ピーチがインドに飛ぶ日はくるか? ANAの新中期経営戦略を読み解く。

アジア全域がターゲット

ANAが2018年2月1日に2018~22年度の中期経営戦略を発表しました。そのなかで、LCCの強化を表明。将来的には中距離機も導入し、アジア各国へLCC路線網を拡大していく方針を示しました。

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5年で倍増狙う

ANAホールディングスの新しい中期経営戦略では、2022年度の売上高の目標を2017年度比30%増の2兆4500億円としました。

成長余地の少ないANA国内線は、現状と同規模の売上高を目標に据えました。一方、ANA国際線は50%増、LCCは100%増にするという目標を掲げています。

LCCに関しては、「5年で売上高倍増」という野心的な数字を示したわけです。

ANAはグループ内にピーチ・アビエーションとバニラエアの2社のLCCを抱えますが、中期経営戦略では両社の「連携強化」を掲げ、「ローカル線を中心に需要を開拓」し、「国内線における新たな需要の創出」に取り組むとしました。

ピーチは創業以来、バニラエアとの連携を否定していましたが、2017年4月にANAの子会社となったことで、やはり風向きが変わったようです。

今後は、関西はピーチ、成田はバニラの棲み分けを守りながらも、両社は連携していくのでしょう。地方空港への新規就航も拡大しそうです。

ANA2018-2022年中期経営計画
画像:ANA2018-2022年中期経営計画より

片道9時間がターゲット

そして、中期経営戦略において、LCC事業の目玉は、「中距離LCC領域への進出」でしょう。

日本経済新聞2018年2月2日付によりますと、ANAの芝田浩二上席執行役員は、中距離LCCについて、「将来的に片道9時間の距離を想定している」と述べました。片道9時間となると、ヨーロッパや北米には届かないものの、東南アジアやインドまでが含まれます。

芝田執行役員は「全日本空輸にとって空白だった領域をピーチとバニラで取り込みたい」と意欲を見せました。ANA系LCCでアジアのほぼ全域をカバーする路線網を構築する構想を示したといえそうです。

ANA2018-2022年中期経営計画
画像:ANA2018-2022年中期経営計画より

ピーチ、バニラが協力

ただ、ピーチは、これまで原則として飛行距離4時間以内を就航エリアと定めてきました。LCCの狭いシートでは、その程度が限界、という理由です。そのため、東南アジアには那覇-バンコク線以外に路線を展開していません。

バニラエアは、東南アジアへの橋頭堡として台北-ホーチミン線を開設しましたが、搭乗率が振るわず、運休に追い込まれています。

芝田役員からのコメントからは、こうした局面を一変させるため、ピーチ、バニラ両社が協力して、LCCの中距離路線に打って出る意気込みが感じられます。

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A321を導入か

アジア全域に路線を広げるなら、現状のピーチ、バニラの機材であるA320型機では航続距離が足りません。中期経営戦略では「航続距離の長い小型機を活用し、2020年を目途に中距離路線へ進出」としており、A320型機以外の機材を導入することを明確にしました。

具体的な機材は明らかではありませんが、エアバスで揃えるなら、航続距離の長いA321型機シリーズが最有力でしょう。

また、中期経営戦略の「エアライン事業 最適ポートフォリオ」では、LCCで中型機を導入することも示されています。まずは2020年をメドに航続距離の長い小型機を導入して中距離路線へ進出し、将来的には中型機の導入も検討するという姿勢のようです。

ANA2018-2022年中期経営計画
画像:ANA2018-2022年中期経営計画より

ロシアや南米就航も視野

ANA国際線については、「首都圏空港(羽田・成田)を拠点に事業を拡大」するとし、2020年の首都圏発着枠の拡大に備えています。アジア~日本~北米の流動で「優位性の拡大」を目指すとしており、フルサービスキャリアとして長距離輸送に力点を置く姿勢を鮮明にしました。

また、ANAにとって空白地域であるロシア、中東、アフリカ、南米への進出を視野に「未就航エリアへの路線拡大を図る」としています。いずれも採算性は厳しそうですが、実現するなら楽しみな路線です。

ANA2018-2022年中期経営計画
画像:ANA2018-2022年中期経営計画より

国内線は守りの姿勢

ANA国内線はシートモニターの装着機材を拡大することと、Wi-Fi無料化が目玉。LCCの台頭を受け、フルサービスキャリアとしての存在価値を高める施策とみられます。

そのほか、機材の小型化による需給適合も掲げました。人口減少による需要縮小に備えたものといえそうです。

大手航空会社の国内線は、「LCCの台頭」と「人口減少」という二つの向かい風に直面しており、ANAの中期経営戦略でも、国内線は守りの姿勢が鮮明です。

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A380ハワイ就航

新機材としては、ボーイング777-9や787-10を順次導入していきます。このほか、2019年春から成田-ホノルル線に、エアバスA380型機を投入します。スカイマーク救済時に生じた副産物ですが、超大型機の日本の航空会社初就航は楽しみです。

ANAグループの保有機材は、2017年度末の段階で294機。このうち、ANA本体などのフルサービスキャリア(FSC)が247機、LCCが35機です。これを、2022年度には、FSC280機、LCC55機の計335機にするとしています。

ボーイング787やエアバスA320neoなど、省燃費機材の導入をすすめ、2022年度末にはおよそ80%を省燃費機材にするとしています。

LCCの守備範囲拡大

全体像を眺めてみると、新しい中期経営戦略は、航空業界全体の低価格化に対応してLCCを強化する一方で、FSCを維持するために手探りを続けている、という印象を受けます。

これまで、日系LCCの守備範囲は東アジアまでで、東南アジアへはFSCが対応していました。しかし、海外系LCCが東南アジアからどんどん飛んでくる事態を受けて、ANAグループとしてLCCの守備範囲を拡大するようです。

ピーチ、バニラという2つのLCCが就航エリアを拡大すれば、日本人旅行者もより手軽に海外に行けるようになるでしょう。ピーチがインドに飛んだり、バニラがシンガポールに飛んだりする日が来るのでしょうか。おおいに期待したいところです。(鎌倉淳)

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