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日本一の長距離路線バス「八木新宮線」に乗ってみた。廃止の危機ですが、旅行者の人気は上昇中

日本一の長距離路線バスとして知られるのが、奈良交通の「八木新宮線」。走行する「八木新宮特急バス」の名称でもおなじみです。近鉄の大和八木駅と、JR紀勢本線の新宮駅間を結び、全長166.9km、停留所の数は167箇所、所要時間は6時間29分かかります。高速道路を使わない路線バスとしては、日本最長距離、最長時間を走行するそうです。

この路線バス、じつは「廃止議論」があります。運行する奈良交通が、赤字を理由として自治体に運転区間の縮小や廃止を打診していたのです。結局、地元自治体が新たな補助金を出して当面の運行継続が決まったのですが、慢性的な赤字体質が続くならば、いつ廃止になってもおかしくはありません。

廃止議論が出てから、八木新宮線の注目度はかえって高まったようで、「乗り通し」をする人も増えているようです。筆者も、9月の平日に訪れてみました。

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狭隘区間は減った?

八木新宮線は、現在1日3往復が運行されています。このうち、大和八木駅を9時15分に発車する便を利用すれば、大阪や名古屋から日帰りすることができます。筆者もこの便に乗ってみました。

八木新宮特急バス

バスは大和八木駅を出てから、近鉄南大阪線の高田市駅、近鉄御所線の御所駅、JR和歌山線の五条駅に立ち寄ります。大和八木から御所までは都市郊外で、御所からローカル色が強くなり、五条を出ると、山岳道路である国道168号線十津川街道に入ります。

十津川街道は、隘路で有名です。筆者がこの区間に初めて乗ったのは1989年だったと記憶していますが、途中でバスが脱輪してしまいました。バスの車輪は大きいので、側溝に落ちても簡単に脱出できたので問題はありませんでしたが、路線バスが脱輪した経験は、後にも先にもこの一度だけです。

その後、何度かこの道をバスやマイカーで走ったことがあります。今回は十年ぶりくらいの走行になりますが、以前と比べると、隘路区間は減ったように思えます。大型車同士のすれ違いができない場所は多く残されているものの、バスと乗用車のすれ違いなら可能な区間がほとんどでした。かつて存在した超狭隘区間の多くは、トンネルなどでショートカットされたようです。

八木新宮線隘路

30年前より46分も所要時間が延びていた

では、昔と今とで、バスの所要時間はどのくらい短縮されたのでしょうか。手元にある1984年の時刻表を見てみると、驚いたことに、現在のほうが時間がかかっています。1984年は、大和八木駅8時35分発新宮駅14時18分着で、所要時間が5時間43分。現在は9時15分発15時44分着で6時間29分。46分も遅くなっているわけです。

これには理由があります。まず、当時と現在とではバスの経路が若干異なり、当時の特急バスは湯ノ峰温泉に寄りませんでした。また、新しくバイパス道路ができて時間短縮できそうな区間も、バス停が旧道にあるため立ち寄らなければならないケースがあり、そうなると所要時間の短縮になりません。さらに、現在のバスは途中休憩を計40分とりますが、かつてはそれほど長く休まなかったようです。とはいえ、こうした事情があったとしても、四半世紀前と今とで所要時間短縮がみられないことには、やはり驚かされます。要するに、筆者の感覚とは違い、道路事情はあまり改善されていないのでしょう。

現時点でもっとも隘路なのは、熊野本宮から湯ノ峰温泉に入り、川湯温泉に抜ける部分と思われます。かつての特急バスは経由しなかった区間です。マイカー同士のすれ違いすら困難な超狭隘区間が続きました。この区間を経由しなければ、20分程度は所要時間の短縮が望めるでしょう。しかし、それでは湯ノ峰温泉や川湯温泉へのアクセスが不便になります。昔は、特急バスが立ち寄らなくても、「急行バス」が立ち寄ってくれていたのですが、今は急行バスは存在しません。特急に集約されてしまっているのです。

八木新宮線湯ノ峰温泉

紀伊半島豪雨の爪痕

さて、十津川街道の沿線は、2011年の紀伊半島豪雨で甚大な被害を受けました。今もその爪痕は残っています。国道168号線も土砂崩れなどで分断されてしまいました。

八木新宮線災害跡

復旧工事はまだ終わっておらず、新しい道路が作られた区間もありますし、まだ仮復旧の区間もあります。新しい道路は要塞のように堅固です。こうした道路を全区間に通せば、十津川エリアの道路状況は劇的に改善するでしょう。

しかし、高規格道路を通すには巨費が必要です。災害復旧は大切ですが、どこまで立派な道路にするべきかは、議論があるところでしょう。

八木新宮線新道

途中で食事する時間はなし

八木新宮特急は途中で3回の休憩を挟みます。五条バスセンター10分、上野地20分、十津川温泉10分です。上野地は有名な谷瀬のつり橋のすぐ近くですので、見学して途中まで渡るくらいの時間はあります。

八木新宮線谷瀬のつり橋

ただ、いずれの休憩時間も食事をするほどの余裕はありません。また、6時間半の全行程で、トイレに行けるのもこの3回だけです。よって、道中で飲食をするには勇気が要ります。

筆者も結局、持参したお茶のペットボトルを、3分の1ほど飲んだだけでした。何も食べないから疲れてきたのか、それとも数時間座りっぱなしだからか、理由はわかりませんが、最後のほうはかなり疲労してきました。

6時間半の旅を終えて、新宮に着いたときは、「やっと着いた」の思いのみ。運転手さんも、交代なしのぶっ続けです。お疲れ様でした。

八木新宮線新宮駅

乗り通したのは5人

この日、八木新宮特急を乗り通したのは5人。いずれもバスファンと見受けられます。ファン以外の乗客の利用は、最混雑区間でも10数名で、しかもそれは御所市内でした。五条以南では、混雑したときで10名程度の乗車数。十津川温泉以南は、5人のファン以外での乗降は全くありませんでした。つまり、バスファンがいなければ、乗客ゼロの区間です。

たった1回乗っただけで全てを判断することなどできないことは承知の上で、あえて感想を言えば、このバスの役割は、五条駅~十津川温泉間に限られている気がします。大和八木駅~五条駅は一般の市内バスにしてしまったほうが多くの利用者である地域住民には便利だと思いますし、十津川温泉~熊野本宮間はミニバスで十分な輸送量にみえます。熊野本宮以南は、奈良交通がバスを走らせる意味があるのか、と考えこんでしまいます。

大和八木駅発になっているのは、近鉄特急との接続が考慮されているのだと思いますが、現在、そんな利用者がどれだけいるのでしょうか。行政が補助金を出して運行するのであれば、もう少し合理的な運行形態があるのではないか、というのが正直な感想です。

とはいえ、最近の路線バスブームの追い風もあり、旅行者には人気が出てきました。筆者が旅行者として乗ってみた感想としては、「乗り通しの充実感」がありまくりなのは事実です。関西都市圏の大和八木から路線バスに乗るだけで、紀伊半島の過疎地を経て太平洋岸の都市・新宮まで行けてしまうことの不思議さも実感することができます。これは、他路線ではなかなか味わえない感覚です。

路線バスは、乗車地の空気をどことなく残したまま終点まで連れて行ってくれます。八木新宮線は、その醍醐味を味わえるバス路線といえます。もっと観光的な人気が出て、路線が維持されていくことを願いたいものです。

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