秋田内陸縦貫鉄道と由利高原鉄道が、運賃を平均30%以上引き上げる方針を示しました。定期運賃は12%程度に抑える方針で、輸送密度が200~300人前後という厳しい経営環境のなか、観光客を中心とした定期外客から収益を確保しようという考え方です。
運賃を36~38%値上げ
秋田県は9月8日の県議会産業観光委員会で、県内の第三セクター鉄道2社の運賃改定案を示しました。秋田内陸縦貫鉄道は運賃を平均約36%、由利高原鉄道は平均約38%引き上げます。一方、通勤・通学定期の改定率は、両社とも平均約12%にとどめます。
秋田内陸線の鷹巣~角館間は1,700円から2,300円に、由利高原鉄道の羽後本荘~矢島間は610円から800円になります。全線乗り放題のフリーきっぷも、それぞれ2,500円から3,000円、1,100円から1,500円に値上げされます。
両社は2026年度中に国へ運賃改定を申請し、2027年4月ごろの実施を予定しています。沿線住民向けの割引制度も検討します。

輸送密度は200~300人
大幅値上げの背景には、両線の利用者がきわめて少ないという事情があります。
東北運輸局の資料によると、2024年度の輸送密度は秋田内陸線が約243人、由利高原鉄道が約319人でした。秋田内陸線は94.2km、由利高原鉄道は23.0kmの路線を維持していますが、輸送量は鉄道として極めて小さい規模にとどまっています。
2024年度の営業損失は、秋田内陸縦貫鉄道が約3億6193万円、由利高原鉄道が約1億1455万円でした。県や沿線自治体の支援を受けながら運行を維持しています。
今回の改定では、人件費や燃料費などの上昇を運賃に転嫁するにあたり、地域住民の日常利用に配慮して定期券の値上げ幅を抑えつつ、定期外利用の通常運賃を重点的に引き上げる形を取りました。
台湾ツアー客が支える秋田内陸線
秋田内陸線の2024年度の輸送人員は22万6690人でした。このうち定期外客は14万9370人で、全体の約66%を占めます。定期客は7万7320人で、約34%です。
定期外客のうち、インバウンド団体客は3万9443人に達しました。定期外輸送人員の約4分の1に相当します。台湾など海外での営業活動が実を結び、団体旅行客が同線の重要な利用者となっています。
ただし、インバウンド団体客は、必ずしも全線を乗り通すわけではありません。
筆者が2025年秋に取材した際は、台湾からとみられる100人以上のツアー客が、角館駅から増結された3両編成の列車に乗り込みました。
しかし、約30分後の松葉駅で一斉に下車。待機していた観光バスに乗り換え、田沢湖へ向かいました。大勢の団体客が降りたあとの列車は、空席が目立つ状態になりました。

角館~松葉間の運賃は480円です。全線を乗り通した場合の1,700円と比べると、3割弱にとどまります。団体運賃ではさらに安くなっている可能性があり、短区間の乗車では、輸送人員が増えても1人当たりの運賃収入は限られます。
今回の改定案では、運賃を平均36%引き上げます。台湾などからのツアー客が短い区間を乗車する場合でも、収入を増やす効果が期待できます。
由利高原鉄道も訪日客増加
一方、由利高原鉄道は秋田内陸線とは乗客構成が大きく異なります。
2024年度の輸送人員は19万803人。このうち定期客が13万8964人で約73%を占め、定期外客は5万1839人で約27%にとどまります。沿線の高校生など、通学客が利用の中心となっています。
ただ、同年度のインバウンド利用者は4,802人で、前年度の3,363人から約43%増加しました。国内客を含む団体利用者は1万651人で、前年度の1万2929人から減少しましたが、海外からの利用は伸びています。県の海外・県外団体ツアー獲得支援補助金も活用し、台湾などからの誘客を進めています。
それでも、年間約4万人のインバウンド団体客を受け入れる秋田内陸線と比べると、訪日客の規模には大きな開きがあります。由利高原鉄道では、少子化により定期客の減少が避けられないなか、インバウンド需要を増やし、収益につなげることが課題となっています。
すでに、旅客運賃収入全体の割合は定期外客が約6割を占めています。乗車人員では定期客が約7割を占めるにもかかわらず、定期外客の収入のほうが大きいのです。
大井川鐵道にも共通する考え方
観光客を中心とする利用者から、より多くの収入を得ようという方針は、静岡県の大井川鐵道の取り組みにも共通する考え方です。
大井川鐵道は2026年7月、井川線を事前予約制の観光列車として再構築しました。旅行代金は、乗車区間にかかわらず片道一律3,500円です。従来の区間ごとの運賃に代わり、短区間の乗車でも一定の収入を確保できる仕組みにしました。一部列車にのみ従来の運賃で乗車できる一般車両を連結し、沿線住民向けには格安の利用制度を設けています。
井川線は定期利用客がおらず、ほとんどが観光利用のため、通常の鉄道運賃値上げで収入を増やすよりも、観光商品として販売する方法を選びました。
秋田の2社は、通常の運賃体系を維持しながら、運賃を大幅に引き上げ、定期運賃を抑制します。井川線とは方法が異なりますが、観光需要から得られる収入を増やすという点では共通しています。
住民への配慮も
ただ、秋田2社は少ないながらも住民による利用があり、定期外客には観光客だけでなく、買い物や通院などで鉄道を利用する地域住民も含まれます。住民への配慮は、大井川鐵道以上に求められます。
そのため、秋田県は、秋田内陸線では沿線住民の急行料金無料化やシルバーパスの導入検討などを、由利高原鉄道では沿線住民割引の導入を検討しています。観光客からの収益確保と住民負担の軽減を組み合わせる計画です。(鎌倉淳)























