新潟市「専用道なきBRT」の末路。新運行協定で名称消滅へ

「萬代橋ライン」

新潟市と新潟交通が協議している、路線バスの新たな運行協定の大枠が固まりました。南北市街地の一体化に寄与する路線を増強する一方、「BRT」の名称は使用を取りやめる方針です。

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2015年運行開始

新潟市には「萬代橋ライン」というBRT(バス高速輸送システム)が走っています。新潟駅から中心市街地の古町などを経由して青山に至る路線で、中心部のバス路線を整理・統合した基幹バス路線として2015年に運行を開始しています。

運行を担当しているのは地元バス会社の新潟交通。新潟市と新潟交通は2014年に運行協定を結び、全市的なバス路線再編を実施しました。BRTを基幹路線とし、その主要バス停を結節点として、枝線と接続する運行体制を取っています。

新潟交通BRT

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「専用走行路を走る連節バス」

新潟市でBRTの導入方針が固まったのは、運行開始の3年前です。中心市街地に「新たな交通システム」を導入する検討をしていた同市が、LRT、小型モノレールと比較した結果、BRTの採用を2012年に決定しました。

このとき公表された「新たな交通システム導入基本方針」では、BRTについて「低床型でスタイリッシュな高機能バス(2両連結の連節バス)が主に道路上に設けられた専用走行路を走行」と定義しています。

つまり、新潟市は「専用走行路を走る連節バス」をBRTと定め、それを中心市街地に導入すると決めたわけです。

新潟BRT路線図
画像:新潟市

 
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整備は先送り

ただ、専用走行路を市街地に設けるのは容易ではありません。そのため、2013年に公表された「新潟市BRT第1期導入計画」では、走行空間を「現行通り」としました。専用道の整備は先送りして、一般車線を走る形で「BRT」を暫定運行すると決めたわけです。

「道路中央部の専用走行路によるBRT本格運行」については、「段階的に取り組む」とし、2019年度開始を目標に掲げました。

「新潟市BRT第1期導入計画」
画像:「新潟市BRT第1期導入計画」より

 

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「BRT」は今後使用せず

しかし、「道路中央部の専用走行路」は、2023年に至るまで全く実現していません。

萬代橋ラインは、新潟駅から中心市街地を経て郊外の拠点に至る基幹バスの役割は果たしていますし、シンボリックな外観は目を引きます。

乗換結節点や情報案内表示の整備など、利用しやすくするためのシステムも部分的に導入していて、先進的なバスとして一定の評価は得ています。

新潟BRT白山駅

一方で、BRTの本義である「高速輸送」という点では十分な実績を残しているとはいえません。

そうした状況下で、新潟市は新潟バスと新たな運行協定を結ぶにあたり、「BRT」の名称を今後は使用しない方針を明らかにしました。

記者会見した中原八一市長は、「専用走行路の整備を今後見込めないことからBRTと呼ぶことをやめたい。市民の皆さんにBRTという名称が正確に浸透せず、BRT=連節バスのことであると思っている方もいらっしゃる。新たな協定を結ぶにあたり、誤解がないように新潟交通と協議している」と説明しました。

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実現困難な整備内容

新潟市と新潟交通との新協定に関する「現在の状況」によれば、現協定の課題として「専用走行路の整備や青山の結節機能の整備など実現困難な整備内容が位置づけられていること」を筆頭にあげています。

こうした課題を前提に現在の協定を終了し、「実現可能な事項を位置づける新協定」を締結することで、新潟市と新潟交通が合意しました。

さらに、新潟駅南北市街地の一体化に寄与するバス交通の実現に向けた取り組みなどの方向性を確認。路線の新設や既存路線を延伸する大枠も固めました。

要するに、専用走行路や拠点バスターミナルの整備はやめて、新潟駅高架化で往来しやすくなった南北市街地を結ぶ路線を充実させる、という方向で合意したわけです。「萬代橋ライン」の名称も残す方向のようです。

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高速化は実現せず

新潟市のバス路線再編は、中心市街地で重複している路線を整理して基幹路線にまとめたもので、運行の効率性を高めるには有効な手法です。実際、バス運転手不足が厳しくなるにつれ、各地で同様の路線再編はおこなわれています。

新潟BRTパンフレット
画像:新潟市

新潟市の場合、基幹路線に「BRT」という名称を付けたのがポイントですが、実際には「Rapid=高速」と呼べるほどの所要時間短縮は実現しませんでした。

連節バスを主に「快速」に投入していますが、快速便の朝ラッシュ時の所要時間は各停便と大差ありません。中心市街地(市役所前~新潟駅)では、時刻表上、各停便より時間がかかっていることもあります。連節バスは乗車人員が多いため、運賃収受に時間がかかるからでしょう。

うがった見方をすれば、連節バスを快速に使っているのは、快速利用者が多いからではなく、運賃収受機会を減らして遅れにくくするためではないか、とも感じられます。こうなると本末転倒で、市長が「BRT=連節バスは誤解」と釈明した理由が察せられるというものです。

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当初から実現性に疑問

要するに、そもそも「萬代橋ライン」の名称だけにとどめて、「BRT」などと呼ばなければよかった、という話に思えます。

当初は専用走行路を市街地に整備するという野心的な計画だったため「BRT」と呼んだとみられますが、そもそも専用走行路導入のハードルは高く、当初から実現性には疑問符が付けられていました。

国交省が高機能バスシステムの総称として「BRT」という呼称を用いているため、その補助金を活用しているという背景もありそうです。

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全国で28箇所

ちなみに、国交省が2022年9月にまとめた「道路空間を活用した地域公共交通(BRT)等の導入に関するガイドライン」によると、全国にBRTは28箇所あるそうです。

このうち専用走行路(専用レーン)を有するのは3箇所、専用道を有するのは6箇所に過ぎません。現在は、日田彦山線ひこぼしラインが加わってますので、専用道は7箇所でしょうか。その多くが鉄道代替路線です。

全国BRTリスト
「道路空間を活用した地域公共交通(BRT)等の導入に関するガイドライン」より

BRTだからといって「高速」とは限らず、全国BRTのうち、表定速度が25km/h以上なのは6箇所にとどまります。

専用道・専用レーンを走らない路線としては、オレンジアロー連SANDAと京王バス日野(日野駅~日野自動車前)のみで、いずれも直行系統です。萬代橋ラインの表定速度は16km/h程度で、一般路線バスと大差ありません。

BRTの速度
「道路空間を活用した地域公共交通(BRT)等の導入に関するガイドライン」より

ちなみに、東京BRTや福岡BRTは、萬代橋ラインよりも表定速度が遅くなっています。東京BRTはプレ開業の段階ですので、今後改善されるかもしれませんが、福岡は「BRT=連節バス」になってしまっている観があります。

一方で、大船渡線や気仙沼線のBRTは、表定速度30km/h前後に達していて、「高速」の名に恥じない運行体制になっています。一言で「BRT」といっても、玉石混淆です。

 

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基準の整理を

バス運転手不足が顕在化するなか、新潟市がおこなった路線バス系統の整理は、路線網を維持するためにはやむを得ない施策といえます。バスを利用しやすくするための先進システムの導入も歓迎されるべきことでしょう。

ただ、専用走行路を導入せずに市街地で高速運行をするのは困難なので、「BRT」の呼称が誤解を招くのは確かでしょう。その点で、「BRT」の呼称を廃止する新潟市の判断は妥当に感じられます。

上表にもありますが、日本各地のBRTの多くは表定速度20km/h以下で、たいして速くありません。

新潟BRTの「末路」を見るにつけ、そろそろ「BRT」の名称を使用する基準も整理したほうがいいのではないか、と思わなくもありません。(鎌倉淳)

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