鉄全線を合わせた利用者数は、2017年で1日463,500人。沿線の人口は増加傾向で、開発も進んでいるため、2035年には1日約48,000人の利用者の増加を見込んでいます。両線が直通運転を行った場合、さらに1日800人の増加を見込みます。

とはいえ、増結・分離案でも費用便益比は1に全く届かず、累積資金収支も発散してしまいます。事業化には国土交通省の都市鉄道利便増進事業の補助を受けることが前提ですが、これらの数字では補助採択基準を満たすことはできません。

さらには、新型コロナ禍を受け、西鉄が「新たな投資については現段階では困難な状況」との意向を示すに至りました。当事者である西鉄が投資に後ろ向きな姿勢に転じてしまったわけです。

こうしたことから、福岡市は「将来的な直通運転化も視野に入れながら、当面は、沿線まちづくりを推進しつつ、より使いやすい公共交通となるよう利便性向上策などの検討に取り組む」という方針に転じました。役所言葉で回りくどいですが、要するに直通運転計画を凍結することになったわけです。

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西鉄香椎案

増解結をすれば、手間と時間がかかり直通の効果が減衰してしまいます。結果として利用者の便益が下がり、投資に見合う効果が得られなくなるというわけです。

こうした難しい検討をしなければならなかった背景として、西鉄貝塚線のホーム長の問題があります。6両編成の地下鉄は西鉄貝塚線に入れません。

ただ、西鉄香椎周辺の高架区間は将来の6両編成に備えた設備になっています。となれば、まずは西鉄香椎までの6両乗り入れを優先し、西鉄香椎で2両編成の西鉄新宮行きに対面乗り換えにしたほうが、直通運転のハードルが低く、乗客の利便性向上にも資するのではないか、と考える人も多いでしょう。

この案はすでに検討されているはずですが、試算などは公表されていません。とはいえ、西鉄側の直通区間が3.6kmでは、得られる効果が小さく、補助基準を満たすのは難しい気がします。

また、地下鉄側の設備投資負担が小さいのに比して、西鉄側の負担が重いという側面もあります。6両対応は西鉄にとって大きな投資になりますが、わずか3kmあまりの直通ではそれに見合うリターンが得られそうにありません。

残念ながら

2両+4両増結・分離案は、西鉄側の負担が軽いという視点で見れば、現実的な検討でした。しかし、採算面で無理だというのであれば、残念ながら、この直通運転構想は、当面は実現不可能である、という結論になってしまいます。

都市交通審議会答申第12号から50年。半世紀を経て実現できないまま、地下鉄・西鉄直通運転構想は、このままお蔵入りとなってしまうのでしょうか。

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