北陸新幹線「敦賀-新大阪」延伸ルートの気になる中身。15年で建設し、143kmを44分で走れるのか?

北陸新幹線「敦賀-新大阪」間の延伸計画の概要が固まりました。京都-新大阪間は南回りで、途中に松井山手付近に新駅を設置します。建設総延長は143km、敦賀-新大阪間の所要時間は44分とされました。

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費用対効果で「松井山手ルート」に

与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームは、2017年3月7日開いた検討委員会で、北陸新幹線の敦賀以西のルートについて、京都-新大阪間で南ルートを取ることを決めました。これで、北陸新幹線の未開業区間(金沢-新大阪)で、全線のルートが決定したことになります。

国土交通省では、京都-新大阪間で、北回りのほか、南回りのうち京田辺駅付近を通るルートや、精華・西木津地区を通るルートについて建設費などを試算しました。その結果を踏まえ、与党プロジェクトチームは、最終的に松井山手駅付近を通るルートが費用対効果に優れていると結論づけました。

北陸新幹線延伸ルート
出典:国土交通省

金沢-新大阪1時間20分

試算を見ると、北陸新幹線の敦賀-新大阪間(南ルート)の建設延長は約143km、概算建設費は2兆1000億円、着工は2031年、想定工期は15年とされています。

開業後の所要時間は敦賀-新大阪間が約44分、福井-新大阪間が55分、金沢-新大阪間が約1時間20分です。運賃・料金は敦賀-新大阪間が5,700円、福井-新大阪間が6,460円、金沢-新大阪間が8,740円となっています。

敦賀-新大阪間の輸送密度は約40,400人キロ/日kmと予測しています。

北陸新幹線南回り
出典:国土交通省

表定速度195km/hは可能か?

気になった点をあげてみましょう。

まず、所要時間です。143kmを44分ということは、表定速度195km/hとなります。最高速度260km/hの整備新幹線なら可能な数字にみえます。

しかし、今回のルートを地上で建設するならば、守口市、寝屋川市、大阪市あたりで住宅地を横断するため、減速運転が必要になるかもしれません。

表定速度195km/hという試算で、減速運転が考慮されているのかは疑問です。寝屋川市-大阪市あたりを地下区間にすれば減速は不要ですが、建設費の内訳が明らかになっていないので、この区間が高架なのか地下なのか定かではありません。

松井山手駅に何本停まるのか

松井山手の新駅に関しては、建設費負担をめぐり、政治的な都合で建設が決まったようにみえますが、JR学研都市線(片町線)沿線の利便性が上がるのは間違いありません。第二京阪にも隣接していて高速道路のアクセスも悪くなく、ここに駅を作ることに異論は少なそうです。

ただ、実際には通過列車も多いとみられます。北陸新幹線の新大阪-金沢間の運転本数は、1時間に2~3本になりそうですが、松井山手に停まるのは半分以下ではないか、と推測します。

東北新幹線の小山駅や、上越新幹線の熊谷駅も、日中は1時間に1本しか停まりません。松井山手駅も同様になりそうです。

また、日本経済新聞に3月8日付によりますと、「松井山手駅周辺は地価が割安で、大規模な用地が必要な車両基地を設けるのにも適している」としており、この近辺に車両基地を作る想定のようです。

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京都-新大阪の特定特急料金は?

運賃・料金については、国土交通省は「開業済みの新幹線と同様の運賃・料金体系」として試算しています。

現在のJR西日本の運賃表にあてはめると、143kmの運賃は2,590円です。敦賀-新大阪の価格の総額が5,700円とするならば、特急料金は3,110円となります。これは、金沢-糸魚川間の運賃・指定席特急料金と同額です。

こうした「試算」は守られないこともあり、とくにJR境界を通る場合に関しては、過去、割増料金が設定されてきました。しかし今回は、全線がJR西日本ということもあり、おおむね北陸新幹線の既開業区間に準じた料金設定になるのでは、と予測します。

新幹線には隣駅間の利用の場合、特定料金が設定されています。東海道新幹線の京都-新大阪間の自由席特急料金は860円です。

北陸新幹線では、京都駅と新大阪駅の間に松井山手駅が入りますので、京都と新大阪は隣駅となりません。そのため、この区間に特定料金が設定されるかは不明です。ただ、設定されなかったとしても、この区間を利用する多くの人は東海道新幹線を使うでしょうから、問題はなさそうです。

建設費は敦賀以北の1.5倍

着工は2031年、想定工期は15年となっています。着工が2031年とされたのは、北海道新幹線開業後でなければ財源を確保できない、という事情からです。ただ、建設を前倒しを求める声もとくに北陸の自治体から出ており、新規財源をひねり出す可能性もあります。

1kmあたり建設費は146億円です。北陸新幹線金沢-敦賀間は、福井県の資料を見ると総工費1兆1,600億円ですので、1kmあたり92億円になります。それに比べると1.58倍です。長野新幹線(高崎-長野)間の70億円からみると、倍以上になっています。高額な理由は、都市部の用地費がかさむからとみられます。

ただ、三大都市圏の市街地に新幹線を建設するのは東北新幹線の東京-大宮以来ですから、費用の見積もりがどこまで適切かは、ふたを開けてみるまでわからないかもしれません。

2兆円という建設費はさすがに巨額なので、敦賀-京都と、京都-新大阪間で工期を分ける可能性も残りそうです。とはいえ、JR西日本は一括開業を望んでいますし、地元政治家も京都暫定開業の長期化を恐れるでしょうから、さまざまな手段を講じて一括開業に突き進むのではないかと予想します。

建設は予定通りに進むか

想定工期15年については、1年あたりおおむね10kmのペースで、数字上の無理はなさそうです。

懸念があるとすれば、市街地での反対運動でしょう。市街地を高架で新幹線を通すとなると、反対運動が起こるのは避けられません。あるいは、京都の地下を掘れば文化財が出てきて、調査に時間がかかることもあるでしょう。

これらへの対応を考えると、15年は十分といえないかもしれません。市街地の鉄道建設が予定通りにいかないのは、過去の事例でも明らかです。

決めた以上は早く建設を

それにしても、北陸新幹線の敦賀以西に関しては、当初考えられたのと全く異なるルートになりました。「松井山手」に駅ができるなんて、3年前に考えていた人がいるのでしょうか。

敦賀以西は、全体的に政治的帳尻を合わせたようなルートになってしまい、正直なところ、もう少し利用者にとって合理的なルートにできなかったのか、と思います。

とはいえ、建設が決まったことは大きな前進です。開業がいつになるのか見通せませんが、敦賀駅での乗り換えが長期化するのは利用者に取ってマイナスですし、決めた以上は早く作ってほしいものです。(鎌倉淳)

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