石勝線夕張支線に乗ってみた。「北海道版ガーラ湯沢」になって廃止を免れないか、と考えてみたけれど

石勝線夕張支線は、JR北海道のなかでも利用状況の悪い路線です。2014年度の輸送密度は1日1kmあたり117人で、同社では札沼線北海道医療大学~新十津川間についで利用者が少ない区間とされています。

おりしも、JR北海道は赤字路線の整理を本格化する姿勢を見せ始めています。そのため「ワースト2」の石勝線夕張支線が廃止対象になる可能性はかなり高いといえます。その現状を見てきました。

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利用者1日12人の有人駅

最初は清水沢駅。かつては三菱石炭鉱業鉄道線の分岐駅で、石炭輸送のため広い構内を有していましたが、いまでは棒線配置になっています。2014年度の乗車客数は1日平均12人とのこと。昼間は駅員が配置されていましたが、2015年10月に無人化されます。

清水沢駅

清水沢駅周辺は、かつての繁華街です。南大夕張炭鉱の最盛期にはこのあたりは人であふれていたそうですが、今は歩いている人をほとんど見かけません。

夕張市は最盛期だった1960年頃、11万人もの人口がありました。それが2013年には1万人を割り込みました。過疎化という言葉で片づけられないような人口減少が続いています。

清水沢駅

「ガーラ湯沢」を夕張に?

続いて、夕張駅へ行ってみます。夕張駅前に民家は少ないですが、ホテルマウントレースイが建ち、その裏にはマウントレースイスキー場があります。このスキー場は中級者向けにはなかなか良くできていて、練習にはもってこいの好ゲレンデです。

現在、マウントレースイスキー場は夕張市が所有し、加森観光が指定管理者となっています。ただ、夕張市は指定管理が終わる2016年度末までに売却する方針を固めています。海外からのスキー客が殺到している北海道のリゾート施設ですから、外資系に高く売れるのではないか、と期待する関係者もいるようです。

それにしても、夕張駅からホテルマウントレースイまでは徒歩30秒。マウントレースイスキー場まででも徒歩3分ほどです。下の写真の手前のオレンジ色の駅舎が夕張駅。背景の白い建物がホテルマウントレースイです。

これほどのエキチカスキー場を見ると、ガーラ湯沢駅のような活用ができないのか、と考えてしまいます。「北海道版ガーラ湯沢」を夕張に作れないか、という夢です。もしできれば、石勝線夕張支線も廃止を免れるのではないでしょうか。

夕張駅

「レースイエクスプレス」は成立するか

たとえば夕張駅を「レースイスノーリゾート前」とでも改称し、新千歳空港や札幌駅から直通特急「レースイエクスプレス」でも走らせれば、結構な数の利用者がいるのではないか、というアイデアです。

札幌から新夕張へは、現在の特急で約1時間あまり。「札幌~レースイスノーリゾート前」までの特急を設定した場合、1時間20分程度になりそうです。札幌~夕張間のバスの所要時間は1時間半ほどですから、JR特急もバスも互角です。

所要時間が互角なら、勝負にはなります。もし、マウントレースイスキー場が人気ゲレンデで、数多くのスキーヤー、スノーボーダーが札幌から押し寄せているなら、JR特急「レースイエクスプレス」はそれなりに利用者を獲得できそうです。

しかし残念ながら、マウントレースイは北海道においては人気ゲレンデとはいえません。北海道にはレースイよりも魅力的なスキーリゾートがたくさんあり、札幌からJRに1時間半も乗ってレースイに行くのなら、2時間かけてニセコに行く、という人が多いでしょう。

そもそも、滑るだけなら札幌市内に立派なゲレンデがあり、手軽にスキーができます。ここが、首都圏におけるガーラ湯沢との根本的な違いです。

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「新千歳・レースイエクスプレス」は?

では、インバウンドを狙って、新千歳空港からの特急列車「新千歳・レースイエクスプレス」を設定したらどうでしょうか? 新千歳空港駅から「レースイスノーリゾート前」まで特急を設定した場合、所要時間は45分くらいになりそうです。

バスやクルマ利用の場合、千歳から夕張インターまで高速道路を利用して、マウントレースイまで1時間程度です。鉄道のほうが少し速そうですが、大差ではありません。となると、機動力に勝るバスのほうが便利そうです。

事業として採算に乗るのか?

改めて考えてみるまでもなく、雪のない首都圏から新幹線で直結のガーラ湯沢と、雪だらけの北海道で札幌や千歳からローカル線でしかつながっていないマウントレースイとでは、事情が全く違います。

東京から越後湯沢までクルマで行くには3時間程度かかりますが、新幹線なら1時間あまり。その時間差がガーラ湯沢の存在価値となっているのです。

それでも、石勝線夕張支線に特急を設定すれば、輸送密度は117より高くなるでしょう。ただし、それが事業として採算に乗るのか、と考えると、立ち止まらざるを得ません。

現実の夕張支線は、新夕張~夕張間で交換施設はなく、1編成しか入れない構造になっています。そのため、スキー向けの特急列車を入れるスジはありません。交換設備を整えて維持するには、それなりのお金がかかるでしょう。それをまかなえる需要があるかというと、難しそうです。

そもそもこんなことは、関係者が100万回くらい考えたと思いますので、実現しないのには相応の理由があるに違いありません。

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夕方に1往復してみたら

夕張から列車に乗って、新夕張を往復してみます。夕張発16時28分の列車は、千歳行きの列車なので、そこそこ混んでいます。旅行者、地元客、鉄道ファンがバラバラと座っていて、20人くらいは乗っていたでしょうか。

夕張駅

ところが、新夕張で降りて、反対方向の17時24分発夕張行きに乗りなおすと、客は3人ほどしかいません。途中乗降はありましたが、終点夕張まで乗ったのは筆者のほか1人だけ。この日は日曜日で通学客がいないという事情があるにせよ、夕方5時台の列車でこの利用状況は、やっぱり厳しいです。

この列車は、新夕張で札幌方面からの特急に接続していません。そのため、札幌方面からの客を拾えていないという側面があります。

つまり、札幌からの輸送の役割を担うのではなく、夕張市内の短距離のニーズに応えたダイヤなのです。実際、新夕張~夕張間の途中で乗り降りする人はそれなりにいて、地域内交通機関の役割を果たしている様子が見受けられます。といっても、バスで十分代替できる程度の数なのですが。

新夕張駅

改善の余地はあるけれど

石勝線夕張支線の設備や運行形態をみるにつけ、利用者を増やす方法はありそうです。とはいえ利用者が増えたところで、たいした数にはならない、という話になってしまいます。

夕張支線の現状を一言で表現すると、「改善の余地はあるけれど、採算に乗るような施策はない」ということに尽きます。そして沿線人口はどんどん減っていて、最盛期の10分の1以下になってしまいました。人口1万人に満たない町の地域内交通機関としてしか存在意義がないならば、廃止論を鎮めることは難しいでしょう。

一往復だけの利用で全てを語ることはもちろんできません。それでも、夕張駅に再び降り立ち、駅前の閑散とした風景を眺めたとき、夕張支線の厳しい現実を見せつけられた気がしました。

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