葛西臨海水族園の建て替え計画が動き出します。東京都が事業計画案を明らかにしました。「新葛西臨海水族園」について、わかっている詳細をまとめてみました。
東京を代表する水族館
葛西臨海水族園は1989年に開園し、東京都を代表する博物館として知られてきました。開演30年を経て建物設備が老朽化してきたため、施設を運営・管理する東京都では、2026年度を開園目標として、建て替えを計画しています。その事業計画案が公表されました。パブリックコメントを経て、2020年3月ごろに正式に事業計画を決定します。
計画案によると、現在の水族園の敷地内にある広場に新しい施設を建設する予定です。面積は2万2500平方メートルで、現状より16%拡大。施設の整備費は244億~276億円と想定しています。
近い海、遠い海
新水族園では、新たな展示テーマを設定し、「近い海」「遠い海」とします。来園者「私」からの物理的な距離や心理的な距離を表し、来園者がいる東京をはじめとし、世界の代表的な生態系の展示空間を創造します。
総水量は現在と同等の4,600トン程度。目玉となるクロマグロの回遊を展示する大水槽は3,000トンとします。これにより、マグロの安定的な産卵が期待できるということです。
新葛西水族園の展示内容案
それでは、以下に、主な展示内容案を紹介していきましょう。
東京湾流域の生態系
東京湾流域の生態系では、河川を「源流~上流」「中流~下流」「河口」「池沼」「田んぼ」の5つの水槽にわけて展示します。多摩川水系を想定し、瀬、淵、滝つぼを再現。源流から河口までの河川のつながりを演出します。
ニッコウイワナ、ヤマメ、アユ、ウグイ、フナ類、ドジョウ、ボラ、マハゼ、ヒイラギ、ギンブナ、タナゴ類、イシガメ、ゲンゴロウ、ニホンアマガエルなどを展示します。
東京湾の生態系
東京湾の生態系では、「干潟」「砂地」の2つの水槽で東京湾を再現します。アマノリ類や、トビハゼ、ウミタナゴ類、マアジ、スズキ、ボラ、ハゼ類、大型ヤドカリ類、クラゲ類、共生イソギンチャクなどを展示します。
「干潟」水槽では、干潟独自の生息環境が見られる展示を行います。「砂地」の水槽では、アマモ場をさまざまな角度から観察できる水槽形状とします。
温帯から亜熱帯の海の生態系
三浦半島や房総半島などの東京湾沿岸や小笠原諸島を想定した、「岩礁」の展示です。磯から藻場までの陸域、水域の景観の移り変わりを再現。ボラ、カサゴ、クロダイ、ヒトデ類、ナマコ類などを展示します。
テングサ類や、ワカメ、カジメ等を植栽し、世界でも希有な「海藻の展示」を目玉の一つとします。ユウゼン、タマカエルウオなど、小笠原固有の生き物も展示します。
サンゴ礁の生態系
「サンゴ礁の海」と題する水槽で、300~500トン規模の大型水槽を予定しています。東シナ海沿岸を想定し、サンゴ礁を構成する多様な生物を展示。明るい海とサンゴ礁の鮮やかな世界を再現し、マグロ水槽と対比させます。サンゴ礁をさまざまな角度から見ることができるよう、水槽形状を工夫します。
ドクウツボ、ハナミノカサゴ、メガネモチノウオ、テングハギ、タマカイ、カクレクマノミといった、おなじみの熱帯魚を展示します。
外洋の生態系
クロマグロの回遊を再現した、葛西臨海水族園の目玉展示です。3,000トンの大型水槽は西太平洋の「外洋」を想定し、クロマグロ、アカシュモクザメ、イワシ類、マンボウ、ウミガメなどを展示します。
マグロをさまざまな角度から観察できる水槽形状とし、上下左右で水に囲まれた空間を体感できることを狙います。塗装や照明、映像などを活用し、水槽壁面を感じさせない工夫も取り入れます。
極地の生態系
「北極、南極の海」を想定した水槽では、ノトセニア類、アークティックコッド、ショートホーンスカルピンなどを展示します。生き物の展示に加えて、映像や模型、パネルなどを活用し、生物や現地の状況を伝えます。
「極地にすむ鳥」の水槽では、南半球の寒帯域を想定し、100トンの水槽にオウサマペンギン、イワトビペンギンを展示します。
「温帯のペンギン」水槽では、南半球の温帯域を想定し、300トンの水槽にフンボルトペンギン、フェアリーペンギンを展示します。ペンギンが生息する海の生き物を観察できる演出を行います。
ペンギン水槽では、抱卵や孵化を観察できるようカメラを設けるほか、えさやりを観察、体験できる設備も用意します。
海と空と陸をつなぐ生き物
「海鳥」水槽を設置。北半球の亜寒帯域を想定し、100トンの水槽にエトピリカ、ウミガラスなどを展示します。
施設規模は拡大
前出したように、新葛西臨海水族園の施設規模は拡大します。
エントランスや通路、トイレなどの来演者共用スペースの床面積は現在2,000平米ありますが、無料休憩所を増やし、救護室を拡大します。さらに、授乳室の確保やバリアフリー対応のため、2,600平米に拡張します。
レストランと売店は、現状では1,300平米ありますが、混雑時に客席が確保できない現状を踏まえて、1,500平米に拡張します。レストランは外の景色を眺められる位置に計画し、水槽も設置します。
教育普及スペースであるレクチャーホールは、現在140平米の床面積しかありません。新施設では、資料閲覧スペースや、生物を触りながら学習できるウェットラボを新設するなどして、教育普及スペースを600平米に拡充します。ウェットラボはキッズスペースとともにホールと連結し、無料休憩所など多目的に使えるような配置とします。
水槽を展示する一般展示スペースは、現状の4,000平米の床面積を維持します。展示水槽の面積は、現状で1,600平米の床面積がありますが、1,700平米に拡張します。
そのほか、バックヤードにあたる研究スペース、飼育スペース、設備機械スペース、管理スペースなどを拡張します。新たな水族園の使用面積は、現状の1万9,400平米から2万2,500平米に拡大します。
入園料は?
「新葛西臨海水族園」の入園料は未定ですが、試算では現状維持の大人700円のほか、1,000円、1,500円、2,000円の4パターンを例示しています。
事業計画素案では、「都立の水族館としての使命を果たす観点から、誰でも利用しやすいように、適切な価格とする」としています。「適切」がいくらなのかは不明ですが、2,000円までの価格を例示していることから、1,000円程度に値上げされる可能性が高そうです。
葛西臨海水族館の建て替えは、2021年度までに事業開始のための手続きを終え、2022年度から設計、工事などにとりかかり、2026年度の開園を目指します。
現状の施設は建築家の谷口吉生氏が手掛けたもので、解体を惜しむ声もあります。施設を保存・活用するかどうかは検討中です。