「次の整備新幹線」はどこまで必要か。基本計画路線から「格上げ」目指す動きは各地にあるけれど

北海道新幹線の新函館北斗開業により、整備新幹線の未開業区間は新函館北斗~札幌、北陸新幹線の金沢~新大阪、長崎新幹線の新鳥栖~長崎を残すのみとなりました。ルート未決定区間を残すものの、整備新幹線の整備完了が、いよいよ視野に入り始めてきました。

これを受けて、「次の整備新幹線」を求める声が出てきています。具体的な候補としては、基本計画路線とされている「奥羽・羽越新幹線」「山陰新幹線」「四国新幹線」「東九州新幹線」などが挙げられます。

基本計画路線から整備新幹線への「格上げ」を狙って、地元で運動が盛り上がり始めています。が、実現性はあるのでしょうか。

広告

東九州新幹線は大分までは需要あり

日豊本線の小倉~大分間は、在来線特急の運転本数の多さでは日本屈指です。「ソニック」などが1日34往復もしていて、これだけの本数が運行されているなら、需要は多そうです。大分県の人口は116万人、宮崎県は110万人です。

東九州新幹線鉄道建設促進期成会の調査によりますと、東九州新幹線を建設した場合、表定速度210km/hの仮定で北九州~大分間の所要時間が31分、大分~宮崎間が48分になるとしています。合計すると、79分で小倉~宮崎が結ばれることになります。また、宮崎~鹿児島間は29分と試算されています。

新幹線計画画像:東九州新幹線調査報告書より

整備費用は、福岡県内3,050億円、大分県内9,000億円、宮崎県内1兆430億円、鹿児島県内4,210億円と試算しています。

現在の在来線特急の運転本数からみて、小倉~大分は整備新幹線に「格上げ」される可能性はあるかもしれません。ただ、東九州新幹線の問題は大分以南の利用者が少なそうという点です。正直なところ、1兆円をかけて人口110万人の宮崎県内を縦走する新幹線を建設するのは、現実味に欠けるように思えます。

九州新幹線

四国新幹線は岡山から

岡山県と香川県を結ぶ瀬戸大橋は、新幹線を通せる構造になっています。そのため、四国新幹線は、岡山で山陽新幹線に乗り入れるのが基本的な考え方になるでしょう。

問題は、岡山から瀬戸大橋を渡って四国に上陸した線路を、どこに延ばすのかです。四国最大の都市・松山市へ伸ばすのが順当に見えますが、そうすると、四国の玄関口・高松市へは寄らないことになります。逆に高松市へ伸ばすのなら、松山市へは向かわないことになります。

理想は、徳島、高松、松山を横断する路線です。そのためには淡路島経由が適切ですが、明石海峡大橋は新幹線対応になっていません。明石海峡に橋をもう一本掛けるかトンネルでも掘らないと大阪へ繋がりませんが、今となっては現実的とは言えません。

四国の鉄道高速化連絡会の調査では、四国新幹線の路線形状として、大阪~徳島~高松~松山~大分(ケース1)、岡山~高知(ケース2)、岡山~徳島、高知、松山(ケース3)を挙げています。3つのケースを挙げなければならないほど、ルート問題は政治的にややこしい、ということなのでしょう。

ちなみに、ケース1の場合の事業費は4兆200億円、ケース2は7300万円、ケース3が1兆5700億円です。

広告

1兆円で300kmを作れるのか?

この議論にケリを付けるのは相当難しそうですが、四国4県が団結するにはケース3しかなさそうです。当初は岡山~丸亀~松山を建設し、高松へはフリーゲージ(数十年後には実用化・軽量化していると信じましょう)で乗り入れ、最終的に全県庁所在地にフル規格新幹線を引く、という段取りでしょうか。

四国新幹線ルート図「四国における鉄道高速化の必要性と基礎調査について」より

この形で全部完成した場合、新大阪~高松が75分、徳島が95分、松山が98分、高知が91分と試算されています。四国の各県庁所在地へ、大阪から1時間半以内で結ばれるわけです。

整備総延長は302km、総事業費は1兆570億円を見込みます。これだけ作って、本当に1兆円で済むのだろうか? という疑問もありますが。

ちなみに、香川県の人口は97万人、愛媛県は137万人、徳島県は75万人、高知県は72万人。四国全土で約380万人です。

四国新幹線ロゴ

奥羽・羽越新幹線は山形県が旗振り

奥羽新幹線は福島~山形~秋田間、羽越新幹線は富山~新潟~秋田~青森間です。

福島~山形~新庄間は、現在ミニ新幹線が走っていますが、これをフル規格に格上げします。富山~上越妙高間と長岡~新潟間は、北陸・上越新幹線と共用になるでしょう。

山形県の資料によりますと、完成すれば、東京~山形が約2時間、東京~酒田が約2時間40分になります。ただ、奥羽・羽越新幹線については、山形県だけが張り切っていて、ようやく最近になって、秋田県などが動き出した程度です。

その背景として、沿線各県のうち、フル規格新幹線が全く通っていないのが山形・秋田両県だけである、という点が挙げられます。すでにフル規格新幹線が開業している新潟県や青森県は、多額の財政負担をしてまで羽越新幹線を推進する立場ではなさそうです。沿線自治体間で温度差があるとみられます。

秋田県の人口は102万人、山形県は114万人。建設距離に比べて沿線人口が多いとはいえず、実現は容易ではなさそうです。

並行在来線を廃止できるのか

その他の新幹線構想としては、北海道新幹線札幌~旭川間、東北海道新幹線長万部~札幌間、山陰新幹線、中国縦断新幹線などがあります。ただ、上記3路線に比べると、地元の盛り上がりには欠けるようです。

原理原則論をかざせば、新幹線は在来線の「線増」、つまり複々線化です。したがって、複々線の需要がありそうな区間に建設されるべきです。とはいえ、基本計画路線にそれほど需要の多い区間はなく、強いて挙げれば小倉~大分間くらいでしょうか。

並行在来線の問題もあります。並行在来線維持の難しさは、これまでの整備新幹線区間の比ではないでしょう。本当にこれらの区間に新幹線を敷くのなら、在来線を廃止して、新幹線の線路に普通列車や貨物列車を走らせるくらいしないと、成り立たないのではないか、と思います。

逆に言うと、在来線を廃止して普通列車も貨物も新幹線に移す覚悟があるのならば、建設から100年以上が過ぎた鉄道施設をリニューアルするという点で、意味があるのかもしれません。

完成の頃には人口半減

「次の整備新幹線」が仮に実現するとして、完成は2060年~2100年頃になるでしょう。2100年の日本の推定人口は、内閣府の資料で約5000万人、高齢化率 41.1%です。

こうした社会に、巨費を投じて新幹線を日本のすみずみにまで敷く必要があるのか、あるとして、どう維持していくのかは、しっかり議論して欲しいところです。(鎌倉淳)

広告
前の記事佐川急便がほくほく線で「貨客混載」へ。JRのローカル線でも取り組んでみては?
次の記事JR東日本「東京五輪に向けた取り組み」まとめ。原宿駅を建て替え、山手線は全車両をE235系に置き換えへ