ANA「中距離LCC」はどこへ飛ぶ? 2022年度にも就航へ

なぜPeachでは駄目なのか

ANAが中距離を運航する新しい格安航空会社LCCを設立する計画を明らかにしました。早ければ2022年度にも就航します。

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エアージャパンを母体

ANAホールディングスは、新型コロナウイルスの感染拡大による経営環境の変化を受けて、新しいビジネスモデルの確立を目指す方針を打ち出しました。そのなかで発表されたのが、新たな格安航空会社LCCの計画です。

ANAの新LCCは、エアージャパンを母体とします。エアージャパンはすでに運航許可を保有していることから、スムーズな事業立ち上げが可能なためです。エアージャパンが社名を変更するなどしてそのまま新LCCになるのか、それとも新ブランドを立ち上げるだけなのかは、定かではありません。

機材はボーイング787型機を活用し、2クラスです。就航予定地は東南アジアやオーストラリアを中心で、レジャー需要を獲得できる中距離路線を運航します。ANA、Peachに並ぶ第3ブランドとして展開する計画で、コロナ後の国際線の需要の回復にらみながら、2022年度を目途に運航を開始する計画です。

なぜPeachではないのか

ここまでがANAが発表した内容です。簡単にいえば、JALのZIPAIRに近い中距離LCCをANAも作る、ということです。違いがあるとすれば、ZIPAIRは日系LCC初の太平洋線路線就航を目指しETOPSも取得しているのに対し、ANAの新LCCは東南アジアやオセアニアが主たる就航先で、既存LCCが激戦を繰り広げているエリアを目指す点でしょうか。

最初に浮かぶ疑問は、なぜPeachでは駄目なのか、という点でしょう。PeachはエアバスA321LRを導入して、片道7時間圏内の中距離へ進出する方針をすでに明らかにしています。当然、東南アジアがターゲットに入りますので、新LCCはPeachと競合しそうです。

これに関し、ANAホールディングスの片野坂真哉社長は記者会見で、日本人観光客と訪日客の双方向の需要が強いところを狙う旨の説明をしました。ピーチの国際線はインバウンドに大きく依存してきましたが、新LCCは日本人客も大きなターゲットにします。

そのため、新LCCの拠点は日本人の需要が多い首都圏の成田が有力で、関西を最大拠点とするPeachとは異なります。片野坂社長は「競合が起きないように路線選択も含めてマーケティングを組み立てる」とも述べています。

また、「パイロットは外国からの派遣を想定している」と述べ、需要変動に対応しやすいビジネスモデルを模索することを示唆しました。おそらくは客室乗務員も契約社員を中心とするのでしょう。つまり、Peachとは違った運営モデルを検討しているため、別会社にしたということなのかもしれません。

ANAが公表した資料をみると、ANAはフルサービスの「プレミアムエアライン」としてビジネス客をターゲットにする一方、Peachは「シンプル、短通路、モノクラス」の近距離中心のLCCとして、観光客中心の役割を与えています。

新LCCは「シンプル、ボーイング787、2クラス」で、中距離からやや長距離の観光客を担当します。フルサービスとLCCの中間的な位置づけで、ハワイや米西海岸、インドくらいまでは視野に入るのかもしれません。

ANA グループの新しいビジネス・モデルへの変革について
「ANA グループの新しいビジネス・モデルへの変革について 」より

ANAから移管

気になる就航先ですが、新LCCはANA本体と棲み分ける方針で、要するに単価の低い観光客メインの路線をANAからエアージャパンに移管してLCC化する、というビジョンと感じられます。であるならば、中距離国際線のなかでも、比較的ビジネス客の比率の低い路線が移管対象になりそうです。

東南アジアではハノイ線、ホーチミンシティ線、プノンペン線あたりが候補でしょうか。オーストラリアではパース線が有力候補でしょう。

これまでANAが就航していない新たな路線も期待したいですが、787はそれなりに大きな機材なので、相応の需要がないと厳しそうです。そのなかで、片野坂社長が例示したのがシェムリアップ。アンコールワットの玄関口への直行便ができれば、日本の観光客には便利でしょう。

ANAからの移管を進めるなら、LCCで新たな就航先を開拓するというよりは、バンコク線やシンガポール線といった高需要の路線の一部便まで新LCCの担当になるかもしれません。実際に、片野坂社長はシンガポールも就航先の例としてあげています。

ただ、大きな理想や展望があってのプロジェクトではなく、新型コロナによる経営危機を凌ぐためのリストラ策として浮上してきた新LCC計画です。旅行者としては、安く旅をする選択肢が増えるのは喜ばしいことですが、あまり期待をしすぎないほうがよいのかもしれません。

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