JR東日本「2020年度輸送密度」を分析する。公表区間を細分化した意味は?

新型コロナで深刻に

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公表区間を細分化

JR東日本が発表した2020年度の輸送密度については、公表内容の変化も指摘しておかなければなりません。2019年度に比べ、区間の分け方がより細かくなっているのです。

たとえば、両毛線は、2019年度の発表では「小山~桐生」と「桐生~新前橋」の2区間のみの分類でしたが、2020年度の発表では「小山~足利」「足利~桐生」「桐生~伊勢崎」「伊勢崎~新前橋」の4区間に分けられています。これにより、「足利~桐生」の輸送密度が低く、2020年度で2,842にすぎないことが明らかになっています。

こうした公表区間の細分化は、多くの路線でおこなわれています。2020年度公表分から輸送密度の細分化がおこなわれた路線を一覧にしてみると、以下のようになります。

2020年度に細分化された区間と輸送密度(人/日)
路線名 区間 2019年度 2019年度
内訳
2020年度
総武本線 佐倉~成東 10,828 18,929 12,986
成東~銚子 6,815 4,683
中央本線 高尾~大月 34,305 42,677 20,402
大月~甲府 28,031 11,967
甲府~小淵沢 14,625 15,791 7,232
小淵沢~塩尻 13,670 7,239
東北本線 大宮~古河 94,652 155,366 102,717
古河~宇都宮 48,033 29,720
新白河~郡山 9,234 7,028 5,837
郡山~福島 11,211 8,711
白石~岩沼 30,649 15,913 11,851
岩沼~仙台 47,333 35,847
仙台~松島・高城町 18,103 26,272 19,629
松島~小牛田 9,908 7,567
一ノ関~北上 8,414 4,581 3,956
北上~盛岡 11,814 9,961
青梅線 立川~拝島 120,701 190,704 140,281
拝島~青梅 79,061 59,755
常磐線 取手~土浦 60,590 91,484 53,159
土浦~勝田 46,355 26,382
勝田~高萩 18,809 29,977 21,894
高萩~いわき 8,905 6,099
外房線 千葉~蘇我 84,248 207,567 150,323
蘇我~茂原 68,884 49,301
茂原~勝浦 4,798 6,791 4,604
勝浦~安房鴨川 1,543 1,017
仙石線 あおば通~東塩釜 20,438 43,798 33,065
東塩釜~石巻 7,803 5,400
内房線 君津~館山 56,624 3,599 2,711
館山~安房鴨川 1,596 1,245
両毛線 小山~足利 8,403 9,921 6,954
足利~桐生 4,457 2,842
桐生~伊勢崎 15,138 9,962 7,190
伊勢崎~新前橋 20,619 14,693
信越本線 長岡~新津 14,884 11,012 8,362
新津~新潟 27,136 21,058
八高線 八王子~拝島 20,505 31,705 22,689
拝島~高麗川 15,275 10,220
越後線 吉田~内野 13,462 7,339 5,930
内野~新潟 22,760 16,892
左沢線 北山形~寒河江 3,282 4,697 3,997
寒河江~左沢 875 742
奥羽本線 福島~米沢 9,726 8,985 2,701
米沢~山形 10,358 4,740
新庄~湯沢 895 416 212
湯沢~大曲 1,704 1,171
追分~東能代 2,170 2,916 2,152
東能代~大館 1,485 1,012
大糸線 松本~豊科 5,547 9,229 7,280
豊科~信濃大町 3,777 3,047
信濃大町~白馬 599 762 511
白馬~南小谷 215 126
磐越西線 郡山~会津若松 2,676 2,904 1,638
会津若松~喜多方 1,790 1,509
喜多方~野沢 383 534 429
野沢~津川 124 69
津川~五泉 528 408
小海線 小淵沢~小海 638 450 283
小海~中込 1,164 978
飯山線 豊野~飯山 1,336 1,696 1,444
飯山~戸狩野沢温泉 503 416
釜石線 花巻~遠野 743 897 575
遠野~釜石 583 328
五能線 東能代~能代 442 975 761
能代~深浦 309 177
深浦~五所川原 548 383
米坂線 米沢~今泉 487 776 641
今泉~小国 298 248
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白馬~南小谷は126

たとえば、中央本線では、これまで「高尾~甲府」だった区間を、大月で分割。「甲府~塩尻」も小淵沢を境に分けられています。これにより、「大月~甲府」は「高尾~大月」に比べ輸送密度が半分にすぎないことと、「甲府~小淵沢」と「小淵沢~塩尻」は大差ないことがわかります。

分割により、輸送密度がきわめて低いことが判明した区間もあります。たとえば、大糸線「白馬~南小谷」の2020年度の輸送密度は126。新型コロナの影響の小さい2019年度でも215にとどまります。特急運行区間としては、かなり低い方でしょう。

大糸線は非電化区間の「南小谷~糸魚川」(JR西日本)の輸送密度が102(2019年度)と非常に低いですが、白馬~南小谷間もそれに及ばぬまでも、相当に低いことが明らかになりました。

細分化で判明した低輸送密度区間

以下では、分割した区間同士で、2020年度の輸送密度の差が4倍以上になる場所をピックアップしてみます。

細分化で4倍以上の差が出た区間と輸送密度(人/日)
路線名 区間 2019年度
公表値
2019年度
内訳
2020年度
外房線 茂原~勝浦 4,798 6,791 4,604
勝浦~安房鴨川 1,543 1,017
仙石線 あおば通~東塩釜 20,438 43,798 33,065
東塩釜~石巻 7,803 5,400
左沢線 北山形~寒河江 3,282 4,697 3,997
寒河江~左沢 875 742
奥羽本線 新庄~湯沢 895 416 212
湯沢~大曲 1,704 1,171
大糸線 信濃大町~白馬 599 762 511
白馬~南小谷 215 126
五能線 東能代~能代 442 975 761
能代~深浦 309 177
深浦~五所川原 548 383
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外房線、仙石線など

区間分割により輸送密度の低さが鮮明になった区間のうち、特急運行区間で目立つのは外房線「勝浦~安房鴨川」の1,017でしょうか。東京起点で勝浦までに降りてしまう利用者が多いことがはっきりしました。

奥羽本線の「新庄~湯沢間」は、特急は走っていないものの、幹線でありながら、廃止されてもおかしくない水準の輸送密度であることもわかりました。

仙石線は「あおば通~東塩釜」33,065に対し、「東塩釜~石巻」が5,400で、東塩釜以遠で輸送量が格段に落ちることがわかりました。磐越西線の「野沢~津川」の69は、ほとんど利用者がいないと言っていいほどの低さです。

なぜ細分化したのか

気になるのは、今回、JR東日本が、輸送密度を細分化して発表した理由です。

説明はありませんが、背景として考えられるのは、今後、各路線で運転本数を「適正化」することを視野に、地元への説明の前段として情報公開をおこなったのではないでしょうか。

地元自治体に減便を打診する前に、利用状況を事前に公表しておくことで、「突然の通告」にならないよう、予防線を張っているのでは、ということです。

となると、「細分化」で輸送密度が低いことが明らかになった区間では、今後減便が検討される可能性がありそうです。該当の沿線自治体は、利用者増への対策を早めに検討しなければならないでしょう。(鎌倉淳)

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