JR北海道「座席未指定券」の研究。全特急への導入も視野、フリーきっぷはどうなる?

旭川方面に拡大も

JR北海道が「座席未指定券」を導入します。主要4特急の全車指定席化にともなうものです。特急料金は指定席券と同じで、今後、他の特急列車にも広まりそうです。

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座席指定なしで乗車可

JR北海道は、2024年春のダイヤ改正で、室蘭線特急「北斗」(札幌~函館)「すずらん」(札幌~室蘭)と、石勝・根室線特急「おおぞら」(札幌~釧路)「とかち」(札幌~帯広)の4列車について、全車指定席にすると発表しました。

あわせて、「座席未指定券」を導入します。座席未指定券を持っていれば、全車指定席の列車に座席指定なしで乗車でき、空席があれば座ることもできます。ただし、その座席の指定席券を持っている人が現れた場合、席を譲らなければなりません。

キハ261北斗

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座席上方ランプなし

座席未指定券はJR東日本が先行して導入しています。JR東日本では、首都圏特急で「新たな着席サービス」を導入した際に、座席未指定券の制度を創設しました。

ただ、JR東日本の「新たな着席サービス」では、指定席の販売情報を示す座席上方ランプが設置され、その座席が販売済みかどうか、乗客がわかるようになっています。座席未指定券を持った乗客は、ランプを見て空席を判断することが可能です。

一方、JR北海道はそうした仕組みを導入せずに、座席未指定券のみを販売します。したがって、座席指定券を持った乗客は、車内に空席があったとしても、販売済みがどうかわからないまま座るほかありません。

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無人駅や営業時間外を見据えた

JR北海道の座席未指定券の価格は指定席と同じです。つまり、座席未指定券は安くもなく、着席も保証されないので、旅客にメリットはありません。

しかし、使わざるを得ない人はいるでしょう。というのも、JR北海道は特急停車駅に無人駅があるほか、有人駅でも窓口の営業時間が限られているからです。帯広や東室蘭といった主要駅でも、19時台に営業を終了してしまいます。

窓口の代替となる指定席券売機についても、置いてある駅は多くありません。

指定席券売機(話せる券売機含む)のある駅は、石勝線・根室線方面(南千歳~釧路間)で、南千歳、新得、帯広、池田、釧路のみです。室蘭線方面(苫小牧~函館)では、苫小牧、白老、登別、伊達紋別、東室蘭、洞爺、八雲、森、新函館北斗、五稜郭、函館のみです。

北海道新聞電子版2023年11月16日付は、JR北海道の綿貫泰之社長の記者会見を詳報していますが、それによりますと、JR北海道は座席未指定券導入の理由として「無人駅や営業時間外を見据えた」と説明しています。

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自由席特急券の代替として

JR北海道の特急運行線区では、普通列車の少ない区間もあります。そのため、特急列車の自由席を短距離で利用する客も少なくありません。

そうした客は、これまで、駅の自動券売機で自由席特急券を購入し、気軽に乗車することができました。自由席特急券は簡易な券売機でも販売でき、指定席券売機のような高機能券売機を必要としないからです。

「無人駅や営業時間外を見据えた」というJRの説明は、購入しやすい自由席特急券の代替として座席未指定券を導入することを意味しています。手軽に乗車できる制度を残したというわけです。

立席特急券でもいいのではないか、という意見もありそうですが、立席特急券は満席時に列車を指定して販売します。これに対し、座席未指定券は任意の列車に乗車できます。仕組みが異なります。

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「えきねっと」で買えない場合も

JR北海道の特急指定席券は、インターネット予約サイト「えきねっと」でも販売されています。座席未指定券を購入するくらいなら、スマホをえきねっとにつないで、指定席券を買った方がいいでしょう。

とはいえ、えきねっとで買ったチケットは、チケットレス特急券を除き、紙のきっぷを駅で受け取る必要があります。しかし、受け取れる駅は限られていて、窓口か指定席券売機のある駅だけです。その窓口の営業時間が限られているのは、前述したとおりです。

指定席券売機がなく、窓口もない駅もあります。たとえば、トマム駅です。

つまり、トマム発の指定席券をえきねっとで買っても、トマム駅では受け取れません。すると、トマムから思い立って特急に乗ろうとするならば、座席未指定券しか方法がない、ということになります。

こうした事情から、特急列車から自由席を廃止するならば、座席未指定券のような制度を導入せざるを得なかった、ということでしょう。

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導入でどうなるか

車内に空席情報を示す仕組みを導入しないまま、長距離列車で座席未指定券を導入するとどうなるか。

まず、座席未指定券の利用者は、悪意なく適当な空席にすわるほかありません。

しかし、その席が販売済みだった場合、途中駅で指定席券保有者が乗車してきます。指定席券保有者は座席未指定券利用者に声をかけて空けてもらう、という手間がかかります。座席未指定券の利用者は、空席を求めて車内をさまようことになります。

それでも、座席未指定券利用者が事情をよく理解している人ならば、大きな問題はありません。ただ、そういう人ばかりではないでしょう。トラブルは起こりえます。その場合、旅客はストレスを抱え、車掌は負担が増えることになります。

一方、自由席で車掌の検札業務はなくなり、指定席の販売状況を確認しつつ、空席であるはずの席に旅客が座っている場合のみ、検札をすることになります。その点では乗務員の負担が軽減されます。

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旭川方面は?

今回、全車指定席化されるのは4列車にとどまります。もっとも利用者の多い旭川方面の函館線特急「カムイ」(札幌~旭川)「ライラック」(同)に関しては、自由席を削減し指定席を増やすにとどめ、全車指定席化を見送りました。

これについて、綿貫社長は「カムイやライラックについてはまず、指定席の割合を多くし、えきねっとの利用促進をより図っていくなかで、(全席指定席化は)次の段階」と述べています。

一方、「函館方面、帯広・釧路方面について先行して指定席化を行っていく」として、今回の4列車は全車指定席化の「先行ケース」であると説明しています。逆にいえば、旭川方面の全車指定席化も視野に入れていることを示したわけです。

カムイ旭川駅

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石北・宗谷線も

特徴的なのは、短距離特急である「すずらん」も全車指定席にしたことです。綿貫社長は「自由席と指定席が両方ある列車に間違って乗る可能性があるので、方面によって今回、統一した」と説明しており、列車の性格で分類せず、室蘭線特急として「北斗」と足並みを揃えたことを明らかにしました。

となると、旭川方面を全車指定席化するときは、「カムイ」「ライラック」にくわえ、石北線特急「オホーツク」(札幌~網走)や、宗谷線特急「宗谷」(札幌~稚内)も全車指定席化されることになるでしょう。

「オホーツク」「宗谷」が全車指定席になるなら、同じ石北線特急の「大雪」(旭川~網走)や宗谷線特急の「サロベツ」(旭川~網走)も足並みを揃えなければなりません。

つまり、JR北海道が視野に入れている次回の全車指定席化は、旭川駅に発着する6列車でまとめて実施する可能性が高いでしょう。これは、そう遠くない将来に、JR北海道の特急列車が全列車全座席指定席になることを意味します。

その場合、「座席未指定券」も、道内全ての在来線特急に導入されそうです。

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混雑を懸念?

今回、旭川方面を同時に実施しなかった理由としては、推察ですが、全車指定席化による利用状況の変化を見極めたいという事情のほか、窓口や指定席券売機の混雑を懸念したからかもしれません。

指定席券の販売は、自由席券の販売に比べ、窓口での手間がかかります。券売機も指定席対応機種は限られています。

そのため、一気に指定席を増やしすぎてしまうと、とくに札幌駅で窓口や券売機が混雑する可能性があります。こうした懸念から、利用者の多い旭川方面での導入を後回しにしたという可能性もありそうです。

チケットレスエリアも拡大か

その点で注目は、えきねっと「トクだ値」のチケットレス特急券です。現在、JR北海道のチケットレス特急券のエリアは札幌~岩見沢・苫小牧間に限られています。これは、交通系ICカードKitakaエリアと一致します。

そのKitakaエリアが、2024年春に旭川まで拡大します。この拡大を受け、チケットレス特急券も札幌~旭川間に拡大する可能性が高そうです。

その場合、紙のきっぷの受け取りがなくなるので、指定席が増えても、窓口や券売機での混雑が生じにくくなります。つまり、全車指定席化の条件がより整うのです。

Kitakaエリア拡大
画像:JR北海道プレスリリース

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フリーきっぷの扱いは?

利用者として気になるのは、フリーきっぷの扱いです。これについては、JR北海道は記者会見で「今もフリーきっぷで自由席タイプのものは、座席未指定券扱いになっていくのが基本ですが、いずれにしても指定席利用を基本に移行させていこうと考えています」と答えています。

つまり、特急自由席が乗り放題のフリーきっぷは、当面は座席未指定扱いで指定席に乗車できるわけです。

一方で、将来的には指定席利用を基本に据えていくとも説明しているので、いずれ、座席未指定扱いでの乗車ができなくなる可能性もあります。「特急乗り放題」がどこまで維持されるのか、旅行者としては不安な部分といえます。

「特急乗り放題」は今後も維持?

とはいえ、JR北海道では、札幌から離れるにつれ普通列車の本数は減少します。となると、道東や道北で特急指定席の利用回数を制限したフリーきっぷを販売しても、「乗り放題」とは言いがたい、使い勝手の悪いきっぷになってしまいます。

一方、札幌から離れるにつれ、特急の空席は増えます。空気輸送をするくらいなら、フリーきっぷに開放したほうがいい、という判断もありうるでしょう。

そう考えると、座席未指定券制度を取り込んだ「特急乗り放題」のフリーきっぷは、今後も維持されるのではないでしょうか。ただ、特急乗り放題区間は、札幌から離れたエリアに限定されていく可能性はありそうです。(鎌倉淳)

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