JR東日本「ワンマン運転」の先にある課題。「無人運転」は実現するか

ドライバレスと言うけれど

JR東日本が首都圏のワンマン運転を2025年以降に導入すると発表しました。将来は運転士が乗務しない「無人運転」も視野に入れますが、どんな課題があるのでしょうか。

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2025年以降に導入

JR東日本は、首都圏の一部路線で、車掌が乗車せずに運転士1人で運行するワンマン運転を2025~30年に導入すると発表しました。ワンマン運転はJRの地方路線では一般的で、首都圏でも一部私鉄で実施されていますが、東京都内のJR線では初めてです。

ワンマン運転の導入を目指す路線として示されたのは、山手線、京浜東北・根岸線、南武線、横浜線、常磐線の5線です。深沢祐二社長は記者会見で、これらの路線選定について「首都圏で輸送量が一番多いところをベースとする」と明かしました。

ワンマン運転
画像:JR東日本プレスリリース

ワンマン運転の実施のため、ホームドアなど駅設備の整備や、ワンマン運転に必要な車両の改造、ATO(自動列車運転装置)の導入などをおこないます。運転台にモニターやマイクをつけたり、乗客の乗降が確認できるカメラをホームに設置するなどの工事を進めます。

首都圏のワンマン運転は、東京メトロ副都心線や南北線、東急目黒線などで行われていて、設備さえ整えば混雑路線でも実施は可能であることが実証されています。東急では東横線での導入も検討しています。したがって、JRでも設備さえ整えば実現は難しくなさそうです。

山手線

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ドライバレス運転も目指す

JR東日本では、ワンマン運転とあわせて、将来的に「ドライバレス運転」を目指すことも明らかにしました。ドライバレスとは、運転資格のない乗務員が添乗するだけで運転士が乗務しない形態です。運転自体はシステムが行うので「無人運転」の一種ともいえますが、車内に添乗員がいるので、乗務員が無人となるわけではありません。

国際規格IEC62267では、鉄道の自動運転段階「GoA」は4段階に分かれています。すでに実用化されている上記のワンマン運転は「GoA2」に相当します。次の段階が「GoA3」のドライバレス運転(DTO:Driverless Train Operation)で、さらに「GoA4」が添乗員がいない完全無人運転(UTO:Unuattended Train Operation)となります。

JR東日本が、ワンマン運転の次の段階として目指しているのがGoA3のドライバレスです。しかし、「ワンマン運転」と「ドライバレス」の間には技術的に大きなハードルがあり、そう簡単ではありません。

鉄道分野の自動運転
画像:「鉄道分野の自動運転」古関隆章(学術の動向2020.5)より
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鉄道における自動運転技術検討会

国土交通省では、「鉄道における自動運転技術検討会」で鉄道の自動運転の検討をしてきました。その令和元年「とりまとめ」を見ると、技術的な課題の大枠が見えてきます。

「とりまとめ」では、上記分類にくわえ、「運転士以外の緊急停止操作等を行う係員が列車の先頭車両の運転台に乗務する形態」としてGoA2.5という概念を導入しています。

国交省自動運転
画像:国交省「鉄道における自動運転技術検討会 令和元年度とりまとめ」より

GoA2.5は先頭車両に添乗員が乗り緊急時に停止操作を行いますが、GoA3は先頭車両に限らず乗務し、緊急時でも操作を行わないというのが違いです。GoA2とGoA3の乖離が激しいので、中間的な概念を挿入したようです。

GoA2.5以上の、各段階の自動運転のイメージは下表のとおりです。

国交省自動運転
画像:国交省「鉄道における自動運転技術検討会 令和元年度とりまとめ」より
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自動運転のためのシステム

システムに注目すると、鉄道の通常時の自動運転に必要なのは、ATO(自動列車運転装置)、ATC(自動列車制御装置)、可動式ホーム柵(ホームドア)です。

ATOが発車時刻の確認、出発操作、停止位置の確認などに対応し、ATCが出発時の信号確認などに対応します。走行中の速度制御はATCとATOがあわせて対応します。ドアの開閉や乗降状況には、可動式ホーム柵(ホームドア)が要件となります。

逆にいえば、ATOやATC、ホームドアを整備しないと自動運転は実現しないわけです。こうした背景もあり、JR東日本では、ATOや、ATCの進化形であるATACS(無線式列車制御システム)の導入拡大方針を示しています。

課題は異常時対応

鉄道のドライバレス運転で大きな課題となるのは異常時の対応で、列車走行路上の安全確保や、乗客の避難誘導、緊急停止後の運転取扱いなどです。「とりまとめ」では、そのためのさまざまな検討を求めています。

列車走行路上の安全確保で徹底を求めているのは「周辺環境との分離」です。たとえば、線路への進入防止のためには、侵入防止柵や自動車用防護柵の増備が必要です。さらに、トラックなどの積荷の転落を防ぐ積荷転落防護柵や、踏切に近い位置の線路上に円錐状の突起を敷き詰めた線路侵入防護板の設置も必要となります。

最も重要なのは踏切で、たとえば大型車が通行する踏切には、二段型遮断装置、オーバーハング型警報装置などが必要になります。踏切内にクルマなどが停まっていた場合に検知する踏切障害物検知装置や、遮断機が下りてない場合に列車を停止させる装置の導入も検討課題としています。

さらに、列車前方支障物に対応するためのセンサ技術の開発・評価も必要です。

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踏切のある路線にも

JR東日本は、ドライバレス運転の導入路線として、山手線を第一候補として考えているようです。同線では唯一の踏切が約10年後に廃止される見通しとなっていて、大きな課題である踏切問題が解決することもあり、ドライバレス運転の導入に適しています。過去には山手線で「自動運転」の実験もおこなっています。

一方で、将来的には踏切のある路線でもドライバレス運転を目指しているのは間違いありません。国交省の検討会資料でも、踏切のある路線への導入が目標となっています。

2030年までに、山手線や京浜東北線などでワンマン運転が実現した後、ドライバレス運転の展開も各線で検討されていきそうですが、解決しなければならない課題が多いのも事実です。

近年の列車内の事件などを踏まえ、車内の安全性に関しての議論も出てくるでしょう。

鉄道の省力化は重要ですが、「無人運転」がどこまで実現するかは、今の段階では見通せません。(鎌倉淳)

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