群馬県BRT構想は挫折してしまうのか。計画凍結にコロナが追い打ち

立ち止まって検討中

群馬県の高崎~伊勢崎間にBRT構想があります。具体化に向けて動き始めていましたが、知事が交代して今年度の予算計上は見送り。新型コロナによる環境変化もあり、実現への見通しは不透明です。

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2017年に計画浮上

群馬県のBRT計画は、「東毛広域幹線道路BRT構想」といいます。国道354号線バイパスの「東毛広域幹線道路」にバス高速輸送システム(Bus Rapid Transit : BRT)を導入するというもの。導入予定区間は高崎駅東口~館林駅西口間です。

BRT専用道は設けず、片側2-3車線のバイパス道路にバスを走らせて高速輸送を実現する試みです。

計画が明らかになったのは、2017年11月の群馬県議会です。福重隆浩県議の提案を受けた大沢正明知事(当時)が、「県の未来創生へ向けた新たな取り組みとなり得ると考えられ、検討したい」と応じたのをきっかけに、調査が始まりました。

2018年度に早くも「東毛広域幹線道路BRT構想 全体計画」がまとまり、2021年度を導入目標とするなど、スピード感をもって検討が進められていました。

群馬BRT路線計画
画像:東毛広域幹線道路BRT構想 全体計画(概要)

BRT全体計画

公表された全体計画によると、高崎~館林間の総距離は約53.7km。全部で17の停留所が想定されていて、高崎駅でJR線と、境町駅と館林駅で東武線と連絡します。所要時間は片道約1時間40分です。

BRTにはPTPS(公共車両優先システム)、待合環境施設、ICカード、バスロケーションシステムなどを整備し、快適性と明示性を兼ね備えたシンボリックな車両を導入、15~30分程度の運行間隔で、「乗ってみよう」と思わせるサービスレベルの確保を目指すとしていました。

群馬県がBRTの導入・整備を行い、第三セクターなどが運行する上下分離方式を採用します。沿線市町は、BRTに接続する二次交通として、バスやタクシー、自転車などの利用環境を整えます。BRTと二次交通が交差する場所を乗継結節点とし、道の駅、ショッピングセンター、コンビニ等の民間施設と連携する構想もありました。

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貨客混載も検討

全体計画公表を受けた2019年6月の群馬県議会「まちづくり戦略特別委員会」の議事録を見ると、BRT導入に関して、県側の前向きな答弁が目立ちます。たとえば、県土整備部長が以下のような答弁をしています。

「BRT構想については、色々な施策を展開していかなければならないと考えている。利益等も含め、総合的にBRTを考えていかなければ、事業として無意味なものとなってしまう。将来へBRTを残すためには、民間が維持管理する広告付きのバス待ち環境整備や貨客混載型バス輸送などの民間活力を生かす施策も検討し、2021年に運用が可能となるよう進めたい」

貨客混載を含め、持続可能な交通機関としてBRTを整備していこうという意気込みが感じられます。2019年度には、「東毛広域幹線道路BRT(バス高速輸送システム)構想調査等」として、7,300万円の予算が計上されていました。

効果と採算性を再検討

ところが、2019年7月の群馬知事選挙で山本一太氏が当選すると、風向きが変わります。2019年度に計上された調査予算の一部を消化せず、2020年度予算では調査費用の計上そのものを見送りました。山本知事は記者会見で「事業の効果や採算性等について一度立ち止まって検討するため、今回、予算計上を見送らせていただく」と述べ、BRT計画は一時凍結となりました。

山本知事の判断の背景には、2019年度にまとまった収支計画があります。それによると、初期費用としてバス18台の車両費7億円、バスターミナル整備費10億円など約21億円がかかります。運行経費は、利用客を平日5,279人と見積もって、1日72便で年間約3.2億円と試算されました。一方、運賃収入は約2.6億円にとどまり、年間約6,000万円の赤字が見込まれています。

山本知事は2月21日の県議会本会議で、「BRTの考え方を否定するつもりはない」と前置きしたうえで、「相当時間をかけて議論したが、赤字は6,000万円では済まないと思う」と厳しい見通しを示しました。

さらに、「赤字が出る事業だからやる必要がないとは思わない。公共のために、収益ではない面で手当てをしなければいけない場合もある」と述べたものの、「財政改革を進めなければならない事情もあり、今回はこれをやるべきだという結論に至らなかった」と、BRT構想の予算計上を見送った理由を説明しました。

言葉には出しませんでしたが、要するに「赤字に見合うだけの利用があるのか」という点で、説得力のある材料が見当たらなかったのでしょう。

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「利用できるかもしれない」が28%

山本知事の言葉を借りるまでもなく、公共交通は必ずしも採算性だけで判断すべきものではありません。大事なのは、その交通機関にどれだけの利用者がいるのか、という点です。

群馬県は、自家用車の保有率が全国トップクラスで、公共交通の利用率は鉄道が2.5%、バスが0.3%にすぎません。年に一度も公共交通機関を利用しない人が約6割を占めるという地域です。そこにBRTという新たな公共交通機関が登場したとして、利用者を獲得するのは簡単ではありません。

沿線企業や学校に対して行った調査では、「BRTが運行されるようになった場合、学校からバス停まで移動手段が確保されていれば、利用できるかもしれない」という質問に「そう思う」と回答した割合が全体の28%と公表されています。

肯定的な回答を期待する露骨な誘導質問ですが、それで28%という数字が、この構想への地元の期待度を端的に示していると感じてしまいます。振り返れば、昨年6月の委員会での県の前向きな答弁も、採算性の壁が高いことを認識したうえでの内容でした。

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新型コロナウイルスが追い打ち

追い打ちを掛けているのが新型コロナウイルス感染症の拡大です。政府の外出自粛要請や緊急事態宣言により、全国のバス路線が壊滅的な乗客減に見舞われています。さらに、政府専門家会議から「新しい生活様式」が提言され、公共交通機関に関して「混んでいる時間帯は避けて」といった内容が盛り込まれました。

「新しい生活様式」が公共交通機関に与える影響は未知数です。しかし、自動車保有率がきわめて高い群馬県で、新たな公共交通機関としてBRTを導入するハードルが高くなったことはたしかでしょう。

国内BRTはこれまで、鹿島鉄道や日立電鉄、JR気仙沼線・大船渡線といった、鉄道廃止の代替交通として広まってきました。最近は、新潟市内で導入されたように、専用道のない都市型BRTも登場してきましたが、これも既存交通機関から置き換える位置づけでした。対して群馬BRTは、公共交通機関不毛の地に、まったくの新路線を開拓するという挑戦的な構想です。

「地方バイパス道路へのBRT導入」というのも新機軸です。そのため、実現すれば、地方交通の新たな地平を切り開く路線として脚光を浴びることでしょう。採算的に成功すれば、全国にBRTが広まる一里塚になる可能性も秘めています。

しかし、現状を見る限り、先行きは厳しいと感じざるを得ません。山本知事は、本会議で「相当議論した」と何度も口にしています。そのうえで計画凍結と判断したのですから、それを解除するには相応の理由が必要です。コロナ後の世界にどういう交通機関が求められているのかも見えておらず、群馬BRTはこのまま挫折してしまっても不思議ではなさそうです。(鎌倉淳)

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