伊丹空港の路線網が大きく変わるかもしれません。国土交通省は長距離国内路線の就航制限を見直す方針を示しており、利用率の低い路線が減便され、北海道・沖縄路線が増便される可能性が高まっています。2025年度の座席利用率ランキングから、増便候補と減便候補を探ってみました。
航空輸送統計年報
国土交通省では航空輸送統計年報で、国内航空路線の旅客数や座席利用率を公表しています。最新の2025年度の旅客総数は1億1250万人で、座席利用率の平均は83.4%となっています。
このうち、伊丹空港(大阪空港)発着路線について、座席利用率の高い順にランキングにしてみましょう。
伊丹路線「低利用率」ランキング2025年版
順位 区間 座席利用率 旅客数(人)
01 伊丹―旭川 94.9% 8,767
02 伊丹―新千歳 90.1% 1,414,958
03 伊丹―成田 90.0% 217,470
04 伊丹―石垣 88.8% 11,321
05 伊丹―女満別 88.1% 7,027
06 伊丹―那覇 87.7% 1,283,487
07 伊丹―函館 87.2% 197,951
08 伊丹―徳之島 84.7% 547
09 伊丹―羽田 84.2% 5,333,797
10 伊丹―松本 84.2% 3,968
11 伊丹―長崎 81.4% 394,423
12 伊丹―釧路 81.3% 1,215
13 伊丹―福岡 81.0% 727,805
14 伊丹―出雲 79.2% 191,006
15 伊丹―大分 78.8% 311,161
16 伊丹―屋久島 78.7% 25,866
17 伊丹―石見 78.6% 959
18 伊丹―仙台 78.1% 969,610
19 伊丹―松山 77.6% 525,724
20 伊丹―秋田 77.5% 254,092
21 伊丹―新潟 77.1% 535,960
22 伊丹―青森 77.0% 291,486
23 伊丹―山形 76.8% 138,789
24 伊丹―宮崎 75.4% 660,160
25 伊丹―鹿児島 74.0% 694,859
26 伊丹―熊本 73.7% 575,625
27 伊丹―花巻 72.0% 160,728
28 伊丹―三沢 70.6% 77,990
29 伊丹―隠岐 70.4% 42,459
30 伊丹―福島 69.5% 190,722
31 伊丹―奄美 68.4% 91,921
32 伊丹―但馬 65.9% 39,664
伊丹~旭川、新千歳が上位
もっとも座席利用率の高い路線は、伊丹~旭川線の94.9%でした。この路線はJALが夏季限定で1日1往復のみ運航しています。繁忙期のみの運航とはいえ、非常に高い座席利用率となっています。
2位は伊丹~新千歳線の90.1%です。こちらは通年運航で、JALとANAが合計1日12往復しています。高頻度運航路線としては驚異的な利用率で、大手航空会社のドル箱路線と言えます。
3位が伊丹~成田線の90%。国際線連絡用の路線で、JALとANAが1日1往復のみ運行しています。利用率は高いですが、他の国内路線とは性格が異なります。
ここまでが利用率90%以上の路線です。
羽田より北海道・沖縄が高い
利用率80%台後半の路線は、石垣線、女満別線、那覇線、函館線の4路線です。旭川、新千歳線とあわせて、85%以上の7路線のうち6路線が、北海道・沖縄路線が占めています。
そこから少し間をあけて、8位徳之島線が84.7%で、ようやく9位に羽田線が84.2%で登場します。
伊丹空港の場合、日本を代表する航空幹線である羽田線よりも、北海道や沖縄方面への路線のほうが、利用率は高いわけです。
長距離路線制限ルール
伊丹空港で、北海道・沖縄路線の利用率が高いのには理由があります。伊丹空港には、長距離路線の就航を制限するルールがあるからです。
具体的には、1,000km超の路線は、ジェット機枠(200回)の5%と低騒音機枠の15%(170回)を合わせた範囲内でしか設定できず、現在の上限は1日17往復となっています。
伊丹空港から1,000km超とは、おおむね函館以北、那覇以南を指し、北海道と沖縄路線が該当します。そのため、現在、伊丹空港から北海道・沖縄に運航されている通年運航の定期路線は、札幌(新千歳)9便、函館2便、那覇6便にとどまっています。
旭川や女満別などは、多客期限定の臨時便として運航されています。臨時便も含めて、伊丹の利用率の高い路線が長距離制限の対象に集中していることがわかります。
見方を変えれば、長距離制限ルールのため、北海道や沖縄への路線需要に対して、十分な供給ができていないことを示しています。
長距離制限を見直しへ
こうした状況を背景に、国土交通省の「国内航空のあり方に関する有識者会議」は、2026年5月に公表した報告書で、「長距離国内路線の就航に制限のある空港のルール等については見直されるべき」と提言しました。
つまり、伊丹空港の長距離制限を撤廃または緩和する方針が示されたわけです。
ただ、伊丹空港の発着枠の総数に変化はありません。すなわち、北海道や沖縄への長距離路線を増やすのであれば、他の路線を減らすことになります。
では、減便となりそうな路線はどこでしょうか。
利用率が低めの路線
上記ランキングで、利用率の低い順にみていくと、もっとも利用率が低いのは但馬線の65.9%。ついで奄美大島線の68.4%、福島線の69.5%となっています。60%台はこの3路線のみです。
70%台は、三沢線の70.6%、花巻線の72.0%、熊本線の73.7%、鹿児島線の74.0%と続きます。全体的に、東北、九州地方の新幹線沿線への路線の利用率が低めです。
■利用率が低い路線ランキング
01 伊丹―但馬 65.9% 39,664
02 伊丹―奄美 68.4% 91,921
03 伊丹―福島 69.5% 190,722
04 伊丹―隠岐 70.4% 42,459
05 伊丹―三沢 70.6% 77,990
06 伊丹―花巻 72.0% 160,728
07 伊丹―熊本 73.7% 575,625
08 伊丹―鹿児島 74.0% 694,859
09 伊丹―宮崎 75.4% 660,160
10 伊丹―山形 76.8% 138,789
新幹線と競合する路線
上記の有識者会議の報告書では、「短距離航空路線と高速鉄道の役割分担」を掲げています。これは、新幹線と競合する短距離路線の便数を減らすことを示唆しています。
つまり、低利用率の路線のうち、減便対象になりやすいのは、新幹線と競合する比較的距離の短い路線、ということになります。
具体的にみれば、75%を下回る熊本線(10往復)と鹿児島線(13往復)は減便の候補でしょう。「近距離」とはいえませんが、新幹線で代替可能な福島線(4往復)も、70%を下回っていますので、減便の対象になっても不思議ではありません。
福島線の将来
伊丹~福島線は、現状で、ANAが2往復、IBEXが2往復です。機材はANAがボーイング738とDH4、IBEXがCRJ700です。738は166席の小型機で、DH4とCRJは70席クラスのリージョナル機です。4便合計の席数は約380席です。
ここで、注目したいのが、ANAとIBEXが打ち出した共同事業です。両社は包括的業務提携を結び、2028年度から共通事業機として100席クラスのエンブラエルE190-E2を導入すると発表しました。IBEXは、自前のCRJ機を退役させ、共通事業機のE190でANA便を受託運航します。
100席クラスの機材を使えば、伊丹~福島線は3便で300席を供給できます。現在の年間需要が大きく変わらないと仮定すれば、300席の供給で89%程度の利用率となります。
実際は計算どおりにはいかないでしょうが、70席クラスの機材を100席クラスに置き換えるのであれば、1日3往復に減便される可能性は高そうです。
簡単にいえば、伊丹~福島線は、2028年度以降に全てANA便となり、IBEXがエンブラエル機で受託運航する可能性が高いです。その際に、現在の4往復が減便されるかもしれない、ということです。
IBEX・ANA業務提携の影響
IBEX運航の伊丹路線は、福島のほか、仙台(2便)、新潟(3便)、福岡(2便)の3路線があります。いずれも70席クラスのCRJ機によって運航されています。IBEXの運航機材がすべて共通事業機(E190)になるのであれば、これらの路線でも減便が行われる可能性があるでしょう。
とくに新潟線(77.1%)は、現状でIBEX3往復とANA4往復、JAL4往復となっていますので、ANAとIBEXが共通事業便とした場合、便数削減が行われる可能性もありそうです。
こうした施策により生まれた小型機枠(低騒音機枠)を使い、他の中型機路線の一部便をB737やA320へ小型化すれば、空いた中型機枠(ジェット機枠)を新千歳や那覇路線に転用し、増便できます。
もちろん、空いた小型機枠をそのまま、北海道・沖縄路線に転用することもできるでしょう。時間帯によっては新千歳や那覇便も小型機で十分ですし、旭川、石垣などに定期就航するなら、小型機が適当です。
ダイヤ調整の対象は?
有識者会議の報告書では、大手航空会社間のダイヤ調整なども認められる方向となりました。対象になりそうなのは、限られた便数で、同時間帯に複数社が運航していて、利用率が低めの路線です。
たとえば、秋田線(77.5%)は、JALとANAが各3便を、朝、昼、夕に運航しています。この出発時間帯をばらして共同運航とし、ダイヤを調整したうえで1便程度を整理する余地はありそうです。
羽田線の状況
伊丹空港発着で、最大の利用者数を誇るのは、いうまでもなく羽田線です。その座席利用率は84.2%で、決して低くはありません。
ただ、利用者数自体は伸び悩んでいます。2005年度が647万人(65.4%)、2010年度 514万人(62.0%)、2015年度519万人(71.6%)、2020年度205万人(51.1%)、2024年度510万人(77.2%)、2025年度533万人(84.2%)となっています。( )内は座席利用率です。
2010年頃から500万人程度の利用者で大きく変わらず、利用率だけが徐々に高くなっています。便数も大きく変わってはいないので、機材の小型化が進んできたことがうかがえます。
減便、転用の流れ
ただ、2025年度は大阪・関西万博効果がありました。直近の6月実績をみてみると、羽田~伊丹線の搭乗率は、ANAが81.0%(前年比92.7%)、JALが85.6%(前年比91.7%)です。
対前年比をみると、2026年度通年の全体の利用率は、80%を割り込む可能性もあり、さらなる小型化の余地が出てきそうです。
その場合、羽田線の中型機を小型化して、空いた中型機枠(ジェット機枠)を新千歳線や那覇線に転用する可能性はあるでしょう。現状の羽田線は、JAL、ANAが毎時1本ずつ運航していますが、この運航頻度を下げる可能性は小さく、小型化で対応するとみられます。
ここまでの流れを整理すると、たとえば福島線を減便して小型機枠を生み出し、その枠を羽田線へ振り向け、羽田線を中型機から小型機へ置き換える。さらに、そこで生まれた中型機枠を、新千歳線へ転用して増便する、といった再配分が考えられます。
もちろんこれは筆者が予想した一つの例であり、確定した事実はなにもありません。
再構築の時期に
伊丹空港は利便性が高く、利用者からの人気が高い空港です。ただ、歴史的な経緯もあり、厳格な発着枠が決められていて、新規参入も事実上できません。外部からみていると「動きの小さな空港」でした。
しかし、航空会社の国内線が経営的に厳しい局面を迎えるなか、国交省の有識者会議の報告書が示され、伊丹の路線網も再構築が迫られる時期に来ているように感じられます。
長距離路線規制の撤廃、IBEXとANAの包括提携、大手航空会社の地方路線のコードシェア解禁といった、新たな動きの影響を、もっとも直接的に受けるのが伊丹空港かもしれません。(鎌倉淳)




















