国交省資料で見えてきた東京圏「次の新線」。JR羽田アクセス線と地下鉄品川線、豊住線は有力か。りんかい線・京葉線直通にも可能性

東京圏で建設される次の新線はどこか。国土交通省資料でそのヒントが垣間見えました。有力なのはJR羽田空港アクセス線と、地下鉄品川線、豊住線。さらにりんかい線・京葉線の直通運転も可能性がありそうです。

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次期答申会合資料を公開

国土交通省は2016年1月15日、交通政策審議会所管の「東京圏における今後の都市鉄道のあり方に関する小委員会」の第16回会合を開きました。これは、東京圏の鉄道ネットワーク整備に関する次期答申を検討している会合です。中間整理が公表された2015年7月の第9回会合以来、約半年ぶりに審議内容が公開されました。

鉄道新線構想が次期答申に盛り込まれた場合、事業化が視野に入ってきますので、この会議は将来の鉄道新線の成否を大きく左右する重要なものです。

重要性が特に増大している課題

公表されたなかで注目は、「東京圏の都市鉄道において今後特に対応が必要な課題」とする資料。ここでは、「重要性が特に増大している課題」として、以下の4点を挙げています。

1 空港へのアクセス改善
2 リニア中央新幹線などへのアクセス改善
3 都市機能高度化への対応
4 駅空間の質の向上

小委員会は、2016年3月末までに次期答申をまとめる予定です。この段階で、「重要な課題」として4点を掲げたということは、次期答申ではこれらの課題へ対応する内容が盛り込まれると考えるのが自然でしょう。

このなかで、鉄道新線に関わるのは主に「1」と「2」です。すなわち、空港アクセスとリニアアクセスに資する路線がそれぞれ採用されるとみられます。

国土交通省

今後も継続して対応が必要な課題

また、同じ資料では、「今後も継続して対応が必要な課題」として、以下の3点を挙げています。上記「重要性が増大している問題」の次に対応すべき課題の位置づけのようです。

5 シームレス化
6 混雑の緩和
7 速達性の向上

直通運転の拡大

5の「シームレス化」とは直通運転のことを指します。今回の会議では、「シームレス化の現状と今後の取組のあり方について」という資料も公表されました。

それによりますと、直通運転によって「乗換回数の減少やホーム、コンコース等の混雑緩和が図られ、利用者の利便性の向上に寄与してきた」とし、「引き続き、既存ネットワークを有効活用した直通運転の検討を行うことが必要ではないか」としています。つまり、直通運転の拡大を推進する姿勢をみせているわけです。

混雑解消

また、「混雑の緩和の現状と今後の取組のあり方について」という資料では、「混雑率が180%を超える区間」として、地下鉄東西線(木場→門前仲町)など14区間が掲載されています。

混雑路線

東西線のほかは、山手線外回り(上野→御徒町)、総武線(錦糸町→両国)、京浜東北線南行(上野→御徒町)、南武線(武蔵中原→武蔵小杉)、横須賀線(武蔵小杉→西大井)、中央線(中野→新宿)などが、混雑区間として列挙されています。

次期答申では、これらの混雑区間を解消する方法が盛り込まれるとみられます。

ラッシュ時の速達性向上

さらに、「速達性の向上の現状と今後の取組のあり方について」という資料では、「ピーク時における運行本数と表定速度の関係」として、主要路線のピーク時の表定速度が一覧にされています。表定速度が遅い路線は京王線(32.6km/h)、東急田園都市線(38.1km/h)、東西線(38.9km/h)、小田急線(39.3km/h)などです。

遅い路線
こうした路線のラッシュ時の速達性を上げることも課題として認識されているわけです。

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JR羽田新線に優位性

さて、ここまで、国土交通省が「課題」と認識している内容について、具体例とともに紹介してきました。これだけ明らかにされれば、今後、東京圏で建設されるべき新線がどれか、鉄道に少し詳しい方なら察しが付くのではないでしょうか。

まず、「1 空港へのアクセスを改善」する路線の候補としては、「JR羽田アクセス線」「都心直結線(京成・京急直通)」「蒲蒲線」の3つがあります。このうち、羽田空港へのアクセスが改善されるエリアが最も広いのがJR羽田アクセス線であることはいうまでもありません。

さらに、JR羽田アクセス線は、「5 シームレス化」にも大きく貢献します。JR羽田アクセス線は、埼京線、上野東京ライン、りんかい線に直通する構想を持っており、シームレス化では他の2路線を寄せ付けません。つまり、「1」と「3」の2つの課題を好成績でクリアできるわけです。

品川駅、橋本駅へのアクセス改善は?

次に、「2 リニア中央新幹線などへのアクセスを改善」する路線とは、すなわち品川駅と橋本駅へのアクセスを改善する路線となります。

品川駅への新路線計画としては、東京都が2015年7月に公表した「都心部・品川地下鉄構想」(品川線)があります。具体的な建設区間は明らかにされていませんが、品川駅と白金高輪駅付近を結ぶ構想のようで、白銀高輪からはメトロ南北線への乗り入れが想定されている様子。つまり、これも「シームレス化」に資する路線で、課題「2」と「5」をクリアしています。

都心直結線も品川駅へのアクセスを改善する効果が望めます。つまり、「1」「2」を満たし、さらに直通運転もしますから、「5」も満足するように見えます。基準を3つも満たしているのは都心直結線だけですから、次期答申に採用される可能性が残されているかも知れません。

ただ、都心直結線がカバーするエリアが小さいので、形式上3つの課題を満たしているとしても、全体的にはやや弱い、という気もします。

一方、橋本駅へアクセスについては、実現性のありそうな新線計画が見あたりません。強いて挙げれば、多摩都市モノレールの延伸でしょうか。延伸エリアからは、多摩センター駅での乗り換えを経て、リニアへのアクセス向上が見込めます。

直通運転ができそうな既存鉄道区間は?

「5 シームレス化」については、直通運転をさらに広げようという趣旨です。とはいえ、現時点で、既存鉄道の新たな直通運転が可能な区間はそう多くありません。

最も可能性が高そうなのは、京葉線とりんかい線の直通でしょうか。これはJR羽田アクセス線ともリンクしますので、実現へ向け推進される可能性はありそうです。りんかい線の運賃収受をどうするかという問題はあるものの、まったく解決不可能な問題点ではありません。

その他、既存の主要路線で都心への直通運転をしてない路線としては、西武新宿線、京王井の頭線、東急池上線、東急大井町線などがあります。ただ、これらの路線を都心へとつなぐ地下鉄計画などは、現時点では見当たりません。

豊住線は2大混雑区間の緩和に貢献

「6 混雑の緩和」については、列挙されている混雑区間のうち、山手線と京浜東北線の上野→御徒町間は上野・東京ラインの開業によりすでに緩和されています。となると、残る東西線(木場→門前仲町)、総武線(錦糸町→両国)、南武線(武蔵中原→武蔵小杉)、横須賀線(武蔵小杉→西大井)、中央線(中野→新宿)あたりが、解決が優先されるべき混雑ということになります。

上位2路線となった東西線、総武線の混雑を一気に緩和させる新路線との触れ込みが、地下鉄「豊住線」です。これは、有楽町線の豊洲駅~半蔵門線の住吉駅を結ぶ地下鉄計画です。正確には、「東京8号線(豊洲~住吉間)」といい、有楽町線を豊洲で分岐して延伸し、住吉に至ります。その先は、さらに亀有まで伸ばす計画もあります。

豊住線は、開業すれば東西線と総武緩行線の混雑緩和に役立つと触れ込んでいます。触れ込み通り混雑トップクラスの両路線の混雑緩和に役立つと認定されれば、次期答申に反映される可能性は高いでしょう。

「7 速達性の向上」については、京王線や田園都市線のピーク時の所要時間を短縮するには、複々線化以外なさそうです。そのため、このテーマについては、新線計画という形で答申に反映されることはないのではと思いますが、複々線化として盛り込まれる可能性がありそうです。

3路線が当確に近い位置

まとめてみると、今回の資料を読み解く限り、次期答申で整備されるべき路線として採用有力なのは、JR羽田アクセス線、地下鉄品川線、地下鉄豊住線の3つです。この3路線は当確に近いと思われます。

また、少し視点を広げて、多摩都市モノレール線延伸も有力でしょう。

新路線ではありませんが、りんかい線と京葉線の直通運転も具体化へ向け動き出す可能性がありそうです。

都心直結線は、JR羽田アクセス線とかぶるので微妙。蒲蒲線は京急とのシームレス化に難があります。(鎌倉淳)

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