「太川蛭子のバス旅2019 第6弾 三保の松原~清里」の正解を考える。ルイルイの勝負は裏目に出たが

あきらめたらそこで試合終了ですよ

テレビ東京系列で「太川蛭子のバス旅2019」第6弾が放送されました。ルイルイこと太川陽介と、蛭子能収がローカル路線バスを乗り継ぐテレビ番組です。「太川蛭子の旅バラ」の企画の1つです。

今回は三保の松原から清里まで、路線バスを乗り継いで1泊2日で到達するのが目標です。正解ルートを検証してみましょう。

なお、以下はネタバレ100%です。あらかじめご了承ください。(文中敬称略)

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マドンナは女子アナ

「太川蛭子のバス旅2019」は、ローカル路線バスだけを乗り継いで目的地を目指すというルールの旅番組です。ただし、バスが走っていない区間では、1万円までタクシーを利用できます。

「バス旅2019」第6弾の目標は、静岡市清水区の三保の松原から、山梨県北杜市の清里まで1泊2日で到達するというもの。ゴール到着時刻のリミットや、途中のチェックポイントはありません。

マドンナはうがっきーこと元TBSアナウンサーの宇垣美里。この春フリーランスになったばかりの28歳の才媛です。

バス旅2019
画像:テレビ東京

太川蛭子のバス旅2019第6弾 秋の陣 静岡・三保の松原~山梨・清里
【出演】蛭子能収、太川陽介
【マドンナ】宇垣美里
【ナレーター】茂木淳一
【放送日】2019年10月30日(テレビ東京系列)

実際ルート

まずは、一行が実際に旅したルートをおさらいしてみましょう。時刻表上の定刻を示しています。

▽1日目
三保松原入口09:57→10:21清水駅前11:40→11:55興津駅前→タクシー6.3km、2,050円→由比駅→徒歩3km→西神沢13:17→13:33蒲原病院14:10→14:57富士宮駅

▽2日目
富士宮駅07:50→08:47精進→タクシー10.7km、7,000円→上九一色出張所13:07→14:01南甲府駅14:03→14:19甲府駅北口/甲府駅前15:10→15:52韮崎駅16:15→16:36百観音17:30→17:44たかねの湯18:03→18:50清里駅

このように、夜19時前に清里駅に到着し、ゴールとなりました。ゴールをしたので、一行のたどったルートは正解といっていいと思いますが、途中の選択で気になる部分もありました。検証してみましょう。


※グーグルマップ上のルートは概略です。一行がたどったルートなどを正確に表示しているとは限りません(以下同)

宍原ルート

三保松原入口からバスに乗ったルイルイ一行の、最初のポイントは清水駅です。ルイルイは、東海道に沿う実際ルートのほか、宍原車庫方面から南部町へ抜けるショートカットも検討しました。このルートをたどっていたら、どうなっていたでしょうか。

▽1日目
清水駅前11:40→12:14但沼車庫12:28→12:48宍原車庫前→タクシー5.4km、約2,620円→日向17:51→18:19(南部町)役場前

▽2日目
役場前07:20→07:41内船駅→タクシー10km、約3,900円→身延駅08:30→09:37鰍沢営業所11:02→11:58甲府駅前13:50→14:32韮崎駅15:30→15:51百観音16:30→16:44たかねの湯18:03→18:50清里駅

宍原車庫から山梨県南部町に入ったところに日向というバス停があり、南部町のコミュニティバスに乗車できます。そこからタクシー、身延町のコミュニティバスを織り交ぜれば、実際ルートよりも早く、2日目のお昼に甲府駅に着けます。最終的には、たかねの湯で実際ルートに収斂しゴールとなります。

「宍原ルート」をたどった場合、日向で5時間近い停滞が見込まれ、思うように進めないのは実際ルートと同じです。その意味で、とくに優れたルートではありません。

ただ、宍原車庫から、日向のバス停に向かわずに、タクシーをそのまま十島駅まで乗った場合、展開が早まります。

▽1日目
清水駅前11:40→12:14但沼車庫12:28→12:48宍原車庫前→タクシー10km、約3,900円→十島駅15:38→16:00(南部町)役場前16:00→16:16内船駅→タクシー10km、約3,900円→身延駅19:40→20:39鰍沢営業所

▽2日目
鰍沢営業所06:02→06:54甲府駅前08:10→08:52韮崎駅09:25→09:46百観音10:30→10:44たかねの湯14:24→15:11清里駅

このように、タクシーを上手に活用しながら、2日目の早朝に甲府駅に到着。清里には実際ルートより1本早いバスでゴールできます。

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由比駅の謎を解く

実際ルートに戻りましょう。一行は興津駅からタクシーで由比駅に着いた後、駅前の商店で聞き込みをして、由比駅上のバス停を探し当てました。しかし、逆方向にしかバス停がなかったため、一行は順方向のバス停を求めて西神沢まで3kmも歩く羽目になりました。

番組でも紹介されたとおり、この区間のバスは片側通行になっています。静岡市のウェブサイトによれば、バスは由比駅前にも乗り入れています。番組と照らし合わせてみると、駅舎横の工事の仮囲いに貼られていた時刻表のある場所が、どうやらバス停のようです。

ゆいバス
画像:静岡市ホームページ

つまり、あの仮囲いに貼られていた時刻表に一行が気づいていれば、階段で由比駅上に上る必要もなければ、3kmも歩く必要もなかったわけです。バスのルートや運営主体が10月に変わったばかりで、地元の人もよくわかっていなかったという事情もあり、やむを得ませんが、もったいない歩きでした。

富士宮駅の停滞はさけられたか

今回で最大の停滞となったのが、富士宮です。富士宮駅に15時頃に到着したものの、その日は先へ進むバスが見つからず、1泊することとなりました。

本当に進む方法はなかったのでしょうか。仮に身延方面を目指していたら、以下のような乗り継ぎがあります。

▽1日目
富士宮駅南口17:17→18:00芝川会館18:07→18:19稲子駅→タクシー2.9km、約1,260円→十島駅

▽2日目
十島駅08:12→08:29内船駅→タクシー約10km、約3,900円→身延駅16:10→17:17鰍沢営業所17:47→18:43甲府駅

前出の「宍原ルート」同様、南部町から身延方面へ抜ける道筋です。ただ、富士宮駅を起点とするこのルートでは、身延駅に着くのが2日目午前9時頃になってしまいます。

一方、身延駅から鰍沢営業所へのバスは8時30分発に出た後、16時10分発までありません。そのため、富士宮から身延を目指していたら、2日目の身延で7時間に及ぶ待ち時間が生じてしまい、ゴールできません。

身延を経由するルートをとる場合、1日目に南部町役場周辺まで到達していることが、ゴールの条件になるようです。したがって、富士宮に行ってしまった時点で、身延経由の成功ルートは閉ざされていたことになります。

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御殿場ルート

一行が富士宮駅で検討した、沼津から富士山の東麓を抜けるルートも見てみましょう。「御殿場ルート」です。

▽1日目
蒲原病院14:10→14:57富士宮駅15:15→15:40吉原中央駅16:00→16:21東田子の浦駅16:30→17:10沼津駅南口17:30→17:58三島駅19:05→19:55御殿場駅20:10→21:20河口湖駅

▽2日目
河口湖駅06:30→08:00甲府駅前08:30→09:12韮崎駅09:25→09:46百観音10:30→10:44たかねの湯14:24→15:11清里駅

富士宮駅で躊躇なく15時15分のバスに乗っていれば、その日のうちに河口湖に到達することができます。そのまま最速で進めば、たかねの湯に2日目の午前中に到達します。

そこまで無理せず、1日目に御殿場で泊まっても、甲府駅前には2日目の午前中に到着でき、ゴール可能です。以下がその乗り継ぎですが、最終的な清里到着は、実際ルートに収斂します。

▽2日目
御殿場駅07:40→08:50河口湖駅09:08→10:30甲府駅前11:20→12:12韮崎駅12:20→12:41百観音16:30→16:44たかねの湯18:03→18:50清里駅

ゴール可能とはいえ、このルートは大回りですし、沼津駅から三島駅を経て御殿場駅に至る道筋は平易とはいえません。そのため、「御殿場ルート」が、とくに優れているわけではなさそうです。

結論として、一行が1日目に富士宮で宿泊したことは、間違いではありませんでした。

精進で降りなかったら

2日目、一行は早朝のバスで河口湖へ向かいます。河口湖から甲府市へは路線バスで抜けられることがわかっていたようで、手堅く進めばゴールへ近づけます。

しかし、ルイルイは途中下車を選びました。富士宮から河口湖へのバスを精進で降りてしまったのです。上九一色経由のショートカットを狙ったのですが、タクシーを呼ぶのに時間がかかったあげく、タクシー代は高額で、さらには上九一色出張所で3時間待ちという、トリプルパンチを食らいます。

うがっきーの「これ本当に降りて大丈夫ですね」の念押しを振り切っての決断だっただけに、後に禍根を残す原因となりました。ルイルイ痛恨のミス、といっていいかもしれません。

仮に、精進で下車せずに河口湖に向かっていた場合、どうなっていたでしょうか。

▽2日目
富士宮駅07:50→09:22河口湖駅10:08→11:30甲府駅前13:50→14:32韮崎駅15:30→15:51百観音16:30→16:44たかねの湯18:03→18:50清里駅

このように、甲府駅前に午前中に到着し、ゴールできます。少々迷っても大丈夫そうな、時間的余裕がある乗り継ぎです。

つまるところ、みなさんお察しの通り、精進の判断についてはマドンナうがっきーが正しかったことになります。

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隠れた勝因

実際ルートに戻ります。一行は上九一色から南甲府駅、甲府駅と好接続で乗り継いで、韮崎駅に到着します。

ポイントとなったのは、南甲府駅の乗り継ぎでした。時刻表上では2分の接続で、乗り遅れていたら、次のバスは14時44分発となり、甲府駅北口には15時着となります。甲府駅前から韮崎駅へのバスは15時10分発ですので、案内所に寄っていたら、韮崎へ上手く乗り継げなかった可能性もありました。その意味で、南甲府駅での2分接続に成功したことが、今回の逆転劇の隠れた勝因といえます。

おかげで甲府駅で十分な時間が得られ、案内所で情報収集ができました。案内所の係員は、韮崎から増富温泉行きのバスに乗り、若神子下で降りて日野春駅へ至る乗り継ぎを提案してくれました。

ゴールへの希望がともった瞬間でしたが、ルイルイは念のため韮崎駅の案内所にも立ち寄り、徒歩を挟まない百観音乗り継ぎルートの情報を仕入れました。このあたり、情報収集に手を抜かない、ルイルイの熟練を感じさせます。

日野春駅へ向かっていたら

では、甲府駅の案内所で仕入れた情報に基づいて、若神子下から日野春駅まで、徒歩で乗り継ぎをしていたらどうなっていたでしょうか。

▽2日目
甲府駅前15:10→15:52韮崎駅16:15→16:39若神子下→徒歩3.9km→日野春駅18:28→18:43長坂駅19:40→20:40清里駅

このように、4km近い徒歩を挟むものの、ゴールは可能です。一行が実際ルートで乗車した清里駅行きは、たかねの湯発の最終バスですが、長坂駅からはさらに遅いバスがあり、夜遅くなっても清里に着けるのです。

つまり、韮崎駅で案内所に寄らずとも、ゴールは可能だったことになります。

秀逸なルート設定

ここまでお読みなっていただいてわかると思いますが、今回のルートは、清里行きの最終バスが地方にしては遅いので、途中で迷ってもゴールしやすい設定になっています。

一方、北杜市内のバスは日中に本数が少ないので、甲府駅に早い時間に到達しても、最後は北杜市内でもたつく仕掛けになっています。いつもながら、秀逸なルート設定です。

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正解ルートは

今回のお題はゴール可能な乗り継ぎがいくつもあるので、正解も多数あった、といえます。そのなかでもっとも優れたルートを探るとすれば、由比駅周辺の余計な歩きを減らし、河口湖経由でたどった乗り継ぎでしょうか。以下のように無理なくつながります。

▽1日目
三保松原入口09:57→10:21清水駅前11:40→11:55興津駅前→タクシー6.3km、2,050円→由比駅13:11→13:33蒲原病院14:10→14:57富士宮駅

▽2日目
富士宮駅07:50→09:22河口湖駅10:08→11:30甲府駅前13:50→14:32韮崎駅15:30→15:51百観音16:30→16:44たかねの湯18:03→18:50清里駅

このルートの場合、タクシーは興津駅~由比駅までの2,050円だけで、あとはバスだけで乗り継げます。1日目は富士宮駅で停滞しますが、2日目は適度な待ち時間の接続が続き、徒歩もありません。

前回、蛭子さんが歩きすぎたからか、今回は配慮したかのような、ゆったりした無理のない乗り継ぎ旅ができるよう設計されていました。

ルイルイ劇場

そんな予定調和的なルートを壊したのが、ルイルイが勝負に出た、精進での途中下車でしょう。短絡ルートを狙ったのに、かえって時間がかかってしまったわけで、結果としては策士策におぼれました。

勝負は裏目に出たものの、振り返ってみれば、上九一色で温泉に入ったり、ルイルイとマドンナに軋轢が生じたりして、このシークエンスが番組のハイライトの一つとなりました。

河口湖経由ならラクな乗り継ぎでしたが、クラシックシリーズ第18弾で通った道筋でもあり、平凡なシーンが続いたかもしれません。それに比べれば、上九一色越えは波瀾万丈で、「ルイルイ劇場」が上手くハマったとも解釈できます。

ルイルイは「バス旅」のベテランですし、たんにショートカットを狙っただけでなく、番組の盛り上がりも考慮して、「どうせなら違う道を」とあえて挑戦したのかもしれません。マンネリは大敵です。

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史上最強のマドンナ

今回の番組で存在感を放ったのは、マドンナのうがっきーでしょうか。元民放キー局アナだけあって目配りがきき、物怖じもせず、さらには地図を読みこんでルート議論に加わるという、いままでのマドンナにないタイプでした。

ルイルイをタジタジに追い込んだのは、うがっきーが初めてかもしれません。番組冒頭では「史上最強のマドンナ」と形容していましたが、納得の振る舞いです。賛否はありそうですが、それだけ存在感が際立っていた、と表現できそうです。

こうした演者の掛け合いも見どころとなり、1泊2日のロケにもかかわらず、飽きさせない2時間番組に仕上がっていました。

最近の「ローカル路線バスの旅」は、厳しい徒歩区間が見せ場になりがちですが、今回は違いました。ルイルイ・蛭子コンビには、このくらいの緩いルート設定にして、待ち時間をハイライトにしてくれたほうが、視聴者は安心して見ていられそうです。(鎌倉淳)

ローカル路線バス乗り継ぎの旅[DVD]

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