JTBが取扱額でシェア5割に迫る。新コロで旅行業界の寡占化が進むのか

新型コロナで大手が強く

主要旅行会社の取扱状況の7月速報がまとまりました。JTBが比較的堅調に回復し、統計上のシェア5割に迫る勢いです。JR・航空系の旅行会社にも回復に勢いがある一方、海外旅行の比重の高い旅行会社は厳しい状況が続きます。

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深刻ながら底打ち

観光庁が発表した2020年7月の旅行業者の旅行取扱状況速報によりますと、国内主要旅行会社の総取扱額は約522億円で、前年同月比12.6%となりました。依然として厳しい状況が続きますが、4月4.5%、5月の2.4%、6月の7.1%に比べると改善しています。

6月の総取扱額は約287億円でしたので、それに比べれば1.8倍になりました。コロナ禍の影響は依然として深刻ですが、5月を最悪期として底打ちした印象もあります。

自由の女神

主要旅行業者の旅行取扱状況速報

7月の内訳は、国内旅行総取扱額が約492億円で対前年同月比21.6%。海外旅行が約20億円で同1.2%、外国人旅行(訪日旅行)が約9億円で同5.4%です。回復基調にある国内旅行が総取扱額の94.2%を占める一方で、海外旅行と外国人旅行は壊滅的な状況が続いています。

主要旅行会社の2020年7月の取扱高を見てみましょう。

主要旅行会社取扱高2020年7月(単位:百万円)
会社名 海外旅行 外国人旅行 国内旅行 合計
取扱額 前年比 取扱額 前年比 取扱額 前年比 取扱額 前年比
JTB 322 0.6 930 12.3 23,718 29.0 24,971 17.9
HIS 306 1.0 16 0.6 824 15.7 1,148 2.9
KNT-CT 243 1.8 0 2,337 10.0 2,580 6.7
日本旅行 3 0.0 0 5,008 22.8 5,012 14.1
阪急交通社 54 0.3 0 960 9.9 1,015 3.4
JALパック 1 0.0 0 4,091 28.7 4,092 22.0
ANAセールス 19 0.9 1 0.7 3,112 20.3 3,132 17.8
東武トップツアーズ 50 1.9 0 811 10.9 861 8.1
JR東海ツアーズ 0 1 0.5 1,911 24.7 1,912 23.6
名鉄観光サービス 10 0.6 1 0.6 1,264 22.7 1,275 17.5
農協観光 2 0.5 0.08 0.1 643 10.5 646 9.6
ビッグホリデー 0 0 486 12.6 486 11.5
日新航空サービス 125 2.9 57 10.5 182 3.8
びゅうトラベルサービス 0.6 0.9 1 0.8 409 12.0 411 11.2
読売旅行 3 0.6 0 125 5.0 129 4.2
エムオーツーリスト 148 4.6 0 60 26.5 208 6.0
日通旅行 151 6.0 0.05 0.1 86 13.9 238 7.4
HTB-BCDトラベル 68 3.9 0 362 28.1 431 14.2
西鉄旅行 20 1.8 0 390 22.1 411 13.9
合計 2,046 1.2 955  5.4 49,238 21.6 52,241 12.6

出典:観光庁「主要旅行業者の旅行取扱状況速報」。上位企業のみ抜粋。

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前年比首位はJR東海ツアーズ

対前年同月比でみた場合、トップはJR東海ツアーズの23.6%。同社は7月中旬以降、東海道新幹線使ったキャンペーン「ひさびさ旅は、新幹線!」を実施。格安ツアーを集中投入していて、その販売効果が表れたようです。JR東海の子会社として東海道新幹線を使ったツアーを自社で組めるというメリットを活かし、最も回復している旅行会社といえます。

JR東日本の子会社・びゅうトラベルサービスは11.2%とJR東海ツアーズに比べれば伸び悩みました。びゅうも、東北・上越・北陸新幹線などを使ったツアーを自社で組んでいますが、JR東日本は新幹線の半額チケット「お先にトクだ値スペシャル」をJR本体で販売しています。

JR東海は、新幹線の格安商品をJR東海ツアーズに任せていて、本体ではあまり発売していません。その差がびゅうとJR東海ツアーズの差となって出ているように思えます。

JR西日本の子会社である日本旅行は14.1%で、平均よりやや上の回復ですが、JR東海ツアーズには及びません。JR西日本も新幹線の格安チケットをe5489で販売しています。こうした親会社の販売施策の違いが、関連旅行会社の回復状況に反映している側面がありそうです。

JALパックも健闘

航空系では、JALパックが総取扱額で対前年比22.0%と健闘しました。JALパックと言えば海外旅行というイメージがあるかもしれませんが、実は通常でも国内旅行の比重が7割を占めます。新型コロナ禍でも、自社を使ったツアーを活用し、堅調な回復を見せました。

ANAセールスは17.8%で、JALパックには及ばないものの、まずまずの回復ぶりです。通常は、ANAセールスとJALパックの国内旅行取扱額は拮抗しているのですが、7月はJALパック40億円に対し、ANAセールスは31億円にとどまっていて、少し差が開きました。

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JTBが業界シェア5割に近づく

旅行業最大手のJTBは総取扱額249億円で、統計上の取扱額全体の47.8%のシェアとなりました。全体の半分に迫る数字です。

観光庁統計に載っていない旅行業者も多いので、JTBが業界シェア5割に近づくとまではいえませんが、統計の範囲内でも、前年同月は約33.6%でしたので、コロナ禍で急速にシェアを伸ばしていることがわかります。

対前年比こそ総取扱額で17.9%と、JR東海ツアーズやJALパックに及ばなかったですが、売り上げ規模では圧倒しています。とくに国内旅行では対前年比29%という結果を残し、強さを見せました。

JTBは、外国人旅行でも前年比12%に回復していて、外国人旅行全体の97%のシェアを占めるに至っています。出入国が難しい状況で、外国人の訪日旅行を一手に引き受けている印象です。ただ、そのJTBでも、海外旅行は対前年比0.6%と振るわず、3億円の取扱額にとどまりました。

寡占化の兆し

大手旅行会社で厳しい状況が続くのは、海外旅行を主力とするHIS。総取扱額で対前年比2.9%と低空飛行が続きます。国内旅行では対前年比15.7%と健闘しているのですが、同社は国内旅行の取扱額がもともと少ないため、全体を押し上げるには足りません。

同様に、海外旅行の比率が高かった阪急交通社も、総取扱額で3.4%と厳しい状態が続いています。表には載せていませんが、中堅旅行会社でも海外旅行が主力の会社は軒並み厳しい数字となっています。

まとめると、旅行業界は国内旅行を中心に回復していて、JR、大手航空系が比較的堅調です。JRと大手航空系は、自社の交通機関を利用した格安ツアーを設定して、売り上げを確保しているという構図です。

JR、航空以外では、JTBが圧倒的な強さをみせています。旅行会社の経営難が伝えられるなか、安心感を求める利用者が、JR、航空系に加えて、JTBを利用しているのでしょうか。

単価の安い国内旅行がほとんどでこの状況ですから、今後、単価の高い海外旅行ツアーが回復する局面では、信頼度の高いJTBのシェアがより高まるかもしれません。新型コロナ禍は、旅行業に寡占化をもたらす契機になるのでしょうか。

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