ヤフーが宿泊予約サイト運営の一休を買収すると発表しました。TOB(株式公開買い付け)を行い、一休の全株式をヤフーが取得します。買い付け価格は1株3,433円で、買い取り総額は約1,000億円にのぼる見通しです。
楽天トラベル、じゃらんを追う
一休は宿泊などの予約サイト「一休.com」を運営し、高級ホテルや旅館、レストラン予約を扱っています。現在の会員数は約413万人。2014年度の取扱金額505億円で、宿泊予約サイトとしては「楽天トラベル」、「じゃらんnet」の2強を追う存在です。業績は堅調で、2005年の株式公開以来赤字決算はありません。
「一休.com」の特徴は、高級ホテルを中心に取り扱っていることです。そのため平均客単価が高く、2014年度の一室あたり平均単価は26,603円に達します。「楽天トラベル」や「じゃらんnet」の数字は明らかではありませんが、両者より高いとみられます。
ヤフーも「Yahoo!トラベル」という自社の旅行予約サイトを手掛けています。しかし、提携サイトから提供される旅行商品を扱う時代が長く続き、宿泊施設と直接契約するビジネスモデルを開始したのは2015年になってからと出遅れました。また、扱っている施設もビジネスホテルが多く、客単価は高くなさそうです。
ヤフーは一休の買収で、高級ホテルから低価格のサービスまで商品の領域を広げ、ライバルサイトに対抗していきます。
画像:一休ホームページより
Yahoo!トラベルの海外展開が目的?
ただ、買収の目的はそれだけではない、という指摘もあります。「株価プレス」というサイトでは、この買収の目的のひとつとして、「ヤフーの海外展開」もあるのではないか、としています。
同サイト記事によりますと、日本のヤフーは、現在でも「Yahoo!」ブランドを米ヤフーから許可されて使用しています。その許可範囲は日本国内のみで、海外では「Yahoo!」ブランドを使えません。そのため、「Yahoo!トラベル」の名称では海外展開ができません。そこで、「一休.com」に海外展開の役割を担わせ、インバウンド予約などに対応するのではないか、という指摘です。
この推測が正しいのかはわかりませんが、ヤフーは、一休買収後も「一休.com」のブランドは維持するとしています。日本国内だけをみれば、宿泊予約サイトを「Yahoo!トラベル」にまとめてブランドを集中させるという選択肢もありえますが、それでは海外展開ができません。すでに一休は、訪日中国人向けに、「一休日本自由行」というサイトも運営しています。
一休の2014年度の純利益は14億円です。1,000億円で買収とは高すぎるとも思いましたが、それでもヤフーが買収を決断したのには、そうした背景があるのかもしれません。
ブランド並列の効果は?
ところで、宿泊予約サイトのパイオニア「旅の窓口」を楽天が買収したのは、12年前の2003年でした。当時の買収金額は323億円です。楽天は、当時有名だった「旅の窓口」ブランドをあっさり捨てて、「楽天トラベル」に吸収させています。
楽天は、サービスのブランド名をとにかく「楽天」に統一させていく傾向があるようですが、そのほうが長い目で見れば有利という判断なのでしょう。その結果、12年の時を経て、「旅の窓口」のブランドは、忘却の彼方に消えつつあります。
「Yahoo!トラベル」と「一休.com」の両ブランドを並列させるという今回の判断は、楽天の逆をいくわけです。ブランド並立により相乗効果が出るのか、それとも認知を分散させてしまう結果に終わるか、現段階ではわかりません。
宿泊予約サイトの取扱高は、「楽天トラベル」と「じゃらんnet」3000億円台で争っています。「Yahoo!一休」がこの背中をとらえれば、「宿泊予約サイト3強時代」が到来します。利用者としては、なるべく多くの予約サイトによる健全な競争を期待したいところです。(鎌倉淳)