北朝鮮が開設した「公式観光サイト」の気になる中身。日本製SLやソ連製飛行機など、レトロな魅力はありそうだけど

北朝鮮が自国の観光客向けウェブサイトを開設しました。あまり知られていない北朝鮮観光を、国家機関が紹介する公式ホームページです。気になる中身をのぞいてみました。

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国家観光総局が開設

北朝鮮が開設した観光客向けウェブサイトは、「DPR Korea Tour」。ハングルのほか、英語、中国語、ロシア語、日本語で表示することができます。開設しているのは「朝鮮民主主義人民共和国国家観光総局」です。いわば、北朝鮮の公式観光サイトといえそうです。

ウェブサイトの「前書き」では、「金正恩委員長の賢明な指導の下に、今日朝鮮民主主義人民共和国の観光業は新たな発展の道を踏み出している」(原文ママ、以下同)と北朝鮮観光の展望を説明。「観光地を世界的な水準のものにより立派に整備し、観光地区を結ぶ新しい観光日程を開発するための事業も積極的に推進されている」と観光客受け入れに積極的な姿勢をみせています。

さらに「世界各国と地域から朝鮮に来る観光客の交通上の便宜を十分に図るための新たな航路が開設されている」とPRし、外国人の来訪を促しています。「新たな航路」がどの路線かは、判然としませんが。

北朝鮮観光公式サイト

「古い飛行機を安全に乗ることができる」

さて、「DPR Korea Tour」で興味深いのは、北朝鮮の主要観光地の案内ではなく、やや趣味的な「テーマ別観光」でしょう。

たとえば、「飛行機愛好家観光」。平壌国際空港にはツボレフ134や、アントノフ24、アントノフ148など「製作年代の異なるさまざまな飛行機」があるそうです。「愛好家たちは制作年代の古い多くの飛行機が高度の技術状態を維持していることに驚いており、朝鮮は古い飛行機を最も安全に乗ることができる少数の国の中の一つであると言っている。」と胸を張っています。

これらの飛行機には実際に乗ることができるそうで、「飛行機愛好家たちは主に各種の飛行機に乗り、地方参観地に往来することに満足したが、最近は平壌空港で去年より多くの機種の飛行機に乗って、一定した時間に地域上空を旋回飛行し、その要求を充足している」とのこと。

要するに、かつては定期航空路でのツアーが主流でしたが、最近は平壌発着のチャーターフライトで多数の機種に乗れますよ、ということのようです。

「定期便がちゃんと動いていないからでは?」という突っ込みはさておき、たしかに、古いツボレフやアントノフといった旧ソ連製の飛行機に乗れる場所は世界でも限られてきましたし、それらにいくつも乗れるのであれば、航空ファンには興味深いことでしょう。

ただ「最も安全に乗れる少数の国」に北朝鮮が含まれるのかは、議論が分かれるところではないか、という気がしないでもありません。

高麗航空

「SL観光」が人気

「鉄道観光」に関する案内もあります。「観光客は平壌、元山、咸興、清津をはじめ、大都市と妙香山などの景勝地を電車で往来しながら、朝鮮の美しい景色と都市を見学でき、朝鮮人民の生活風習も体験することができる」そうです。

また、「平壌-元山行き電車では朝鮮の内陸地帯の景色を、元山-咸興-清津行きでは朝鮮東海の壮快な日の出と美しい海景色を楽しめる。場合により、車内泊もできる。」とのこと。「場合により」のニュアンスが気になりますが、寝台列車で朝鮮半島を旅行できるのだとすれば、面白そうです。

「朝鮮国際旅行社主催の乗り物愛好家観光が活発に行われている」そうで、「特に清津地区でのSL観光は愛好家たちの間で人気を博している」という情報も掲載されています。

SLの形式が気になるところですが、さすがにそこまでの記載はありません。北朝鮮にはまだ日本統治時代の朝鮮総督府鉄道局の車両が残っているようですし、戦後、ソ連や東欧から導入された蒸気機関車も現存するようなので、興味深いところです。

インターネットを調べてみると、「The Locomotive club of Great Britain」という、イギリス人のSL好きクラブのウェブサイトがみつかり、この会員が2015年に訪れたところでは、日本製蒸気機関車も見学できたようです。ひょっとしたら「清津地区でのSL観光」で、日本統治時代の蒸気機関車に出会えるかもしれません。

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市内交通利用を「開発」

そのほか、「大衆交通手段観光」という項目もあります。「今まで、訪朝した観光客は主に旅行社が提供する観光専用バスで観光をした。しかし最近、朝鮮国際旅行社では路面電車、トロリーバス、地下鉄など市内交通を利用して市内を回る観光日程を開発して観光客の好評を得ている」とのことです。

路面電車や地下鉄に乗って観光するなど、北朝鮮以外の国では当たり前だと思いますが、「観光日程を開発」と仰々しく表現するあたりは、お国柄を感じさせます。

「観光客は平壌市民たちが利用する路面電車、トロリーバスに乗って大記念碑的建造物の立ち並ぶ平壌市を回り(中略)、すべての駅の構内が立派なモザイク壁画と彫刻作品でユニークに飾られた平壌地下鉄を見て回りながら、朝鮮の地下建築芸術の独創性を体験することができる」とも記されています。

北朝鮮の観光ツアーが、平壌地下鉄の乗車を日程に組み込んでいるのは昔からですが、最近は路面電車やトロリーバスもその対象に加えた、ということでしょうか。

平壌路面電車

本当に行けるのか?

「DPR Korea Tour」には、このほか、「登山」や「山岳マラソン」「サーフィン」「自転車観光」などについて、項目を立てて紹介されています。記述には突っ込みどころが多いものの、旅行者の気を引く内容が含まれていることは否定しがたいです。とくに、先進国では失われてしまったレトロな文物を目にできるのは、なかなか魅力的です。

とはいえ、北朝鮮を旅行するのは簡単ではありません。自由旅行ができませんので、手配旅行にするか、ツアーに参加する必要があります。「公式観光サイト」の内容が魅力的だったとしても、本当に「いまそこに」行けるのか、という疑問もあります。

そもそも、最近の国際情勢のなかで、北朝鮮を旅行することには、相当に勇気が要るでしょう。アメリカ人旅行者が収監される事件も発生しており、「行ったはいいけど、帰ってこられるの?」という不安をぬぐいきれません。

ご存じの通り、日朝間に国交はありません。日本の外務省も渡航の自粛を求めています。さすがに、いまは北朝鮮旅行の時期でないことを、念のため書き添えておきます。(鎌倉淳)

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