熊本空港アクセス鉄道の整備ルートの絞り込み案が公表されました。空港駅はターミナルビルから120mほど離れた位置になる見通しです。また、中間駅の設置も検討します。状況を整理してみました。
整備ルートの絞り込み案
熊本空港アクセス鉄道は、JR豊肥線肥後大津駅と熊本空港(阿蘇くまもと空港)とを結ぶ鉄道新線計画です。2022年に熊本県とJR九州が確認書を交わし、事業化へ向け動き出しました。
その路線の姿が具体的になってきました。熊本県が2025年6月18日に公表した整備ルートの絞り込み案によると、肥後大津駅の東側で豊肥線から分岐し、南へ向かって白川を渡り、高遊原台地のトンネルに入ります。
台地内を上り坂トンネルで抜けて、熊本空港の直前で地上に達します。終点熊本空港駅は、地上駅となるようです。
空港駅からターミナルまで120m
熊本県議会の高速交通ネットワーク整備推進特別委員会の県側答弁によれば、熊本空港駅は、空港駐車場の南側に建設するようです。
空港駅とターミナルビルは、駐車場を挟んで、直線距離で120mほど離れた位置関係となります。
県の企画振興部長は、「南側には東海大学があり、発展の可能性を踏まえて敷地外に決めた」「空中回廊や地下通路のアクセスが必要だが、利用者の利便性に配慮して進めたい」などと答弁しています。
航空写真をみると、高遊原公園周辺の緑地を鉄道駅とする予定のようです。詳細な位置はわかりませんが、現在の立体駐車場の西側あたりに連絡通路を設ける形になるのでしょうか。
中間駅も検討
熊本空港アクセス鉄道は単線で、路線延長は約6.8kmです。片道10分弱はかかりそうなので、運転頻度を高め、ダイヤの柔軟性を確保するには、途中に交換設備が必要です。
そのため、県の計画によれば、中間地点に交換設備を設けます。そこに中間駅を設置する可能性もあるそうです。
地図で測定すると、中間地点は白川の南側、台地の北側です。利用者の便を考えるなら、近くに住宅が多く発展性の高い白川北岸がよさそうで、玉岡城跡の西側あたりが有力でしょうか。
ただ、白川南岸のほうが住宅が少ないので、用地買収はしやすいかもしれません。
なぜ空港から離れたのか
以上が、熊本空港アクセス鉄道のルート案です。現段階では、想定ルートに500mの幅が設定されていますので、正確なルート案は示されていませんが、空港駅位置については、駐車場南側案で、概ね確定したとみてよさそうです。
空港駅は、ターミナルビル直下に設置することも検討されたそうです。その場合、事業費が150億円も増嵩します。
2022年の試算によれば、空港アクセス鉄道の事業費は約410億円、費用便益費は1.03~1.42、累積資金収支黒字転換年(収支採算性)は30~36年です。
空港駅を地下にすることで、事業費が150億円も増えてしまったら、費用便益比や収支採算性の基準をクリアできず、計画が頓挫してしまう恐れがあります。
それがターミナル直下案が採用されなかった最大の理由でしょう。
事業着手可能な水準に抑えるために
空港アクセス鉄道の最終的な事業費は確定しておらず、現在、再算定をおこなっています。
といっても、すでに概算は出ているはずで、事業着手可能な水準に事業費を抑えるためには、駐車場南側案にせざるを得ない、という判断に傾いたと考えられます。
駅を空港から少し離れた位置にしても、空港客の利用が大きく減少することはありません。一方で、駅勢圏が周囲に広がり、周辺の大学などの利用者を増やせる可能性もあります。そうなれば、採算性をより高められます。
ターミナル直下が便利だが
ターミナル直下案が無理なら、ターミナルに隣接する空港駐車場の地下でもよさそうに感じられます。
ただ、計画の立体図を見ると、地上に駅施設を設けるようです。おそらくは、1面2線の頭端式ホームとして、跨線橋などの構内施設を省略すると考えられます。
空港ターミナルとの連絡通路は、空港施設として、鉄道事業費と別枠で確保するのでしょう。

地下に駅施設を設けると、鉄道の事業費が増えてしまいます。そのため、地上に駅施設とホームを設ける方針となったのでしょう。そうなると、現駐車場を潰して作るわけにはいきません。
空港旅客の利便性を考えれば、ターミナル地下直結がいいのは確かです。ただ、全国の空港駅をみても、ターミナルから100m程度歩くことは珍しくないので、直線距離で120mなら、許容範囲と判断したのでしょう。
歩く歩道などができれば、利便性は、ある程度カバーできるとみられます。
将来性を考えれば
将来的に空港ターミナルを建て替えたり拡張したりする場合、鉄道駅と空港ターミナルが一体となっているよりも、別個になっていたほうが工事をしやすいというメリットもあります。
周辺の再開発計画もあるのならば、駐車場南側案のほうが発展性が高いでしょう。そうした将来性を考えれば、駐車場南側案も悪くありません。
いずれにしろ、開業すれば、熊本空港と熊本駅が約44分で結ばれます。開業目標は2034年度。期待の大きい新線計画です。(鎌倉淳)