「新金貨物線」は東急世田谷線になれるか? 葛飾区がLRT化へ向けて調査開始へ

JR総武線と常磐線を結ぶ「新金貨物線」をLRT化する計画が動き出します。葛飾区は、同区間のLRT化に向けて調査を開始することを決め、2017年度予算で調査費を計上します。

広告

2000万円の調査費計上

新金貨物線は総武線小岩駅と常磐線金町駅を結ぶ8.9kmの路線です。総武線の貨物支線という位置付けで、主に東京・葛飾区内を南北に走っています。長年にわたり旅客化の議論が行われていましたが、これまで大きな進歩はありませんでした。

そこへ少し動きがありました。葛飾区では、区内の南北を結ぶ公共交通機関の整備を目指すとして、新金線にLRTを導入する検討を始めることを決めたのです。新年度予算案に2000万円を計上し、需要予測の調査などを行う方針です。

世田谷線
東急世田谷線

採算性に課題

新金貨物線は、単線電化ですが、複線用地は確保されており、複線用の橋脚が完成している部分もあります。そのため、旅客化にあたり、用地買収のハードルは高くありません。

ただ、路線は中川に沿って敷かれており、それほど多くの利用者が見込めず、採算性に難があることが大きなネックになっています。

また、旅客化となると列車本数が増えるため、水戸街道との交差部で立体化が必要になるとの指摘もあります。立体交差となると、多額の事業費がかかります。

今回の調査の具体的内容は明らかではありませんが、こうした問題の解決策を含めて、LRTによる事業化の可能性を探るとみられます。

広告

越中島支線は調査済み

都内の貨物線では、「越中島支線」もLRT化が議論されています。

越中島支線は、京葉線潮見駅の北側にある越中島貨物駅と総武線小岩駅を結ぶ11.7kmの路線で、新金貨物線と同じく総武線の貨物支線と位置付けられています。

こちらも単線ですが複線分の用地は確保されており、現状は非電化です。江東区では、2005年の「LRT基本構想策定調査報告書」でLRT化に関する構想をまとめており、亀戸駅から新木場駅までを結ぶ計画を立てています。

亀戸から新砂付近までの約6kmを貨物線と路線共用し、新砂付近~新木場までは明治通り沿いに軌道を敷設する構想です。しかし、こちらもその後、進捗がありません。

踏切ではなく信号にする?

それぞれの貨物線がLRT化するとして、モデルケースがあるとすれば、東急世田谷線でしょう。世田谷線をLRTと呼ぶかどうかは別として、都内の放射路線を結ぶ軽軌道という枠組みでは似ています。

世田谷線の路線距離はわずか5.0kmですが、1日の平均輸送人員は55,061人もいます。放射路線をつなぐ郊外線でも、これだけの需要があります。また、途中に環七との交差部がありますが、踏切ではなく信号とすることで、道路交通への影響を抑えています。

新金線も旅客化により沿線人口が増えれば、営業段階での採算性の問題は解決できそうに思えます。また、水戸街道との交差部についても、将来的には立体化を見据えながら、当面は、電車も停車する信号とする、といった方策が検討されていいでしょう。

東京にはLRT化構想がいくつかありますが、これまで具体的に進展している話はありません。とくに、道路を軌道に転用するLRT案の実現は、かなり難しいとみられます。しかし、都心部の貨物線は線路容量に余裕があります。上手に活用してほしいところです。(鎌倉淳)

広告
前の記事阿佐海岸鉄道「DMV」はローカル線活性化の起爆剤になるか。室戸岬を目指して2020年にも運行開始
次の記事「北海道の鉄道網のあり方」報告書を読み解く(1)。JR北海道の将来像は固まったか?