新潟県の「高速バス支援」を考える。地方の公共交通をどう維持するかは難しい

新潟県は、2017年度から「高速バス」の県内路線の運行支援に乗り出します。一定の利用者が存在する路線に対し、赤字補填を行うのが柱です。人口減少時代を迎え、高速バスにまで赤字補填を行わなければならない時代になってきたようです。

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2路線が廃止され

新潟県には、現在、7つの県内高速バス路線があります。少し前までは9路線あったのが、2016年9月に新潟-津川・上川線と新潟-村上線の2路線が廃止され、以下の7路線となりました。

長岡線/新潟-長岡 25往復
十日町線/新潟-十日町 2往復
柏崎線/新潟-柏崎 6往復
高田・直江津線/新潟-高田・直江津 12往復
糸魚川線/新潟-糸魚川 2往復
三条・燕線/新潟-三条・燕 12往復
五泉・村松線/新潟-五泉・村松 6往復
(運転本数は平日)

これら存続している路線についても、運行本数は漸減傾向にあります。そのため、新潟県は、2017年度より、赤字補填を含む、高速バスの運行支援の実施に踏み切ります。都道府県が都道府県内の高速バスの運行費を補助するのは、全国で初めてです。

新潟県の高速バスの状況
新潟県の高速バスの状況(出典:新潟県資料)

「ぎりぎり赤字」の路線がターゲット

具体的には、バス路線の収支率(収入に対する費用の割合)が90%以上の場合、一定の条件の下で、県と市町村が50%ずつ赤字を補填します。収支率が90%未満の路線は、県が赤字額の40%を補填し、残りを市町村と事業者などが支出します。

「ぎりぎりで赤字」の路線を主たる対象にして、県が赤字を補填し、県内の高速路線網を維持しようという取り組みです。「赤字が大きい路線」は、県が補填率を減らしますので、いずれ立ちゆかなくなる可能性が高くなります。

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平均乗車密度10人以上

いずれの収支率でも、補助されるには、以下の3要件を満たし、路線確保維持計画を県が認定する必要があります。

・他の交通機関による代替が不十分であること(代替性)
・3年連続で収支率が前年度を下回っている路線でないこと(採算性)
・平均乗車密度10人以上(幹線性)
 ※小型バス車両(定員29人以下)の場合は8人以上、乗合タクシー車両(定員10人以下)の場合は5人以上

このうち、もっとも重要な指標は、「幹線性」でしょう。廃止された津川・上川線と村上線は、過去3年の平均輸送密度が4~8人程度でした。それに対し、現在存続している7路線は、10~18人程度です。

したがって、「幹線性」については、7路線全てが補助の範囲に収まりそうです。このうち、黒字の路線を除く、平均輸送密度10~14人程度の区間が、実際の補助の対象になる見通しです。

JRで代替可能?

高速バス路線といってもさまざまですが、たとえば新潟~長岡間は、仮に廃止されてもJR新幹線も在来線もあります。つまり代替性があります。それ以外の路線も、並行する鉄道路線が存在しますので、いずれもJR線で代替可能な区間にもみえます。

これは廃止された津川・上川線と村上線も同じで、JR線で、ある程度は代替可能な路線でした。

実際、同路線利用者のアンケートで、「他の交通機関の代替性」を尋ねたところ、「代替できる」が16%、「代替できるが乗り換え等があり不十分」が66%で、あわせて8割以上が「代替可能」であったと答えています。

要するに「高速バスがなくても鉄道で行けるけれど、不便」というわけです。実際、JRのローカル線は、中距離の移動に快適とはいえませんし、駅の数は少なく乗りにくいですし、不便というのもわかります。

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JRも内部補助されている

ただ、JRのローカル線も、都市部の黒字による「内部補助」で赤字補填されているという実態があります。「赤字の鉄道」と「赤字のバス」を両方運行させて、双方の赤字に対してそれぞれ補填をするというのも、もったいない気もします。

それならいっそ、高速バスの赤字補填をするより、鉄道への補助を集中させて、鉄道の利便性をあげたほうがいい、という意見も出てくるでしょう。

目的地へ行けない人も

とはいえ、誰もが鉄道を使えるわけではありません。

同じアンケートには、「廃止になった場合の不便」の理由を尋ねる項目もあります。その回答は、「目的地に行くことができない」が26%、「家族に迷惑がかかる」が22%となっています。鉄道を使って目的地へ行くこと自体ができなくなった人も、一定数、存在するのです。

そういう人にも、公共交通のアクセスを残しておく必要があります。単純に、「高速バスをやめて鉄道の利便性向上へ投資を」と、言える話でもありません。

地方の公共交通を維持していくには、税金による何らかの補助が必要な時代になりました。しかし、際限なく補助金を出していたら、自治体の財布が持ちません。鉄道と高速バス、そして地域のコミュニティバスやタクシーを、効率よく組み合わせるネットワーク作りが不可欠です。

と言うのは簡単ですが、最適解を探すのは難しそうです。みなさんはどうお考えでしょうか。(鎌倉淳)

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