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沖縄 観光

「沖縄縦貫鉄道」の調査報告書で実現への期待高まる。でも、「リニア式小型鉄道」でほんとに大丈夫?

沖縄本島への鉄軌道導入をめぐる議論に進展がありました。沖縄県が2012年度に実施した「鉄軌道を含む新たな公共交通システム導入促進検討業務」の「実現化戦略調査」結果がまとまったためです。

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那覇・名護間69kmの鉄道

この報告書は、那覇から名護までの「沖縄縦貫鉄道」の実現性をさぐるもので、沖縄県のホームページで閲覧できます。内容は多岐にわたりますが、その概要をまとめると、以下のようになります。

・那覇空港から沖縄市などを経由し、名護市まで13の拠点駅を経由する総延長約69キロのルート。
・リニア式地下鉄をベースにした小型鉄道。
・最高時速100キロ、4両編成で運行。
・運転本数は日中時間帯で、那覇空港~沖縄が毎時5本以上、沖縄~名護間が毎時3本以上。
・無人運転も検討。
・無線信号システムを導入。
・始発の那覇空港から沖縄市まで約24分、終点の名護市まで約58分で結ぶ。
・市街地部は国道上へ高架橋を建設、または地下を利用。
・駅はできる限り簡素化し、一層構造にする。
・信用乗車方式を検討(改札口の省略)。
・運賃は那覇~名護間か1250円、那覇~沖縄間は360円。
・総延長の71%がトンネルとなり、16%が高架橋。
・建設費は概算で5600億円。
・インフラ部分を全額、国などが負担し運行事業者は運行に専念する「上下分離方式」を採用。
・事業者には行政による最低収入保証と、利益が出た場合の行政への還元を組み合わせたインセンティブ契約を結ぶ
・1日の利用客数の試算は一般・観光客合わせ3万2000人~4万3000人。
・車両保有も行政が購入、保有した場合、運輸収入で経費をまかなえ、単年度黒字化は可能。
・利用が3万2000人の場合は毎年約8.7億円の赤字、4万3000人の場合は9.8億円の黒字。
・運行事業者が車両を購入し保有する場合で、1日4万人程度の需要があれば、数年で単年度黒字化が可能。
・国鉄民営化時に準じた経営安定化基金の創設も検討。
・工事着手まで10年から15年、工事期間は約10年。
・開通は最短で2033年ごろ。
・那覇-うるま石川間を先行的に開業することも検討。

沖縄縦貫鉄道案

手堅く見積もった報告書

この報告書は、「『導入可能性』ではなく、早期に導入するための『実現化戦略』を検討するもの」と踏み込んでいます。そのためか、利用者数の見込みや収支計算を手堅く見積もった上で、議論を喚起するためのたたき台になっているようにみえます。役所の報告書にありがちな「結論の正当性をPRするための、ご都合主義の数字の寄せ集め」にはなっておらず、その点は高く評価できます。

内容も興味深いものです。リニア式小型鉄道を高速化する、駅構造を単純化し信用乗車制度を導入して改札を省く、無人運転の導入など、さまざまな提案をしています。国内外の鉄道をよく研究していて、各地の長所や先端技術を積極的に採り入れていこうという心意気を感じます。

ただ、そのぶん実現性を考えると疑問符のつく部分も少なくありません。なによりも、最高時速100キロで、那覇空港~名護間69キロを1時間以内で結ぶとしていますが、これでは最高速の7割の表定速度を目指すことになります。曲線を極力廃した線路配置で建設し、途中停車駅をできるだけ省いて運転すれば可能かもしれませんが、そんな優等列車ばかり運転するわけにもいきません。

そもそも、リニア式小型鉄道は都市内の地下鉄には向きますが、速度を求めるなら普通鉄道が適しています。路線を那覇~うるま石川間に限定するならリニア式小型鉄道は有力な選択肢ですが、名護までの高速輸送を担う適性には乏しく、本当にリニアで大丈夫か?と考えてしまいます。

沖縄縦貫鉄道案2

部分開業が主眼ではないのか

ところで、この報告書には「部分開業も検討」する、と書かれています。しかし、詳細に報告書を読めば読むほど「部分開業が主眼」であり、名護までは構想にすぎない、と思わずにはいられません。うるま市以南だけならば、リニア式小型鉄道は適切なシステムです。また、人口密度から考えても、真に鉄道が必要なのはうるま市以南であり、うるま市以北の人口分布では鉄道は必要不可欠な公共交通ではありません。さらに、この報告書は全線を複線で建設するように書かれていますが、うるま市以北の需要(日中毎時3本)なら単線で間に合うはずです。それでも報告書が名護までの「フル規格」建設を前提として書かれているのは、沖縄ならではの事情があるからではないか、と感じてしまいます。

この報告書では、鉄道建設は基本的には日本政府の資金で行われることを前提にしています。沖縄が負担している米軍基地の状況を考えれば、日本政府の資金で鉄道を建設することに異を唱えるつもりはありません。そうでなくても、もともと沖縄には名護までの鉄道路線があり、日本政府が始めた戦争のおかげでそれが破壊され、失われてしまったという歴史もあります。ならば、日本政府の資金で鉄道路線を「復旧」させることは当然ともいえますし、名護市の置かれた状況を考えれば、名護までの鉄道建設も理解できなくはありません。

ただ、名護まで建設するというのであれば、中途半端な速度のリニア鉄道ではなく、つくばエクスプレスをモデルにした高速鉄道を選択すべきでしょう。そうでなければ、高速バスとの競争に勝てるとは思えません。時速100キロ程度の鉄道では高速バスに勝てないことは、本土ですでに証明されています。そこにリニア式小型鉄道など敷いたら、結果的に赤字ローカル線を建設することになりかねません。

名護までの建設が「建前」で、「本音」はうるま市まででいい、と考えているのならば、リニア式小型鉄道は合理的でしょう。しかし、そうした政治的あやふやさを残したままでは、将来に禍根を残しかねません。

独自規格は将来に不安

筆者の意見を述べれば、どうせ作るなら、たとえうるま市以南のみであっても、普通の鉄道で作るべきではないかと思います。この報告書が唱える「リニア式高速鉄道」は国内に他例がなく、沖縄独自の規格になります。そうなると、将来車両やシステムを更新する際に、つねに独自規格での開発を余儀なくされ、コストがかかるうえに、量産効果を享受できなくなるからです。既存鉄道のシステムを使えば、たとえば「つくばエクスプレスに導入されたのと同じ車両を使う」ことで量産効果を享受できますし、最新技術の導入もしやすくなります。JRのシステムを流用することも可能かもしれません。

那覇から名護まで鉄道を敷設するという構想は素晴らしいことです。この調査書も意欲的で評価できます。これをたたき台にして、より深い議論を期待したいところです。

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