東京BRTが2020年10月1日に運行を開始しました。「BRT」とは、バス高速輸送システムですが、現在はプレ運行で「まだ本気出してない」様子。それでも大器の片鱗を見せてくれました。
虎ノ門ヒルズから出発
東京BRTは、都心部と臨海部を結ぶ新たなバス高速輸送システム(Bus Rapid Transit)です。プレ運行として2020年10月1日に、虎ノ門~晴海間約5kmで運行を開始しました。途中のバス停は新橋駅、勝ちどきの2箇所のみ。都心部のバスとしては非常に少ない停留所数となっています。
さっそく開業2日目、起点の虎ノ門ヒルズから乗車してみました。バスターミナルは虎ノ門ヒルズビジネスタワーの1階。日比谷線の虎ノ門ヒルズ駅からの案内表示は少し迷いましたが、大規模施設内のバスターミナルは待ちやすそうです。燃料電池バスのトヨタSORAが停まっていました。
東京BRTは、日中毎時4本ですが、虎ノ門ヒルズ発着は毎時3本のみ。その理由は後述します。バスの行き先表示に出発時刻が示されているのが特徴で、定時運行への意気込みを感じます。
バスは「初乗り」を試しに来た人で満席。不動産関係者らしきスーツ姿の若い男性たちが目立ちました。マンション販売時に、BRTの乗車体験を顧客に伝えるためでしょうか。
そこへ訪れたのが、車椅子の利用者。乗務員が中央ドアの床をひっくり返して反転式スロープ板を出し、停留所のプラットホームに渡します。乗り場と車両の段差が少ない上に、軽いスロープ板が完備されているので、実にスムーズに乗降できます。
全てのバス停がこうした形で整備されたら、車椅子やベビーカーでも利用しやすい交通機関となりそうです。
歩くのと大差ない区間も
バスは15時10分に発車。虎ノ門ヒルズから新橋までは信号が多く、時間がかかります。新橋駅に到着したのは定刻より2分遅れの15時23分。この区間は、歩くのと大差ない時間がかかってしまいました。
新橋で乗客を増やし、勝ちどきへ向かいます。築地までは混雑し、環状2号に入るとスムーズに走り始めます。この付近は信号もなく、すいすいと勝ちどきに達しました。それでも、定刻より6分遅れの15時34分の到着。定刻なら7分で着く新橋~勝ちどき間を、10分かかってしまいました。
勝ちどきで半分ほどの客を降ろし、終点晴海へ。いったん月島まで出て朝潮大橋を渡るので大回りです。渋滞がなかったものの、勝ちどきから10分かかりました。15時45分着。定刻より6分遅れで、虎ノ門ヒルズからは35分かかりました。
バスターミナルに看板なく
晴海BRTターミナルはトリトンスクエアの向かいにある、広大な駐車場の一角です。東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の専用駐車場の一角で、現在は仮設の停留所です。東京オリンピック・パラリンピック終了後に本設のバスターミナルができます。
現状は、道路からだとただの車庫に見えてしまいます。出入口に案内の看板もなく、中にバスの基幹路線の停留所があるというのは、知っているしかわからないでしょう。ちょっと不親切に感じました。
連節車両に乗ってみる
帰りは、東京BRTの目玉車両である、連節車両に乗車します。
いすゞと日野自動車が共同開発した「エルガデュオ」です。国産初の大型路線ハイブリッド連節バスで、全長18mあります。税込み約9500万円という高額の車両で、東京BRTの車両9台のうち、連節バスはいまのところ1台だけです。
車内に入ると、その奥行きに驚きます。
前車室から後車室までノンステップのフルフラット。最後尾で2段上がった場所には2人ずつ向かい合って座れる対面式シートもあります。
同乗した小学生は「広い広い~」と大興奮していました。さすがに目玉車両だけあり、乗りたくなる魅力を備えています。
交差点をうねりながら
晴海BRTターミナルを定刻16時22分に出発。晴海三丁目の交差点で大きな車体をうねらせ右折。さらに勝ちどき駅前を左折します。どちらも広い交差点で、連節バスといえど余裕があります。
勝ちどき陸橋で右折し、勝ちどきBRT停留場に16時29分着。定刻より1分ほど早着です。
時間調整をして定刻16時30分に出発し、環二通りを疾走。汐留の交差点をダイナミックに右折し、16時37分新橋着。定刻より5分も早着しました。晴海BRTターミナルから15分で新橋駅に到着したわけで、「もう着いた」と驚きの声を上げている利用者もいました。
晴海トリトンスクエアから新橋駅までは、地下鉄を使っても15分で着くのはムリなので、この距離でこの所要時間は早い、と感じるのでしょう。
このバスは、新橋が終点です。連節車両は早朝を除き新橋~晴海間の運転で、虎ノ門には乗り入れません。理由ははっきりしませんが、新橋~虎ノ門間で日中に連節バスを走らせるのに、何か不都合があるのでしょうか。
そのため、新橋~晴海間は日中15分間隔で毎時4本運転しますが、虎ノ門~新橋間は毎時3本で、30分間隔が開くタイミングができてしまっています。現在はプレ運行という位置づけなのでやむを得ませんが、本格運行になったら、都心部で30分も間隔が開くと使いにくいでしょう。
新橋駅の停留所は、シンボリックでわかりやすそうです。
速いのか?
さて、虎ノ門ヒルズ→晴海→新橋駅と、往復利用してみた感想を書きましょう。まず、所要時間ですが、現時点では「停留所の少ないバス」という程度の印象です。虎ノ門→新橋は赤信号で停まることが多かったこともあり、普通のバスと変わらない印象でした。
新橋→晴海は、途中に勝ちどきしか停まらないこともあり、実際にかかった所要時間よりも速さを感じました。「急行バス」という印象でしょうか。
晴海→新橋の復路は、利用した便が5分も早着したことから、はっきり「速い」と感じました。この所要時間でいつも走れるなら、「バス高速輸送」という名に恥じないでしょう。
車両には先進性
実際のところ、1次プレ運行では、「BRT:バス高速輸送システム」といいながら、高速を担保する施策は何一つ行っていません。専用レーンも優先信号もありませんし、運賃収受も前乗り後降りの都バスと同じで、乗降には時間がかかります。一般のバスに比べて停留所が少ないので、そのぶん速い、という程度です。
ただ、東京BRTで使われているバスは、先進性を感じさせる仕様です。ノンステップで客室内はフルフラット。反転式スロープ板に一部のバス停では高いプラットホームを備えるなど、バリアフリーに配慮されていて、誰にでも使いやすくできています。バス車内ではフリーWi-Fiも利用できました。
燃料電池バスの動きはスムーズで揺れは少なく車内は静か。連節バスは広く快適ですし、シンボル的な意味でもわかりやすいでしょう。広いというだけでバス車内のストレスは減りますし、「上質なバス」というイメージは作れるのではないでしょうか。
課題は所要時間
課題として感じられたのは、虎ノ門~新橋間の所要時間で、定刻でも平日日中は11分をとっています。「バス高速輸送」を標榜するなら、1km程度の距離に11分もかかっては時間がかかりすぎです。原因として、虎ノ門、新橋の両停留所への出入りで信号待ちが多いのがネックに感じられます。ここは優先信号を設けてほしいところでしょう。
それ以外の区間も含め、専用もしくは優先レーンも欲しいところ。終日は無理としても、渋滞が起こりやすい時間帯には、「高速」を担保するために必須と感じられます。
まとめると、東京BRTは、いまのところ速達性は平凡で、注目の連節バスも1台だけと、「まだ本気出していない」ようです。
ただ、東京都では、2次プレ運行を経た本格運行に向けて、運賃収受の工夫や公共交通優先施策の導入を検討しています。これらの施策が導入され、その効果が十分に発揮されれば、将来的には臨海部の基幹交通として定着するポテンシャルはある、とも感じました。(鎌倉淳)