函館線・余市~小樽間は残せるか。北海道新幹線並行在来線に決断のとき

対策協議会資料を読み解く

北海道新幹線札幌延伸にともなう並行在来線問題で、余市~小樽間の扱いが焦点になっています。第三セクターによる鉄道存続やBRT化を模索していますが、実現可能なのでしょうか。

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第10回ブロック会議

北海道新幹線は、新函館北斗~札幌間で延伸工事が進められています。延伸にあわせて、並行在来線である函館線・函館~小樽間287.8kmがJR北海道から経営分離される予定で、この区間を鉄道として残すか、バス転換をするかが焦点になっています。

この問題を話し合うのが、沿線15市町などで構成する「北海道新幹線並行在来線対策協議会」です。協議会は函館~長万部間147.6kmを話し合う「渡島ブロック」と、長万部~小樽間140.2kmを話し合う「後志ブロック」に分けられ、その第10回後志ブロック会議が、2021年11月1日に開かれました。

その資料が公表され、余市~小樽間について、鉄道で新駅を作った場合と、BRT化した場合の調査結果が明らかになりました。

H100形

新駅を作ったら

余市~小樽間を第三セクター鉄道で残す場合に、収支改善策として浮上しているのが新駅設置です。

途中に新駅を作る場合、候補となるのは余市町内と小樽市内が1箇所ずつの、計2箇所。余市新駅は余市協会病院・北星学園余市高校付近。小樽新駅は小樽桜陽高校・長橋十字街付近です。

函館線新駅
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会第10回後志ブロック会議資料

余市新駅は、新駅周辺の住民の利用を想定し、駅設置によって増加する利用者数(2030年度)を382人と推定しています。小樽新駅は、新駅周辺の住民に加え小樽桜陽高校への通学生の利用も想定し、1日あたり604人の利用者増を推定しています。

2駅の設置には初期投資として1億2000万円がかかります。一方、単年度で9000万円の収入増が見込まれます(単年度収支は2030年度予想。以下同)。新駅を設置した場合の路線全体の単年度収支は3億9000万円の赤字と予想されました。

函館線三セク検討
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会第10回後志ブロック会議資料
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運行本数を増やしたら

鉄道の運行本数増についても検討しています。

余市~小樽間のダイヤは、現行で最小35分間隔のところ、運行本数を増やすため終日28分間隔を想定。現行1日16.5往復を39往復と仮定します。車両は3編成6両で運用し、予備2両とあわせて計8両を保有。運転士は現行より15人増の31人となります。

これにより、初期投資が4億6000万円増、単年度で1億2000万円の費用増となります。運行本数増でどれだけの利用者が増えるかを推計するのは困難なものの、仮に50%増えたとしても、運行本数を増やさない場合に比べ単年度で5600万の赤字増となります。

運行本数を増やさない場合の赤字が4億8000万円、本数を増やし50%利用者が増えた場合で5億4000万円の赤字です。運行本数を増やす場合、人件費が年間7000万円も増えることになり、これが重荷です。

函館線余市~小樽間収支
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会第10回後志ブロック会議資料
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BRT専用道の課題

次に、BRT化検討についてみてみます。ここでいう「BRT」とは、連節バス、バス専用道などを組み合わせ、速達性・定時性の確保を可能とするバスシステムです。余市~小樽間で導入する場合の効果や課題、必要な費用について検討を行いました。

鉄道路線をバス専用道にする場合の最大の問題点は、専用道が単線であることです。交換は途中駅のみ可能で、一般道を走るバスよりもダイヤに制約が生じます。当然、衝突対策もしなければなりません。

また、小樽駅構内が電化されていることもあり、駅への乗り入れ方法の検討が必要なことも課題とされました。そして、国道ルートよりも鉄道ルートのほうが距離が長く、所要時間の短縮があまり見込めまないことも留意点となります。

専用道のメリットとしては、道路渋滞に影響されないため、定時性や速達性の確保が期待できることです。

連節バスの課題

連節バスを導入する際の課題としては、寒冷地仕様の車両開発が必要で、道路の除雪体制や凍結対策、右折レーンの整理が必要なことなどが挙げられました。車両整備のための専用施設や、転回できるターミナルも必要です。

車両費に関しては、通常のバスが2500~4000万円程度のところ、連節バスは約9500万円かかります。そのぶん定員が100名程度と輸送力が大きく、1人の運転手で通常バスより多くの乗客を運べるというメリットがあります。

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余市~蘭島間

線路をBRT専用道として活用する場合について、国道と比較しながら課題を見てみます。

余市~蘭島間では、鉄道(専用道)は、築100年以上の狭いトンネルがあるのに対し、国道はトンネルが2018年に付け替えられています。

鉄道は4本の橋梁と、余市町内に多数の踏切が存在します。一方、国道は右折が必要な大川十字街付近で混雑する場合があります。

函館線BRT化資料
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会第10回後志ブロック会議資料

蘭島~塩谷間

蘭島~塩谷間では、鉄道は急勾配を避けるように線路が敷かれているため、国道に比べてカーブが多く、距離が長くなっています。

また、鉄道は4本のトンネルが築100年以上であるのに対し、国道は忍路トンネルが2018年、塩谷トンネルが2021年に開通し、危険箇所や急カーブ、狭隘区間が解消されています。

鉄道は急傾斜地の近くを走行している箇所もあり、バス車両で走行する場合は、ガードレールなどの転落防止対策が必要です。

函館線BRT化資料
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会第10回後志ブロック会議資料
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塩谷~小樽間

塩谷~小樽間でも、鉄道は国道より距離が長い区間があります。また、傾斜地ではガードレールなどの設置が必要です。小樽駅構内は塩谷駅側まで電化されているため、BRTが乗り入れる際は乗り入れ方法の検討が必要です。

一方、国道は、小樽駅付近や右折交差点などで混雑する場合があります。右折地点では、連節バスの場合と他車両との整理が必要です。また、塩谷付近は長い坂道で、冬季に連節バスが走行できるかの確認をしなければなりません。

函館線BRT化資料
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会第10回後志ブロック会議資料

余市駅付近のみ専用道

こうした状況から、余市~小樽間の鉄道用地を全てBRT専用道にすることが、適切とは限りません。そのため、余市駅付近のみをBRT専用道とする案も浮上しています。余市駅周辺の鉄道跡地数百メートルを専用道とすることで、大川十字街付近の渋滞を回避します。

現在の余市駅はBRTターミナルとして活用し、駅舎にある待合所は残し、ホームを発着場とします。専用道により、国道からターミナルへの進入がスムーズになり、距離も短くなるため所要時間の短縮が期待できます。

函館線BRT化資料
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会第10回後志ブロック会議資料
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鉄道維持なら年4億円の赤字

以上が、余市~小樽間を鉄道存続またはBRT化した場合の検討です。

第三セクター鉄道で存続した場合、駅増設は利用者増による収支改善効果がある一方、運行本数増は費用増を収入増でまかなうことはできません。となると、駅増設をしつつ、現状程度の運行本数で営業するのが基本線になりそうで、その場合、単年度で約4億円の赤字が生じます。

鉄道の場合、単年度赤字は沿線自治体が負担しなければなりません。そのため、4億円を北海道、小樽市、余市町で分担することになりそうです。

象徴的なBRT

BRT化については、鉄道用地をすべてBRT専用道にしてしまうと、距離が伸びる上にダイヤの制約が生じ、トンネルや橋梁など老朽施設の補修も必要になることから、効果的ではなさそうです。

それに対し、余市駅周辺のみ専用道にする案は所要時間が短縮でき、トンネルや橋梁の補修も必要ないことから、低コストで一定の効果が期待できます。

余市駅周辺以外の区間は、国道を走るほうが優位とみられます。ただし、連節バスは厳冬期の坂道走行などに不安があることから、通常のバスを選択せざるを得ないでしょう。

となると、通常のバスが、ごく一部の区間で専用道を走るだけです。この場合「BRT」という呼称は象徴的なものになりそうです。

BRTにした場合の収支予測は提示されていませんが、通常のバスが一部専用道を走るだけならば、長万部~小樽間のバス転換の収支予測と大差ないとみられます。それについては、単年度赤字が全区間で7400万円に収まる見通しです。

鉄道の場合は、単年度の運行赤字に対する国の補助金はありませんが、バスの場合、運行赤字の80%が特別交付税で措置されるので、自治体の負担は軽微です。

鉄道維持とバスの補助金
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会第10回後志ブロック会議資料
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決断のとき

北海道新幹線並行在来線のうち、長万部~小樽間全線を鉄道として維持する場合、単年度で22億円の赤字が予想されています。これに対し、北海道新幹線開業後の輸送密度の想定は425人キロにすぎません。

赤字額に比して輸送量が小さすぎることもあり、長万部~余市間では沿線に鉄道維持を強く求める自治体は見当たらず、バス転換が有力です。

函館線山線輸送密度予測
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会第10回後志ブロック会議資料

一方で、余市~小樽間に関しては、新幹線開業後の輸送密度は1493人キロと想定されていて、それなりの利用者が見込まれます。そのため余市町は鉄道存続を強く求めていて、第三セクター化の可能性も残されています。

ただ、鉄道維持となれば、赤字を沿線自治体が負担しなければならず、将来的には重荷になるでしょう。

沿線人口は減り続けており、国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2018年を基準として、2030年は約20%、2050年は約50%の沿線人口減が予想されています。それは鉄道利用者の減少に直結し、余市~小樽間の輸送密度も2060年度には811人キロに落ち込む見通しです。

それでも鉄道をできる限り維持するのか。新幹線開業のタイミングでBRTを含むバス転換に踏み切るのか。沿線自治体は、年内にも開かれる次回の会議までに方向性を表明することが求められています。

北海道新幹線の並行在来線問題は、大きな決断のときを迎えようとしています。(鎌倉淳)

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