JR西日本・真鍋社長発言で見えてきた「北陸新幹線延伸」の最終形。京都~新大阪は大深度地下で、山陽新幹線とは直通せず

北陸新幹線の敦賀以西の延伸ルートについて、JR西日本の真鍋精志社長が独自案の「小浜・京都ルート」を、与党の整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(PT)の検討委員会で正式に提示しました。与党内でも小浜・京都案が有力との声が大きいようで、最終的に「小浜・京都ルート」で固まりそうな状況になってきました。

真鍋社長は、「小浜・京都ルート」の優位性を主張しつつ、「新大阪までの早期開業」を訴えました。その発言内容を精査すると、北陸新幹線の敦賀以西延伸の最終形が見えてきます。

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京都経由の必要性

与党検討委は2016年1月26日に衆院議員会館で開かれ、JR西日本とJR東海からそれぞれ意見聴取がおこなわれました。

JR西日本の真鍋社長は、福井県小浜市と京都市を経由して新大阪に至る独自案「小浜・京都ルート」を検討委で正式提案しました。検討委終了後に報道各社の取材に答え、小浜・京都ルートを提案する理由として「利便性と速達性」を強調しています。

当日、JR西日本が配布した2013年の鉄道旅客流動状況の資料によりますと、近畿2府4県から北陸3県への流動は1日当たり16,300人。うち大阪から北陸圏への流動が9,000人と半分以上を占めますが、京都からの流動はそれに次ぐ4,900人あり、3割を占めています。こうしたデータを元に、北陸新幹線が京都を経由する必要性を訴えたそうです。

E7系

京都駅・新大阪駅とも地下駅か

福井新聞2016年1月26日付によりますと、小浜から京都に至る具体的なルートについては、「小浜から京都駅直通が基本」とし、「京都駅経由で一気に新大阪まで開業するのがわれわれの望み」と述べたとのことです。

京都~新大阪間については、東海道新幹線の代替機能を果たすために「別線が望ましい」としています。駅の設置場所については、「京都駅はおそらく地下が前提になる。新大阪駅も地下が検討の対象になる」と発言したと報じられています。

まとめてみると、JR西日本のイメージは、敦賀駅~(新)小浜駅~京都駅~新大阪駅というルートが基本線で、滋賀県は通過しないようです。京都駅、新大阪駅とも地下で建設し、京都~新大阪間は大深度地下が検討されるでしょう。

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米原ルートは「廃案」か

米原から東海道新幹線に乗り入れる「米原ルート」に関しては否定的です。中日新聞滋賀版1月28日付によりますと、真鍋社長は、「運行システムや地震に対する逸脱・脱線防止システムが北陸新幹線と東海道・山陽新幹線で異なり、それらを統合する技術的な課題がある」と指摘したそうです。

同じ日に聴取に応じた、JR東海の宮澤勝己取締役専務執行役員も「東海道新幹線は大変な高密度で運転しており、到底困難」と否定的な姿勢を示しています。

リニア中央新幹線が2045年に大阪まで延伸すれば、過密ダイヤは解消されるとの見方もあります。しかし、宮澤専務は「先の話で不透明すぎて、論ずる段階でない」と懐疑的。真鍋社長も「あまりに世の中の経済が変わってしまう」として、現段階では将来すぎて議論にならないとしています。

JR西日本とJR東海が足並みをそろえて東海道新幹線への北陸新幹線乗り入れに否定的な見解を示したことで、米原ルートは実現困難になり、廃案の公算が高くなりました。小浜・京都ルートにおいても、京都~新大阪間は別線建設の方向性が示されており、東海道新幹線と北陸新幹線が線路を共有する可能性は低くなったとみていいでしょう。

前述したように、真鍋社長は「北陸新幹線と東海道・山陽新幹線」の運行システムの違いが大きいことを主張し、乗り入れが難しいと強調しています。そこまで踏み込んだ発言をした以上、北陸新幹線と山陽新幹線の乗り入れも想定していないとみていいでしょう。北陸新幹線新大阪駅の地下化を検討していることからも、山陽新幹線との直通運転はなさそうです。

「舞鶴ルート」は一蹴

与党PTの西田昌司委員長が提案している「舞鶴・京都・関空ルート」に関してはどうでしょうか。小浜から舞鶴、京都、学研都市、天王寺を経て関西空港に至るという大胆な案です。

これについて、真鍋社長は、「自治体の要望があるなら、費用対効果や時間短縮効果も踏まえ、データで比較してほしい」と述べました。関西国際空港までの延伸については「関西の玄関口へのアクセスの重要性は認識している」としたものの「整備計画は基本的に大阪まで。一日も早い新大阪までの実現をお願いしたい」とし、消極的な姿勢を見せています。

簡単に言うと、「舞鶴経由は大回り過ぎるし、関空まで通すなんて時間がかかって仕方がないから後にして」と一蹴した形です。

新幹線開業後の並行在来線については、「これから決まるルートによって、地元と協議すると思う」との見通しを示し、並行在来線の第三セクターへの移管が行われる可能性を示唆しました。具体的には、小浜線の小浜~敦賀間の第三セクター移管を想定しているとみられます。

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京都~新大阪は1兆円規模に

JR西日本の小浜・京都ルートの強みは、1973年に作られた政府の整備計画で、経由地として明示された小浜市を通ること。つまり、政府計画における「小浜経由」の条件を満たしている点です。そのうえで、需要の強い京都市を経由し、財政負担を嫌う滋賀県を避けていますので、政治的には優れたルートです。強く反対する都府県が見当たらないため、最終的にはこのルートで決まる流れになってきたとみてよさそうです。

大きな問題は、京都~新大阪間の建設費です。この区間は、大深度で建設するとも報じられていますが、その建設費は試算されていません。京都~新大阪の距離は在来線で39.0km。これを大深度で掘れば、1兆円規模になってもおかしくない大工事となるでしょう。

現在の整備新幹線建設スキームを適用すれば、京都~新大阪間の建設に関しては、沿線である京都府と大阪府に巨額の建設費負担がのしかかる可能性が高くなります。

大阪府の松井一郎知事は2016年1月27日、JR西日本案について「(国が同案に)決定するなら賛成する」と述べています。費用負担の問題は横に置いての発言と思われますが、財政的に大丈夫なのだろうか、という気がしないでもありません。

今回、真鍋社長は、敦賀~新大阪間の全線同時開業を強く求めました。裏を返せば、建設費が膨大になる京都~新大阪間を先延ばしにする「敦賀~京都間暫定開業」を警戒しているわけです。1兆円規模の路線となると、そう簡単に予算は付きませんから、いったん京都暫定開業となれば、長期にわたりそれが固定される恐れがあるからでしょう。

新大阪

新宿~大宮は6,000億円強

ところで、東京~大宮間は、東北、上越、北陸の3方面の新幹線が集中する過密区間です。北陸新幹線が敦賀延伸をし、北海道新幹線が札幌開業を迎えたら、この区間の線路容量はさらに逼迫するでしょう。

この区間に新幹線別線を建設する計画は昔からあります。2005年には、自民党内で、新宿~大宮間の新幹線を地下で建設する検討が行われたことがあり、その建設費は概算で6,000億円強と報じられました。新宿~大宮は営業キロで27.4km、新大阪~京都に比べ3割ほど短い距離です。しかし、いつまで経っても建設されません。

敦賀~京都間が先行して建設されれば、京都~新大阪間は、新宿~大宮間と同じように、長期未成線となるかもしれません。そうなったら不幸ですが、かといってこの区間の建設に巨費を投じることに、多少の疑問を感じざるを得ないのも事実です。

仮に京都~新大阪に北陸新幹線が新規建設されれば、新幹線初の「複々線区間」となります。しかし、それだけに二重投資との批判も伴います。

小浜・京都ルートの成否は、京都~新大阪間の扱いにかかっているといっていいでしょう。(鎌倉淳)

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