沖縄本島を縦断する鉄軌道について、内閣府が2025年度の調査結果を公表しました。糸満~名護の全線を建設する場合、最もB/Cが高かったのはHSSТで0.77。那覇以北のみ建設する場合で0.85でした。前年度から改善したものの、1を下回る状況は続いています。建設費は最大1兆円超に達します。
沖縄鉄軌道の内閣府調査
沖縄県では、那覇市を中心に本島中南部から北部までを結ぶ鉄軌道の導入が長年検討されています。
内閣府は2025年度も「沖縄における鉄軌道をはじめとする新たな公共交通システム導入課題詳細調査」を実施しました。
今回の調査では、これまで検討してきたモデルルートや駅位置、概算事業費を見直したほか、需要予測モデルを更新。事業の費用対効果を示すB/C(費用便益比)などを改めて試算しました。
また、自動運転技術の導入可能性や、観光客の需要を鉄軌道に取り込む方策、鉄道整備に活用できる制度などについても検討しています。

導入課題詳細調査」報告書について』より
HSSТがB/Cトップ
今回、比較対象となったのは、普通鉄道、高速AGT、HSSТの3種類です。
まず、糸満~名護間を全線建設し、空港接続線も加えた場合(糸満~名護+空港接続線)、普通鉄道のB/Cは0.52でした。北部支線(名護~本部)を加えた場合、0.55となりました。
最もB/Cが高かったのはHSSТ(磁気浮上方式リニアモーターカー)でした。
「糸満~名護+空港接続線」で、HSSТのB/Cが0.77。北部支線を加えたケースも0.77となりました。
一方、那覇~名護のみと空港接続線を建設した場合(那覇~名護+空港接続線)、HSSТのB/Cは0.85となり、今回の調査の最高となりました。
ただし、いずれのケースでもB/Cは1を下回っています。
B/Cは、1を上回れば社会的な便益が費用を上回ることを意味します。今回の結果は、前年度調査より改善したものの、現時点では費用に見合うだけの便益を確保できていないことを示しています。

導入課題詳細調査」報告書について』より
建設費は最大1.1兆円
建設費も巨額です。
普通鉄道で「糸満~名護+空港接続線」を建設した場合、建設費は1兆500億円。北部支線を加えると1兆1810億円となります。
HSSТの場合、「糸満~名護+空港接続線」を建設すると7,580億円、北部支線を加えると8,920億円です。
一方、「那覇~名護+空港接続線」の場合は、HSSТで6,260億円に抑えられます。
2024年度調査と比べると、建設費は増加しました。物価上昇の影響が大きく、普通鉄道では約180億円、HSSТでは約30~160億円の増加となっています。
今回の調査では、ルート変更や構造の見直しによるコスト削減も試算しています。
返還予定の米軍基地跡地を通過するルートへの変更や、高架構造を地平構造に変更することなどにより、土木費を193~272億円削減できると試算しています。
ただし、用地費などが増加するため、最終的な概算事業費の削減幅は28~145億円にとどまります。

導入課題詳細調査」報告書について』より
1日10万人の需要
需要については、HSSТの「糸満~名護+空港接続線」で、普通鉄道では約8.9万人/日、高速AGTでは約10.2万人/日と予測しています。
HSSТに北部支線を追加すると、需要は約10.9万人/日まで増加します。ただし、建設費や運営費も増えるため、累積損益収支は北部支線なしより悪化します。
40年間の累積損益収支は、HSSТの「糸満~名護+空港接続線」でマイナス8,600億円。北部支線を加えるとマイナス9,990億円と試算されています。
つまり、北部支線を延ばせば利用者は増えるものの、事業収支の改善にはつながらないという結果です。

導入課題詳細調査」報告書について』より
利用促進策
沖縄鉄軌道の大きな目的の一つが、自動車交通への依存を減らし、道路渋滞を緩和することです。
沖縄県では観光客の増加が続いており、2025年の観光来訪者数は約1100万人と過去最大となりました。一方、県外からの来訪者の約7割がレンタカーを利用しています。
そこで今回の調査では、鉄軌道の利用を促すため、共通パスやシャトルバス、カーシェア、自動運転車両、クレジットカードのタッチ決済などを組み合わせる方策も検討しました。
たとえば恩納周辺では、シャトルバス、自動運転車両、カーシェア、クレジットカード決済を組み合わせる案を検討しています。
名護・本部周辺では、自動運転車両、カーシェア、クレジットカード決済を組み合わせます。
鉄軌道だけを整備するのではなく、駅から観光地などへの移動手段を組み合わせることで、レンタカーから鉄軌道への転換を促す考えです。
自動運転でコスト削減
今回、新たに自律型列車運行制御システムの導入についても検討しました。
半自動運転の「GOA2.5」では運転士の削減により年間約5億円、ドライバレス運転の「GOA4」では指令要員の削減により年間約2億円のコスト削減が可能と試算しています。
もっとも、これらの技術はまだ研究・開発段階にあるため、実際の導入可能性については今後さらに検討するとしています。
県も独自に調査
沖縄鉄軌道については、沖縄県も独自に導入の方向性を再整理するための調査をすすめています。
こちらは、内閣府の調査とは別のものです。県は、最新の需要予測や工事費、事業費縮減策、便益も加味しながらB/Cを精査する方針で、年度末にも調査結果をとりまとめる方針です。
とりまとめでは、停車駅・結節点、導入空間、那覇空港接続、フィーダー交通との関係など、沖縄鉄軌道導入の方向性を整理し、各方向性の効果や影響、事業性、B/C、課題などを明らかにする予定です。
事業化はまだ先
沖縄鉄軌道計画は停滞しており、今回の内閣府の調査結果をみても、事業着手に至る道筋は見えません。
B/Cは改善したものの0.85が最高で、事業収支も大幅な赤字が見込まれるなど、事業化には、なお課題が残されています。
ただ、北陸新幹線のルート決定の経緯などをみても、B/Cについては便益を広く取る方向性になってきており、政治的な解決が可能なようにも思えます。
採算性の問題についても、建設時に補助金を手厚くすることで、ある程度は改善できます。
内閣府調査では、鉄道整備に活用できる制度として、駐留軍用地跡地での鉄軌道用地確保に「宅鉄法」(大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法)を活用する可能性や、受益者負担金制度、社会資本整備総合交付金の適用などについても検討しています。
沖縄本島の道路渋滞は深刻で、鉄軌道の導入は喫緊の課題となっています。さまざまな制度を活用し、なるべく早い着工を期待したいところです。(鎌倉淳)
























