北海道新幹線の並行在来線として分離される函館線・函館~長万部間について、大部分を貨物専用線とする協議が始まります。旅客営業廃止に備えるものです。
貨物輸送の問題に
北海道新幹線は2030年度に札幌まで延伸開業する予定で、並行在来線である函館線は、函館~小樽間がJR北海道から経営分離されます。このうち長万部~小樽間は鉄道を廃止し、バス転換することが決まっています。
函館~長万部間は協議中で、函館市などは、新幹線と接続する函館~新函館北斗間について鉄道存続を求めています。一方、新函館北斗~長万部間は、鉄道を維持する場合の費用負担が重すぎることから、沿線自治体はバス転換に傾いています。
新函館北斗~長万部間をバス転換した場合、問題になるのが貨物輸送です。この区間は本州と北海道を結ぶ貨物列車の大動脈で、鉄道を廃止した場合、貨物輸送に支障が生じます。このため、北海道新幹線の並行在来線の問題は、旅客営業を廃止した場合の貨物輸送をどうするかが焦点になりつつあります。
4者協議を開始へ
これについて、国土交通省は、北海道、JR貨物、JR北海道と協議を開始する方針を示しました。朝日新聞が9月12日付で「上下分離方式を軸に検討」と報じ、他社も同様の内容で追いかけています。
国交省から正式発表はないものの、各社報道に大きな差異はないため、新函館北斗~長万部間について、上下分離方式による貨物専用線での存続を軸に、4者協議が開始されることで間違いなさそうです。
上下分離の場合、道か、道が出資する第三セクターが線路を保有し、JR貨物が線路使用料を支払うなどして、列車を運行する形になるとみられます。
旅客輸送の設備は撤去し、複線区間を単線化するなど設備のスリム化も行われるでしょう。
青い森鉄道に前例
並行在来線で上下分離を導入した事例としては、青い森鉄道があります。青森県が線路・駅舎などの鉄道施設を保有して保守管理し、第三セクターの鉄道会社である青い森鉄道株式会社が車両を保有して旅客運送を行う、上下分離方式を採用しています。
青い森鉄道株式会社が、青森県からの委託を受け、指定管理者として青い森鉄道線の鉄道施設を管理しています。青森県を第3種鉄道事業者、青い森鉄道を第2種鉄道事業者とする上下分離方式です。
JR貨物は、青い森鉄道に線路使用料を支払って貨物列車を運行しています。
JR貨物は消極的
ただ、青い森鉄道は、全線で旅客営業を維持していますので、函館線とは事情が異なります。
新函館北斗~長万部間をこれと似た形にする場合、北海道が鉄道施設を保有して、JR貨物が運営事業者となる上下分離という形が、まず考えられます。
青い森鉄道に倣うなら、道が保有する鉄道施設の保守管理を、JR貨物に委託することになります。しかし、それはJR貨物の手に余るかもしれません。であれば、JR北海道か、道南いさりび鉄道に、保守管理を委託することになるのでしょう。
道南いさりび鉄道に保守管理を委託するのであれば、最初から同社が施設を保有するという形も考えられるでしょう。
JR貨物は事業者として貨物専用線を運営することには消極的です。函館~新函館北斗間の運営形態とあわせて、さまざまな枠組みが検討されることになりそうです。
貨物調整金の見直しも
ちなみに、2022年4月に公表された試算によると、函館~長万部間を旅客・貨物とも維持する場合、単年度で約67億円の費用がかかると見込まれています。収入は約49億円で、旅客運輸収入を約7億円、JR貨物の線路使用料を約40億円と見込んでいました。
JR貨物が負担する線路使用料の多くは、貨物調整金という形で鉄道・運輸機構から支払われます。ただ、貨物調整金の制度は2031年度に見直されることが決まっていて、北海道新幹線開業後、JR貨物に支払われる額は見通せません。
また、貨物調整金の財源は整備新幹線の貸付料ですが、2027年以降、北陸新幹線高崎~長野間を皮切りに、貸付料の当初期間の30年間を終える新幹線区間が出てきます。当然延長されるとみられますが、将来的な貨物調整金の財源が不確定という事情もあるわけです。
一筋縄ではいかず
函館線の貨物専用線化の枠組み作りは、貨物調整金や、その財源となる貸付料の見直しという問題を考慮しつつ、さらにはJR貨物の上場なども視野に入れたものでなければなりません。
将来的には、他の並行在来線会社が、輸送密度の低い区間で旅客輸送を取りやめる可能性もあります。そうした区間にも適用できるよう、汎用性のある制度設計も必要になるでしょう。そう考えると、一筋縄ではいかないように感じられます。
五稜郭~木古内間を運行する道南いさりび鉄道がどう絡むかも注目点です。普通に考えれば、函館~新函館北斗間は道南いさりび鉄道が上下一体で運営することになるのでしょうが、新函館北斗以北についても関わるのかは、焦点の一つでしょう。
青春18きっぷ利用者に影響
現時点では、函館~長万部間の扱いについて正式決定はなく、新函館北斗~長万部間の旅客廃止が決まったわけではありません。
もし正式に決まれば、旅客から見ると、新函館北斗~長万部間で在来線が途切れることになります。
新函館北斗~長万部間の輸送密度は200以下なので、地域輸送の観点では、旅客列車が廃止されてもバス代替で足り、大きな問題は生じないでしょう。
影響があるとすれば、青春18きっぷの利用者でしょうか。
津軽海峡区間の特例に倣うなら、函館~新函館北斗~長万部間を、第三セクター鉄道と北海道新幹線を乗り継いで旅行できるオプション券が発売されるのかもしれません。奥津軽いまべつから連続して、長万部までオプション券を購入すれば乗り継げる制度が検討される可能性もあるでしょう。
ただ、現時点では何も決まっていませんし、そもそも青春18きっぷが2031年に発売されているかも定かではありません。(鎌倉淳)