サウジアラビアが観光ビザを発給する方針を固めたそうです。サウジアラビア観光局が明らかにしたもので、複数の欧米メディアが報じています。
観光客を誘致する方針を固めた
AFP2017年11月1日付は、「サウジアラビアの観光当局は10月31日、同国が近く観光ビザの発給を始める予定があることを明らかにした」と報じました。サウジアラビア観光局のスルタン・ビン・サルマン・ビン・アブドル・アジズ王子が、声明で、「観光ビザが近く導入される」と明らかにしたそうです。
英タイムズ2017年11月2日付も「サウジアラビアは経済の原油依存を減らすため、観光ビザを発給して観光客を誘致する方針を固めた」と報じました。
これが旅行者にとっていかに大ニュースか。それは、サウジアラビアがこれまで観光ビザをほとんど発給してこなかったという事実を知っている方にはわかるでしょう。
「世界でもっとも旅行がしにくい国」
サウジアラビアには、イスラム教の聖地メッカのほか、歴史都市ジッダ、ナバティア人の考古遺跡マダイン・サーレハ、広大なアラビア砂漠など、旅行者を惹きつける魅力的な場所や観光資源が多数あります。
何しろアラビア半島の大半を占める大国ですから、その面積だけでも旅行者を惹きつけ、一度は行ってみたいと思わせるに十分です。
しかし、サウジアラビアは、これまで観光ビザの発給にはきわめて消極的でした。イスラム教徒にはメッカへの巡礼ビザが発給されますが、イスラム教徒以外は、非常に高額なツアーに参加するか、商用ビザでも取らなければ、サウジアラビア国内を旅行するのは困難だったのです。
そのため、「世界でもっとも旅行がしにくい国の一つ」などとも言われてきました。
イエメンからの通過ビザで旅行可能だった
自由旅行を好むバックパッカーの間では、サウジアラビアを旅行する「裏ワザ」の研究も流行りました。
抜け穴は「通過ビザ」で、サウジアラビア航空を使ってリヤド空港でストップオーバーを狙う人がいましたが、空港の外には出られず、たいてい失敗に終わったようです。
ほとんど唯一可能だったのが、イエメンからヨルダンへ抜ける場合の通過ビザで、これは2000年代に実際にサナアで発給された例があるようです。筆者もイエメンに行ったとき、通過ビザにトライしている旅行者を実際に見かけました。
しかし、2011年のイエメン騒乱以来、イエメンを旅行すること自体が困難になったうえ、現在はイエメン内戦にサウジアラビアが介入して両国は戦争状態にあるため、とてもこんな通過ビザは出ないでしょう。
仮に出るとしても、サウジアラビアを旅行するために、わざわざイエメンまで行ってビザを取り、バスでアラビア半島をヨルダンまで縦断するなんて迂遠すぎて、バックパッカーでも筋金入りでないと、無理なルートです。
現実的な旅としては、2006年から2010年に試験的な観光プログラムが実施され、毎年約2万5000人の観光客がサウジアラビアを訪れたそうです。しかし、この施策も継続はされず、「世界で一番旅行しにくい国」の称号を返上するには至っていません。
外国人訪問客を倍増へ
前置きが長くなりましたが、タイムズの報道によると、「モハメド・ビン・サルマン皇太子が、低迷する経済を浮上させるため昨年春に『ビジョン2030』計画を発表した際、観光を奨励するという考えが浮上した」としています。
そして、「サウジアラビアの外国人訪問客は、大半がイスラム教の巡礼者で、今年800万人余りと見積もられる。これを2020年までに倍増させることを望んでいる」とも記しています。
つまり、イスラム巡礼者以外を対象とした観光ビザを発給し、年間800万人以上の観光客を受け入れることを示唆しているのです。
メッカへは行けるのか
これが事実なら、それだけで旅行者には大ニュースです。さらに興味が湧くのが、イスラム教の聖地メッカを訪れることができるのか、という点でしょう。
これについてタイムズは、「聖地メッカへ非イスラム教徒が入ることはできないという制限は、継続される可能性が高い」とも記しています。
実際問題として、イスラム教国の盟主を自認するサウジアラビアが、聖地メッカをキリスト教徒や仏教徒に開放するとは思えず、メッカへの入域制限は続くと考えた方が良さそうです。
女性の旅行は?
サウジアラビアは、イスラム教の戒律により、女性の服装や行動に厳しい規制を設けていることもよく知られています。たとえば、全ての女性は、黒い衣装のアバヤを着用する必要があります。
タイムズでは「新しい観光ビザでも、宗教法で定められている女性旅行者への厳しい規則が緩和されるかは不透明だ」と記しています。
新しい海外旅行先の目玉に
現時点では、サウジアラビア王国大使館のウェブサイトなどで、新しい観光ビザに関する情報は出ていません。
新ビザが設定されるにしても、自由旅行者が取得できるのか、などの情報もありません。確たる情報が出るまでは、本当に新ビザ制度が実施されるのかも、不透明です。
もし自由旅行が可能になるのなら、サウジアラビアは、新しい海外旅行先の目玉になるのは間違いありません。自由旅行が解禁されて間もない国に行くのは楽しいものですし、新ビザが本当に設定されれば、旅行を検討したいところです。
サウジアラビアのメッカ・メディナを結ぶ「ハラマイン高速鉄道」も、2018年3月に開通する予定と報じられています。砂漠の高速鉄道に、日本人旅行者が乗れる日も近いかも知れません。(鎌倉淳)