ANAホールディングスとアジア最大の格安航空会社LCCのエアアジア(マレーシア)は2013年6月25日に、「エアアジア・ジャパン」の合弁事業を解消すると正式発表しました。ANAはエアアジア・ジャパンを100%子会社化します。
6月25日の記者会見で、ANAの清水信三上席執行役員は「エアアジアのやり方では限界があった」と合弁相手の経営方針を批判。東南アジアで成功したエアアジア流ビジネスモデルが、日本には適さなかったとの考え方を示しました。
これに対し、エアアジアは、真っ向から反論。ブルームバーグの報道によりますと、エアアジアのトニー・フェルナンデス最高経営責任者(CEO)は、ANAによって指名された合弁会社の上級管理職の大半は「LCCビジネスを理解できなかった」とし、「成田国際空港からの日本国内の運航でANAと意見が折り合わなかった」とANAを非難しています。
エアアジア・ジャパンの2013年5月の利用率は53%。ジェットスター・ジャパンに比べても20ポイント以上差をつけられていました。その理由はさまざまでしょうが、国内線の路線展開よりも韓国路線に力を入れたことが大きな原因でしょう。フェルナンデスCEOの「国内の運航で意見が折り合わなかった」とは、意のままに国内路線開設ができなかったことを指すと思われます。ウェブサイトの予約システムが使いにくいという指摘もありますが、実際に使ってみるとそれほど不便でもなく、不振の原因をシステムだけに求めるのは無理がありそうです。
実際、日本国内線よりも、韓国路線の拡大を優先したエアアジア・ジャパンの路線展開は、LCCとしては不自然です。一方、エアアジア・ジャパンが就航した韓国路線からはANA本体は撤退を進めています。つまり、ANAは、エアアジア・ジャパンを自社の影響下に置きながら、競争の激しい自社路線の移管に利用していたようにみえます。これに対し、エアアジアは、日本の国内線の路線拡大を狙ったものの、ANAの方針には抗えなかったのかもしれません。
エアアジア・ジャパンの2013年3月期の営業赤字は35億円と想定以上に膨らみました。フェルナンデスCEOとしては、これ以上の損失を見過ごすわけにはいかず、合弁解消に至ったようです。
今後、ANAはエアアジアが保有するエアアジア・ジャパン株式を約25億円で取得し、100%子会社化します。2013年10月31日までエアアジアのブランドで現行路線を維持。11月以降の冬ダイヤからブランド名を変更する予定です。新しい社名・ブランド名は7月中にも発表される予定です。ピーチとの合併の可能性は低いですが、ブランド名の共通化はあるかもしれません。
ANA100%子会社の新会社は引き続き成田空港を拠点に路線展開する見通しで、設備も引き継ぎます。ただし、機材は最終的にエアアジアが引き取るようです。
新会社の今後の見通しは明るいとはいえません。成田空港は都心から遠く、ジェットスター・ジャパンやスカイマークなど格安系3社が競合するうえに、春秋航空日本の参入まで予定されています。「成田の国内線は利益がでない」とフェルナンデスCEOはぼやいていたそうですが、スカイマークの西久保慎一社長も同様の考え方を示しています。
ANAによるLCC新会社ができたところで、成田空港の高コストとアクセスの悪さは変わりません。清水執行役員は「日本マーケットに合致したビジネスモデルに改め、当社が主体的に運営を行えるようにする」としていますが、具体的な展望は示していません。ANAの不採算路線を引き受けて低コストで運航し、座席の一部をANAに買ってもらう、というくらいしか生き残る方法はないようにも見えます。要するに、エアドゥやソラシドエアと同様の手法です。
一方、エアアジアのフェルナンデスCEOは日本で新たな事業提携先を見つけ、あらためて日本でのLCC事業に参入する意欲を見せています。しかし、エアアジアのブランドは傷ついてしまっており、これもそう簡単な話には思えません。
エアアジアに可能性があるとすれば、これまで未就航だった関西空港を拠点にする方法でしょう。エアアジアはクアラルンプール-関西線を就航させており、接続をさせれば相互作用で搭乗率向上に役立ちそうです。そして、関空拠点化は、「宿敵」となったANAグループの運航するピーチに挑戦する意味も持ちます。「因縁の対決」が健全な競争につながれば、利用者の利益にもつながります。
これまで、日本国内のLCC勢力図は、ANA系2社とJAL系1社に、スカイマークが追われるという構図でした。しかし、エアアジア・ジャパン消滅後の国内LCCの勢力図は、これに新エアアジア系と春秋系が加わり複雑化するかもしれません。スカイマークはすでに「格安路線」から一線を画した「高品質路線」に舵を切りました。残る会社のうち、生き残れるのは何社でしょうか。