函館新幹線「フル規格、分割併合なし」の理由。整備費は上振れへ

函館市が進捗状況示す

北海道新幹線の函館駅乗り入れ構想について、函館市はフル規格新幹線の車両を導入し、新函館北斗駅での分割併合はしない方針を示しました。

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6 つのケースを想定

北海道新幹線の函館駅乗り入れ構想は、新函館北斗~函館駅間の在来線を改軌し、新幹線車両を走らせるものです。いわば「函館新幹線」計画です。

大泉潤函館市長が提唱し、2024年3月に乗り入れに向けた調査結果を公表しました。その調査結果では、乗り入れについて、以下の3つの「ケース」を想定しています。

【ケース1】東京~函館直通なし、札幌~函館直通のみ
【ケース2】東京~函館直通あり、分割併合なし
【ケース3】東京~函館直通あり、分割併合(7両+3両)あり

それぞれについて、フル規格新幹線およびミニ新幹線を検討しており、合計6つの「検討ケース」を示していました。

H5系北海道新幹線

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フル規格で東京・札幌乗り入れ

2024年9月9日の函館市議会常任委員会で、市は検討の進捗状況を報告。今後の検討は「ケース2」のフル規格で進めることを明らかにしました。

「ケース2」の場合、東京と札幌の両方面から乗り入れ、新函館北斗駅での分割併合はありません。それをフル規格で走らせるということは、北海道新幹線で使っている車両を、基本的にはそのまま函館駅に乗り入れさせることを意味します。

札幌開業後の北海道新幹線の使用車両は明らかではありませんが、札幌~新函館北斗間の区間運転列車が設定されるでしょうから、札幌方面からはその車両がそのまま函館駅に乗り入れることになります。東京方面からは、東京発の10連車両がそのまま「函館行き」となって乗り入れることを想定しているとみられます。

北海道新幹線函館乗り入れ
画像:「新幹線等の函館駅乗り入れに関する調査業務調査報告書」

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分割併合なしの理由

函館市では、ケース2にした理由について、以下を挙げています。

・分割併合をすると、1編成あたりの座席数が少なくなる。また、増解結に時間を要する。
・札幌、東京両方面からの乗り入れのほうが、札幌方面のみに比べ利用者の利便性向上が期待される。
・経済波及効果などの総合的判断。

これらの理由のうち、最大のポイントとなったのは、最初の理由でしょう。分割併合をするには、座席数の少ない先頭車両を中間車両に挟まなければなりませんが、そうすると輸送力が低下します。分割併合の作業の手間も大きな問題で、東京~札幌間の所要時間を長引かせる要因となります。

2つめの理由は、乗り入れ先を札幌方面に限定するよりも、東京乗り入れを考慮したほうが便利という単純な話です。ただ、それだけでもなく、東京直通を掲げることで、事業の費用便益比の数字を上げる目的もありそうです。3つめの経済波及効果も同様でしょう。

ただし、現実には、北海道新幹線は東京~札幌間の運行が基本となるため、東京~函館間の列車は限られた本数しか設定できないでしょう。

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フル規格の理由

車両をフル規格にした理由については、函館市では以下の2つの理由を挙げています。

・フル規格新幹線はミニ新幹線に比べ座席数が多く,輸送力が大きい
・北海道新幹線の既存のホームドアはフル規格新幹線対応の仕様となっていて、車両の長さが異なるミニ新幹線が乗り入れた場合、ホームドア改修などの対応が必要となる

輸送力については、「函館新幹線」にフル規格車両を導入すると、むしろ過剰になる恐れもあります。したがって、理由付けとしては、座席数が多いこと自体は、それほど問題にならない気もします。

むしろ、後段の「ホームドア問題」の比重が大きいように察せられます。

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書かれなかった理由

ここまでに示された理由はそれなりに説得力がありますが、書かれていない理由として、JR北海道への配慮もあるでしょう。

「分割併合」や「ミニ新幹線」とすると、北海道新幹線で、東京直通とは別の車両を準備しなければならなくなります。仮にそれを函館市の負担で製造するとしても、運用するのはJR北海道です。JR北海道としては、車両形式が増えると管理の手間が増え、ダイヤの制約も大きくなるので、避けたいところでしょう。

これまでのところ、JR北海道は、新幹線函館駅乗り入れに消極的です。それを説き伏せるには、JR北海道の負担を減らす必要があり、「フル規格車両そのまま」「分割併合なし」という判断になったとみられます。

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JR北に実質負担を求めず

JR北海道への配慮として、函館市は今回の発表で、同社に対し、実質的な費用負担を求めない方向で進めることも明らかにしました。つまり、新形式の車両は入れず、既存車両に改修の必要が生じた場合、その費用も負担する姿勢を示したといえます。

当初、大泉市長は、車両の改造費などが発生する場合、所有するJRに負担を求めることを示唆していましたが、その方針を転換したといえそうです。

ただし、「実質的な費用負担」を求めないということは、函館駅乗り入れによる収益増に対し、応分の負担は受け入れてもらう、という意味合いも込められているとみられます。JRがどこまで負担するかは、今後の焦点になるでしょう。

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営業区域に限り打ち合わせ

また、今回の報告では、JR北海道に対し、同社の営業区域に限り打ち合わせをおこなうことも明確にしました。函館~新函館北斗間の整備や、JR東日本との調整について、JR北海道が関与しないことを示したわけです。

ただ、運営に関わらないとまでは言い切っていないので、JR北海道が第二種鉄道事業者などの形で関わる可能性は残された表現と察せられます。

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整備費は上振れへ

函館市では、今後の検討について、「スケジュールや最終的な事業費などは、関係機関との打ち合わせの状況を踏まえたうえで精査し、判断する」と示すにとどめています。

3月の調査結果では、フル規格分割併合なしの場合の整備費は169億円とされています。しかし、この金額は在来線の電圧を変更しないことを前提にしていて、車両費も含まれていません。

フル規格車両がそのまま乗り入れるのであれば、電圧を新幹線規格に変えるか、車両を複電圧対応にする必要がありますが、その費用が含まれていないわけです。つまり、169億円では収まらないのは確実で、整備費の上振れは避けられません。

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線路使用料収入は減少

さらに、フル規格10連で走る場合、現行の第三セクター路線のスキームでは、貨物列車の線路使用料が少なくなってしまいます。旅客列車の車両キロが増えれば貨物の線路使用料が減る仕組みのため、フル規格10連が走る「ケース2」は、運営する第三セクター会社の収入減が最大になります。

フル規格10連が埋まるだけの利用者がいれば問題ないのですが、空気輸送の10連を走らせるとなれば、函館~新函館北斗間を運営する会社の経営は厳しくなります。

今後は、「JR北海道が実質負担をしない」前提の整備費を試算し、それをどう調達し、どういう形態で運営し採算を確保するのか、といった検討が必要になるでしょう。

となると、「函館新幹線」計画は、いまだ実現が見通せる状況とまではいえなさそうです。(鎌倉淳)


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