TX土浦延伸、東京駅延伸と「抱き合わせ」狙う? 茨城県提言書を読み解く

費用便益比が低すぎて

5つの判断基準

延伸の判断基準は次の5つが設定されました。

1.東京圏からの新たな人の流れの創出
2.つくばと水戸の二大都市圏の交流拡大
3.自動車からの転換に向けた公共交通のサービスレベルの向上
4.TX延伸を起爆剤とした本県未来の更なる飛躍
5.実現可能性(事業性分析)

5の実現可能性を考慮しながら、上の4つを基準に検討する、と解釈できます。

茨城空港はなぜ選ばれなかったか

当サイトの読者である旅行者の期待が高かったのは、茨城空港延伸案です。しかし、上述の通り、B/Cが0.1にも届かない数字で、4案のなかでも最低水準にとどまりました。予想輸送密度2,900人はぶっちぎりの低さで、ローカル線並みの水準です。

令和時代になって、輸送密度3,000人に満たない鉄道を作るわけにはいきません。

5つの判断基準のうち、「4.TX延伸を起爆剤とした本県未来の更なる飛躍」の期待は高く、提言書でも「空港の着陸便数の制限が緩和された場合には大きな経済発展の可能性ある」とされました。

茨城空港は自衛隊との共用空港で便数制限がありますが、鉄道ができることで空港の利便性が上がれば制限緩和の議論につながり、大きな発展の可能性がある、ということです。

ただ、鉄道ができたとしても、東京駅から約80分かかります。品川駅から14分の羽田空港や、日暮里駅から36分の成田空港に比べると、時間がかかりすぎます。ノンストップの空港特急を作っても、山手線から60分を切るのは難しそうで、茨城空港がどれだけの利用者を獲得できるかは見通せません。

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理想と現実が違いすぎ

提言書では、「空港経由水戸方面への延伸も含め、各自治体からの延伸の要望も多く、今後の県勢発展を考えるうえで茨城空港の将来性は考慮するべきである」として、茨城空港経由の水戸延伸案も考慮したことを示唆しています。

しかし、「期待される将来の姿と現況とのギャップが大きく、現状では十分な実現可能性があるとは言い切れない」と判断し、慎重な姿勢を崩しませんでした。茨城空港の理想と現実が違いすぎる、ということです。

将来的に、茨城空港を取り巻く状況が変化した場合については、「改めて効果とコストのバランスを考慮した空港アクセスの在り方を議論すべき」としました。空港アクセスの改善は、必ずしもTX延伸以外でなくもよいでしょう、という結論のようです。

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水戸は建設費が重荷に

水戸延伸に関しては、水戸駅からつくば駅までの時間短縮効果も大きく、つくば圏域の居住面積が大きく増加することから、「つくばと水戸を一体化した大都市経済圏の形成に寄与する」などのメリットを認めました。

予想輸送密度8,500は4案中最大で、唯一の「幹線水準」(8,000以上)です。

一方で、常磐線や既存の路線バスの輸送人員に与える影響が大きく、「公共交通の維持という面で課題がある」としました。さらに、直線距離45kmと路線長が最も長いため、「建設費が最大であり、単年度収支が最低かつB/Cも低いことから実現には大きな課題がある」とも指摘しました。

筑波山は効果が低く

筑波山延伸に関しては、「観光面で東京圏からの新たな人の流れの創出が期待される」「住宅地や商業施設が少なく難工事が想定されないため事業費が安価で、輸送人員も多い」といったメリットを認めました。

一方で、「JR常磐線と結節点を持たないため、つくばと水戸の二大都市圏の交流拡大には効果がない」「輸送密度は土浦方面・水戸方面に劣り、採算性やB/Cも土浦方面に劣る」とも指摘し、選択する理由に乏しいことを示唆しています。

筑波山はすでに多くの登山客で賑わっていて、鉄道が接着することによるオーバーツーリズムも懸念しています。

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土浦以外は選べない

ここまで、提言書の要旨をざっと見てきました。

判断基準が複数あるので、各方面ともメリットとデメリットがありますが、延伸先として選ばれるには、一定の採算性やB/Cが必要です。そうした前提を満たすのは土浦方面しかありません。

ざっくばらんにいって、採算性やB/Cの数字を見る限り、土浦方面以外の延伸は「お話にならない」レベルです。土浦駅延伸が選ばれたというより、それ以外は選びようもない、というのが現実といえます。

提言書では、「土浦方面でJR常磐線に接続されれば、茨城空港方面や水戸方面への延伸に期待される効果についても、一定程度得られる」とし、水戸延伸、茨城空港延伸のメリットの一部は土浦駅延伸でも取り込めるとみて、土浦延伸を最終決定としました。

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東京延伸とのパッケージ化求める

その土浦方面にしても、採算性で赤字、B/Cで0.6となると国の補助の要件を満たさず、ただちに着工することはできません。提言では「更なる需要増加及び費用削減の方策を検討する必要がある」としていますが、0.6のB/Cを1.0に引き上げるのは容易なことではありません。

そこで、提言では「TX県内延伸と既存路線やTX東京延伸とを一体的に扱う、いわゆるパッケージとしての事業評価や費用対効果分析の実施も検討していく必要がある」としました。

この文言を筆者なりに解釈すると、「土浦延伸を単独で実現することは困難なので、TXの秋葉原~東京駅間延伸や既存区間と一体の計画にして、東京~土浦間のトータルで事業を評価し、採算性やB/Cを向上させてはどうか」ということのようです。

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都心部・臨海地下鉄プロジェクトも

提言書は、関係機関との十分な調整を求めたうえで、「関連する既存路線や鉄道プロジェクトを含めた一体的なパッケージとしての事業評価や費用対効果分析の方法の整備を国などに対して、働きかけていく必要がある」と結んでいます。

「関連する既存路線や鉄道プロジェクト」には、TXの東京駅延伸だけでなく、都心部・臨海地下鉄も含まれるようです。

要は、臨海地下鉄も含めた、TX東京駅延伸との「抱き合わせ」で事業全体を評価してもらえるよう国に制度変更を訴えて、土浦延伸を実現するよう提案しているわけです。

虫のいい話?

こう書くと虫のいい話にも聞こえますが、東京駅延伸も採算性を問われれば厳しいのは同じです。わずか2kmの延伸で1,000億円規模の事業費がかかりそうですが、単独で十分な便益があるかは疑わしく、だからこそ、これまで延伸が実現してこなかったのでしょう。

となると、土浦延伸、東京延伸、既存区間、さらには臨海地下鉄もあわせ「一体的なパッケージ」として、新たな事業評価の手法を編み出すというのは、案外あり得るのかも、と思ってしまいます。とはいえ、遠大な話にも思えるので、実現するのかは定かではありません。(鎌倉淳)

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