国土交通省の交通政策審議会は、JR各社が鉄道・運輸機構に支払う整備新幹線の貸付料について、30年ごとの更新制度を維持しながら、実際の収益を反映しやすい新たな仕組みへ改めるよう提言しました。固定制を基本としながら、延伸による既存区間の収益増などを反映させます。値上げを警戒するJR東日本は懸念を示しました。
最初の開業から30年
整備新幹線は、鉄道・運輸機構が線路や駅などの施設を保有し、JR各社が借り受けて運行する「上下分離方式」を採っています。
JR各社は施設の使用料として「貸付料」を支払っています。この制度は1997年に開業した北陸新幹線(高崎~長野)が最初の適用区間で、30年の貸付期間が2027年9月に満了することから、交通政策審議会の小委員会が今後の制度のあり方を検討してきました。
そのとりまとめが7月31日に公表されました。

「30年間」は維持
とりまとめでは、現在30年間としている貸付期間は維持することが適当としました。
その理由として、新幹線の建設財源を長期的・安定的に確保できることや、JR各社が経営計画を立てやすくなることを挙げました。したがって、開業31年目以降も、JR各社は30年間を基本とする新たな貸付契約を結ぶ方向となります。
一方で、貸付料は30年間固定という現在の仕組みを見直します。
基本は固定制を維持しながらも、新たな区間の開業などで収益が大きく変動した場合には貸付料を見直せる仕組みなどを導入するよう求めました。
「受益」の考え方も変更へ
現在の貸付料は、「新幹線が開業した場合」と「開業しなかった場合」の収益差(受益)を計算する「With/Without方式」で算定しています。
しかし、新幹線の延伸や並行在来線の経営分離など、30年前とは鉄道ネットワークが大きく変化し、この方式では受益を正確に算定しにくくなっています。
そのため報告書では、With/Without方式を見直し、不動産賃料の改定手法なども参考にしながら、新しい算定方法を導入すべきと提言しました。
また、新幹線の延伸で既存区間の利用が増える「接続利益(根元受益)」や、関連線区の増収、並行在来線の経営分離による利益、構内営業料などの関連収入について、より適切に貸付料へ反映させるよう求めています。
大規模改修は鉄道・運輸機構が担う方向
とりまとめでは、将来的な設備更新についても初めて方向性を示しました。
開業から30年を超える整備新幹線では、今後、大規模改修が必要になることが見込まれます。
この費用については、施設の所有者である鉄道・運輸機構が責任を負うことが妥当と整理しました。JR各社との役割分担を明確にしたうえで、必要な財源確保策を検討すべきとしています。
自然災害による大規模復旧についても、施設所有者の責任や費用負担のあり方を整理するよう求めました。
整備新幹線の建設費増
今回の見直しの背景には、整備新幹線の建設費増大があります。
北海道新幹線では1兆円を超える事業費増加が見込まれているほか、北陸新幹線の新大阪延伸や、西九州新幹線の整備にも巨額の財源が必要です。
とりまとめでは、貸付料は整備新幹線の重要な財源であり、「北海道・北陸・西九州の各整備計画路線の確実な整備」を念頭に制度を見直す必要があると明記しました。
今回の提言を受け、国土交通省は制度設計や法令改正を進めます。まずは2027年9月に貸付期限を迎える北陸新幹線(高崎~長野)から新制度を適用し、その後、他の整備新幹線にも順次適用していく方針です。
JR東日本は懸念
一方、JR東日本は、国土交通省のとりまとめに対して、改めてJR東日本の考え方を示す文章を公表しました。
それによりますと、整備新幹線は全国新幹線鉄道整備法に基づく国家プロジェクトであり、その基本スキームは「JR各社の経営努力を尊重し、経営に悪影響を与えないことを前提として進められてきた」としています。
そのうえで、整備新幹線の建設財源として貸付料を長期的、安定的に確保するというとりまとめの考え方について、「民間会社としての経営に大きな影響を与える貸付料の算定方法と、整備計画路線の建設等に係る資金需要への対応は切り離すべき」と主張しました。
旧運輸省との合意
また、JR東日本は、1991年に旧運輸省と確認した内容として、現行の受益に基づく貸付料は開業後30年間で終了すること、31年目以降は「施設の状態に見合った維持管理等に要する費用」を根拠とすること、貸付料には上限があること、整備新幹線施設を譲渡しないこと――の4点が合意されていると、改めて説明しました。
これらを「31年目以降の議論の出発点」と位置づけるよう求めています。
同社は、営業努力による収益増加まで貸付料に反映すれば、「将来のあらゆるサービス向上等の営業努力を断念することになる」と指摘。関連事業の収益を貸付料算定の対象とする案についても、不動産やホテル事業は自社資金で投資した事業であり、その収益を貸付料に組み込めば過去の投資判断を無意味にすると懸念を示しました。
国とJR東日本の溝は埋まらず
新幹線貸付料の議論では、国土交通省とJR東日本を代表とするJR側の考え方の違いが鮮明になっています。
国側は、整備新幹線の貸付料は国民の資産から生まれる収益であり、延伸などでJRの利益が増えた場合は、その一部を貸付料に反映させ、北海道新幹線や北陸新幹線、西九州新幹線など、今後の整備財源へ生かすべきだという立場です。
これに対しJR東日本は、31年以降の貸付料の扱いの原則については国と合意済みであり、現在も有効であるという立場です。
また、経営努力や利用促進の成果まで貸付料へ反映されれば、設備投資やサービス向上へのインセンティブを損ないかねないという懸念も示しています。
着地点は見えず
交通政策審議会の報告書は、30年間の貸付期間は維持しつつも、収益変動を貸付料へ反映しやすい制度への転換を打ち出しました。これは国側の考え方を色濃く反映した内容で、JR東日本の考え方とは大きな隔たりがあります。
制度の詳細は今後詰められますが、貸付料が実際に引き上げられれば、JR各社の収益に影響する一方、整備新幹線の建設財源は厚くなります。
整備新幹線の建設財源を確保したい国と、民間企業として経営を安定させたいJRとの溝は大きく、とりまとめが公表されたとはいえ、最終的な着地点は見えません。(鎌倉淳)



















