ローカル線「廃止の目安」は輸送密度2000~4000人。鉄道会社が意見表明

やっぱり特定地方交通線基準

利用の少ないローカル線の廃止の目安として、輸送密度2,000人~4,000人を目安としている鉄道会社が複数存在することがわかりました。国交省のアンケートで答えているものです。

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「地域モビリティ刷新検討会」資料

国土交通省は、2022年4月18日に開かれた「第3回鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」の資料を公表しました。そのなかで、「鉄道事業者へのアンケート調査」についてとりまとめた資料があり、複数の鉄道会社が回答しています。

回答した会社名は明らかにされていませんが、他の回答も含めて内容を読み解けば、JR各社も回答していることがわかります。つまり、国交省が実施したアンケートに対し、JR各社を含めた鉄道会社が匿名で答えた回答、ということになります。

アンケートには、「鉄道の維持が困難、又は他モードへの転換が適切であると考える基準やその根拠」という問いがあり、各社が「ローカル線の廃止の目安」について回答しています。その内容を見ていきましょう。

三江線

特定地方交通線基準

まず「鉄道特有の機能が発揮できない線区については、他の交通モードにより鉄道と同等のサービス提供が可能だと考えられる」という回答が先頭に掲げられました。輸送量が少なければバスで代替できるというシンプルな話で、バス転換を進める場合の根拠としては代表的な考え方です。

その基準として複数の会社が提示したのが、国鉄再建法で示された特定地方交通線基準です。

「輸送密度4,000人未満はバス輸送が効率的であるとする国鉄再建法で採用された基準があり、今もなおこの基準は参考とすべき基準であると認識している。その上で、特に輸送密度2,000人未満の線区でかつ、ピーク時1時間あたり片道1,000人以上という当時の除外要件に該当しない場合は、明らかに大量輸送という鉄道の特性が発揮できていないため、他のモードへの転換が適切である」

国鉄末期の特定地方交通線の廃止基準を、令和時代にも適用すべきという考え方です。第3次特定地方交通線の輸送密度4,000人を目安としながらも、とりあえず第2次基準の2,000人未満で、ピーク時の輸送量が小さい区間について優先的に存廃を検討したいということです。これは、JR側の代表的な意見に感じられます。

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赤字額も指標に

輸送密度だけでなく、赤字額も指標になるという回答もありました。

「国鉄が鉄道を維持する基準として示した『輸送密度4,000人/日』が一つの指標とは考えられるが、(中略)事業収支といった観点が指標の一つとなってくる」

これは、第3次特定地方交通線の水準である4,000人を基準としながら、さらに収支、すなわち赤字も勘案するという考え方です。この考え方に基づけば、特急が走る地方幹線の一部も廃止候補になってしまうでしょう。

ただ、地方幹線をすぐに廃止するのはさすがに難しい気もします。それに関しては、次のような回答がありました。

「基本的には輸送密度(目安として 2 千人以下)によるものと考えているが、それ以上の場合でも、公有民営化等により事業者の負担を軽減しても経営が維持できない場合には、輸送力等の各種の要件を考慮して、利便性が高く安価な他モードへの転換を図るべきと考える」

つまり、2,000人以上の区間で赤字が大きい区間では上下分離を実施し、それでも経営が維持できない場合にバス転換を検討すべき、という意見です。これも、地方幹線を抱えるJRが望むところでしょう。

「営業係数」は不統一

ローカル線の赤字については、営業赤字が指標として用いられるのはもちろんですが、「営業係数」も広く参考にされています。100円を稼ぐのにいくらかかるのか、という数字です。

それについて、「営業係数(線区別の収支分析)は各社独自の基準でなされており、他事業者間で比較できないことからその基準を策定する必要がある」という回答がありました。

鉄道各社間で「営業係数の基準」が異なるという、興味深い指摘です。

営業係数は国鉄時代にはよく使われた指標ですが、JRになってからはあまり使われなくなっています。背景として、収支分析の基準が各社間で統一されていないという理由があるのかもしれません。

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一律の基準への疑問

輸送密度や赤字額だけで判断するべきではない、という意見も当然あります。

「昭和50年代の国鉄改革の時のように輸送密度等の一律の基準で交通モードの転換を強いることのないようにすべき」という回答は、その代表例でしょう。

国鉄改革時の特定地方交通線の廃止基準は硬直的で、たとえば伊勢線のように、当時からみても不合理に思える路線が指定されています。また、勝田線のように活性化を検討すればよみがえりそうな路線も、有無を言わせず廃止に追い込まれました。

「沿線自治体、関係団体、地域住民等の声をしっかり踏まえ、利用促進を含め、そのあり方を検討すべき」というのは、その反省を踏まえたものでしょうか。

より具体的な指摘としては、次のような回答もあります。

「鉄道施設等の老朽度合いなど、様々な条件を総合的に勘案しながら議論を行うべきと考える。なお、同一路線の中でも、区間により大きく状況が異なる場合もあり、(中略)路線全体のほか、区間別のデータも考慮いただきたいと思う」

路線名を基準にして、ひとまとめにして廃止したのも特定地方交通線の問題点で、それを踏まえた指摘といえそうです。

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便益と費用の比較を

輸送密度や赤字以外には、どのような情報に着目すべきなのでしょうか。それに対しては、「鉄道を維持することにより享受する便益と、コストを比較して判断することも重要」という指摘がありました。

「便益については、旅客収入のみならず、移動に伴う飲食や観光産業等の間接効果、ネットワーク形成による経済波及効果、また、高齢者や通院等の移動手段の提供等、福祉行政への貢献も含めて算出し、費用と比較するべき」という意見です。これは、鉄道を輸送量だけでなく、総合的に評価する指標が必要ということで、自治体からもよく指摘される視点です。

この視点をJRが主張するということは「経済波及効果や福祉への貢献に対応する赤字は行政が負担して欲しい」ということの裏返しでもあるでしょう。

一方で、「交通モードの適切性については、輸送量に加え、沿線人口の推移や流動特性、高規格道路等の道路整備など各線区の特状を総合的に判断する必要がある」という回答もありました。いまの輸送量もさることながら、将来を見通して人口減少が著しく、道路整備が進んだ区間では廃止も視野に入れるべき、と読み取れます。これは、自治体に対してやや厳しい主張です。

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少子化の進行を見据え

「子供の通学の需要がなくなるほど少子化が進行した場合、老人の通院及び買い物についてはバスなどで対応できると思われるので、子供が沿線地域からいなくなれば他モードへの転換が適切であると考える」という、具体的かつ冷静な指摘もありました。

通学輸送に関しては、「通学時間帯だけに輸送が集中するといった輸送実態に鑑みると他モードへの転換が困難であると考えられるケースもあり、他モードへの転換だけでなく、事業形態変更による鉄道の存続の是非も含めて、地域とともに個別検討していく必要がある」という回答もありました。

これは、通学輸送がメインなら地元出資の第三セクターでやってくれ、とも読み取れる内容で、やはり突き放した回答に感じられます。

環境負荷が高い路線

新たな視点としては、「CO2排出の観点からも、極端にご利用が少ない場合には、バス等の方が環境優位性が高い」という回答がありました。

先日、JR西日本が、ローカル線の収支を開示した際にも同様の説明がなされていますので、同社の意見でしょうか。鉄道の環境優位性は一定以上の利用が前提で、極端に利用が少ない路線では、かえって環境負荷が高くなる、という指摘です。

輸送密度が非常に低い路線を廃止する際の、理由付けの一つにはなりそうです。

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新たな指標を

以上が、鉄道会社へのアンケートに書かれた、「鉄道の維持が困難、又は他モードへの転換が適切であると考える基準やその根拠」の概要です。重ねて書きますが、これは「JRを含めた鉄道事業者へのアンケート」であって、全ての回答がJRによるものとは限りません。

端的にまとめると、特定地方交通線の2,000~4,000人が基準として望ましく、線区特有の条件も加味する、ということでしょうか。

ただ「2,000~4,000人」の根拠については「明らかに大量輸送という鉄道の特性が発揮できていないため」という程度しか示されておらず、「国鉄時代にそう定められたから」という、前例踏襲的な印象も受けます。

この数字は、もちろん国鉄時代に議論した末の数字ではありますが、すでに40年が経過しています。令和時代の根拠としては、回答にもあったように、鉄道維持にかかる費用と、維持で得られる便益を客観的に評価する指標が望まれます。

そうした指標を作るのは国の役目であり、今回の「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」の議論の目的の一つでもあるでしょう。どのような結論に行き着くのか、気になるところです。(鎌倉淳)

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