日本と周辺諸国の間には、いくつかの国際旅客航路があります。現在運航中の全ての航路と所要時間、格安利用術などを比較しながらまとめてみましょう。
5社6航路
まずは、日本に発着する、民間旅客が乗船できる国際航路を一覧表にしてみました。5社6航路があります。
旅客運賃はオフシーズンの最低運賃です。車両運賃は4m~5mクラスの乗用車往復を示しています。いずれも時期により価格が変わります。燃油サーチャージや、諸手数料などが別途かかる場合があります。
運航本数は1週間あたりの標準的なスケジュールを示していて、路線により休航日があったり、時期や曜日により減便や増便がおこなわれることもあります。
航路 | 運航会社 | 所要時間 | 運航本数 (週) |
旅客運賃 (片道) |
車両運賃 (往復) |
---|---|---|---|---|---|
下関 釜山 |
関釜フェリー | 12時間 | 7往復 | 9,000円 | 60,000円 |
博多 釜山 |
カメリアライン | 6時間 | 6往復 | 9,000円 | 50,000円 |
博多 釜山 |
JR九州高速船 | 3時間40分 | 7往復 | 16,000円 | — |
大阪 釜山 |
サンスターライン | 19時間 | 3往復 | 13,000円 | 75,000円 |
対馬 釜山 |
サンスターライン | 1時間 | 5往復 | 未確認 | – |
大阪 神戸 上海 |
日中国際フェリー | 50時間 | 1往復 | 20,000円 | — |
※旅客運賃は大人1人の最安クラスの最低片道価格を表示。クラスや季節により変動する。車両運賃は4m~5mの乗用車。いずれも燃油サーチャージ、諸手数料が別途かかることがある。
※運航本数は週あたりの標準的な数字。路線により休航日あり。
※対馬~釜山航路はウェブ上に日本語公式情報が見当たらず、報道などによる情報です。
釜山、上海へ
現在運航している日本発着の国際航路は、韓国・釜山と中国・上海を目的地とする6航路です。
かつては台湾やロシアへの航路もありましたし、中国では天津や青島などの発着便もありました。しかし、航空運賃の下落と新型コロナの影響で淘汰され、近年は需要の大きい区間に絞られてきています。
順にみていきましょう。
下関~釜山
日本発着の国際航路の代表格が、下関~釜山間の関釜フェリーです。戦前、日本が朝鮮半島を統治していた時代は「関釜連絡船」という鉄道連絡船が設定されていた区間です。
戦後、1970年に関釜フェリーが運航を開始。コロナ禍で旅客取扱いを休止していましたが、2022年12月に再開しました。
毎日運航で、所要時間は下関発が12時間15分、釜山発が10時間45分です。いずれも夜行便です。
使用船舶は国際トン数16,000トン級(国内トン数8,000トン級)の大型フェリーで、日本船「はまゆう」と韓国船「星希」が交互運航します。
客室設備は2等からスイートまで4クラスに分かれ、2等は大部屋です。船内設備は両船で多少異なりますが、レストラン、浴場、免税売店、コンビニ、カラオケルームなどを備えます。
旅客運賃は2等で片道9,000円。車両運賃は往復60,000円で、別途、通関手数料や保険料がかかります。
割引運賃は、往復割引(復路10%)、学生割引(20%)などがあります。学割は学生証の呈示で適用されます。
下関国際ターミナルは、JR下関駅東口から人口地盤を通って徒歩で約7分です。釜山港国際旅客ターミナルは、KTX釜山駅まで徒歩で約20分です。

博多~釜山
釜山へは、博多(福岡市)からもフェリー航路があります。「カメリアライン」です。所要時間は6時間。博多発が昼行便で、釜山発が夜行便です。釜山発便は、出入国審査の実施時間の影響で、釜山20時発、福岡7時30分着というスケジュールになっています。
使用船舶は20,000トン級(国際トン数)の大型フェリー「ニューかめりあ」です。国内トン数では10,000トン級です。
2等から特別室まで4クラスの客室を備えます。2等室は大部屋です。船内設備として、レストラン、浴場、免税売店、カラオケルーム、ゲームコーナーなどを備えます。
旅客運賃は2等で片道9,000円。車両運賃は往復50,000円(~1,500kg)で、別途、通関手数料などがかかります。
割引運賃は、往復割引(復路10%)、学生割引(20%)などがあります。学割は写真付き学生証の呈示で適用されます。ただし、30歳未満のみが対象です。
博多港国際ターミナルは、博多駅からバスで約20分です。
博多~釜山(高速船)
博多~釜山間には、高速船も運航しています。JR九州高速船の「クイーンビートル」です。毎日運航で、所要時間は3時間40分。博多発が午前便、釜山発が午後便です。
使用船舶「クイーンビートル」は、約2,300トンの高速船。2020年に完成した新造船で、世界初の80m級トリマラン(三胴船)として名を馳せています。
客室はスタンダードクラスとビジネスクラスがあります。スタンダードクラスの旅客運賃は16,000円です。シニア割引(65歳以上)は片道8,000円です。往復割引はありません。
JR九州の株主優待券を使うと、往復運賃が10,000円となります。車両の航送はしていません。
大阪~釜山
大阪~釜山間にも航路があります。サンスターラインが「パンスタークルーズ」という名称で週3往復運航しています。大阪、釜山を15時に出発し、翌10時に到着します。(大阪発金曜日のみ17時発)。所要時間は19時間です。
使用船舶は「パンスタードリーム」で、かつて東京~那智勝浦~高知航路に使われていたフェリー「さんふらわあくろしお」をリニューアルしたものです。21,000トン級(国際トン数)の大型フェリーです。国内では10,000トン級です。
客室はクルーズゾーンとフェリーゾーンに分かれていて、スタンダードからロイヤルスイートまでバリエーション豊富です。スタンダードはカプセルタイプで、大部屋はありません。
船内設備はカフェ、レストラン、寿司店、ラウンジ、コンビニ、免税店、浴室、カラオケルームなど多彩です。
旅客運賃は、スタンダードの最安値で片道13,000円、往復20,000円。繁忙期は加算料金がかかります。シニア割引(70歳以上、10%)、学生割引(20%)などがあります。車両運賃は往復75,000円が基本料金で、別途、通関費や保証金がかかります。
大阪港国際フェリーターミナルは、地下鉄コスモスクエア駅から無料シャトルバスで約5分です。大阪南港フェリーターミナルからは離れています。
対馬~釜山
対馬~釜山間にも高速船が運航しています。対馬の比田勝港と釜山を結ぶ路線です。大阪・釜山航路と同じサンスターラインが運航しています。所要時間は1時間です。
対馬~釜山航路は年間最大83万人が利用する人気路線でしたが、新型コロナの感染拡大により3年間にわたり運休していました。ようやく、2023年2月25日から運航を再開しています。
サンスターラインは、同区間を運航していた大亜高速海運の「オーシャン・フラワー」を購入し、「パンスター・ツシマ・リンク」として運航しています。総トン数は648トンです。
再開当初は週2便の運航で、現在は週5便となっています。6月以降に毎日運航になる見通しです。
厳原港~釜山は再開していません。
大阪・神戸~上海
つづいて中国航路です。現在運航しているのは大阪・神戸~上海間のみで、日中国際フェリーが手がけています。週1便で、大阪発と神戸発の交互運航です。両港合わせて週1便です。(現在、旅客輸送は中断中)。
所要時間は揚子江の潮の状況により異なりますが、約50時間です。2泊3日の行程です。
日中間フェリーの先駆けといえる航路で、1985年に開設されました。現在の使用船舶は尾道造船建造の「新鑑真」で、14,000トン級です。2等和室から貴賓室まで5種類の客室を備えます。2等客室は昔ながらの大部屋です。
船内設備としてレストラン、ラウンジ、免税売店、カラオケルームなどを備えます。
旅客運賃は、2等で片道20,000円、往復30,000円です。学生は10%割引です。自家用車の航送はおこなっていません。
大阪港はパンスタークルーズと同じ大阪港国際ターミナルで、地下鉄コスモスクエア駅からシャトルバスがあります。神戸港はポートライナーのポートターミナル駅と直結しています。上海港は地下鉄12号線国際客運中心駅から徒歩約5分です。
現在、新造船を建造中です。新造船は「鑑真號」と名付けられ、2024年5月就航予定。20,000トンクラスの大型フェリーとなります。金陵船舶(威海)の建造です。
「新鑑真」は、1990年代に多くのバックパッカーを運んだので、思い出のある旅行者も多いでしょう。懐かしい船ですが、あと1年で運航終了です。乗り納めの方は、旅客輸送が再開されたらお早めに。

国際航路の利用術
以上が、現在日本を発着している国際旅客航路の全てです。
かつては、海外格安旅行の手段としてバックパッカーに愛用された国際航路ですが、航空運賃の自由化により価格競争力を失い、旅行者の利用が激減。近年は、大きな荷物を運ぶ利用者向けの性格が濃くなっています。さらにコロナで壊滅的な打撃を受けてしまい、残っているのは、距離的に近く往来の多い韓国航路がほとんどです。
韓国航路でも、飛行機に比べて格段に安いというわけではありませんが、直前予約でも手頃な価格で利用できるのはメリットです。また、瀬戸内海を通る国内航路は夜行便がほとんどですが、大阪~釜山航路は日中に航行します。瀬戸内海の景色を楽しむクルーズとして利用することもできます。
中国大陸と直結する大阪・神戸~上海航路は、瀬戸内海を経て東シナ海を横断する魅力的な旅を楽しめます。かつてはバックパッカーに人気の航路で、上海を起点にアジア各地へ多くの旅行者が利用していました。
LCC全盛のいま、海外渡航であえて海上航路を選択する意味はあまりありません。ただ、船で日本を離れるのには独特の情感がありますし、時間に余裕のある旅行者にはぜひおすすめしたいところです。(鎌倉淳)