国立博物館、観覧料金の大幅値上げを考える。無料開放日を増やしては?

東博は1.6倍に

東京・京都・奈良の国立博物館3館の観覧料金が値上げされます。なかでも東京国立博物館は60%の大幅値上げとなりますが、どのような事情があるのでしょうか。

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1.6倍に値上げ

国立文化財機構は、東京・京都・奈良の国立博物館3館について、平常展の観覧料金を2020年4月1日から値上げすると発表しました。

東京国立博物館(東博)は一般料金620円を1,000円に、大学生410円を500円に値上げ。一般料金は約1.6倍となる大幅値上げです。

京都国立博物館と奈良国立博物館は、現行の一般520円を700円に、大学生260円を350円に値上げします。団体料金は、3館すべてで一般・大学生ともに廃止されます。

シニアと高校生以下、満18歳未満は無料のままです。消費増税を除く全面的な観覧料金改定は14年ぶりです。

また、奈良文化財研究所の飛鳥資料館も一般270円を350円に、大学生130円を200円に値上げします。九州国立博物館は値上げを発表していませんが、現在検討中とのことです。

国立博物館メンバーズパス(4館共通年間パス、一般2,000円、学生1,000円)などの会員制度については、2021年4月をメドに新料金に移行する予定で、2020年3月に内容を発表する予定です。

東京国立博物館

保存に手が回らず

物価上昇中の昨今とはいえ、値上げ幅の大きさには驚きます。各国立博物館では、値上げの理由として、収蔵する文化財の保存に費用がかかることを挙げています。

国立博物館4館の館蔵品は、合計約13万件。このほか、寄託品が約12,000件あります。さらに、寄贈などで毎年1,000件前後増え続けているそうです。

これらの文化財のうち2,000件余りが国宝・重要文化財に指定されていて、日本の国宝・重要文化財(美術工芸品)10,735件の約2割が国立博物館4館に収蔵されています。

これらの収蔵品を「保存」するには、収蔵庫に保管しておくだけでは足りません。文化財ごとに学術的な調査を行い、画像データを収集し、劣化の状況を定期的に点検して、その結果に応じて修理の優先順位を決定し、実施に移すといった作業が必要です。

現在、国立博物館では、展示のための年間約500件の応急修理と、保存のための年間約100件の本格修理(百年に1回をメド)を計画的に進めていますが、収蔵品があまりにも膨大であるがために、手が回っていません。

今後も、より多くの収蔵品を公開し、次代への継承するためには、修理件数をさらに拡大していく必要があるとしています。

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年間300回の展示入れ替え

展示の手間の問題もあります。たとえば東京国立博物館の総合文化展(平常展)では、常時3,000件の文化財が展示されていますが、年間延べ300回も展示品の入れ替えを展示室単位で行っており、その結果、年間約1万件の文化財を展示しています。

東博では、総合文化展を「常設展」と呼んでいませんが、その理由は展示替えの多さにあるそうです。

なぜ頻繁に展示替えが必要かというと、日本や東洋の美術品の多くが素材的に脆弱で、温度や湿度、光などの変化に大きく影響を受けるため、素材の種類に応じて展示期間に制限を設ける必要があるからです。

たとえば絵巻や水墨画は、6週間展示すると、その後1年半は展示することができません。これだけ頻繁に展示物を入れ替えるのは、欧米の博物館にはない事情で、その作業に要する時間と労力は計り知れません。

来館者数は急増

こうした国立博物館の機能を維持するために、政府から年間約86億円の運営交付金が国立文化財機構に支給されています。これに加えて、観覧料や物品販売などの自己収入が19億円あります。しかし、国立博物館に求められている役割を果たすのに十分ではありません。

一方で博物館は、訪日観光客に向けた重要な観光施設です。訪日客の29%が何らかの美術館・博物館を訪問しているというデータもあり、なかでも国立博物館は高い集客力を誇ります。

実際、インバウンドの隆盛と共に国立博物館の来館者数は急増していて、東博の総合文化展の来館者数は、2011年までは年間30万人台だったのが、2017年には年間100万人を超えるに至りました。急増を支えているのが外国人観光客で、現在の有料入館者の7割以上が外国人だそうです。

そうなると、世界に開かれた博物館としての役割が求められるようになり、同博物館では、外国人にもわかりやすい展示解説の工夫や、多言語対応型の新しい鑑賞ガイドアプリの導入、外国人を対象とするガイドツアーの拡充などを進めています。

展示施設のリニューアルも進めていて、やはり費用がかかります。同機構では運営基盤を固めるため、19億円の自己収入を21億円に増やす目標を掲げており、そのために観覧料金の値上げが行われるわけです。

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博物館法との兼ね合いは

ちなみに、東京国立博物館の場合、総合文化展の現在の観覧料金では、来館者一人当たりの直接的なランニング・コスト(光熱水・館内案内・環境整備・設備維持など)さえも賄えない水準だそうです。

東京国立博物館のあの規模で、観覧料金620円では足りないのでしょう。そのため、結果的に「保存」など、博物館の他の使命を財政的に圧迫することにもなっていると、同機構は説明しています。

一方で 博物館法第23条(入館料等)では、「公立博物館は、入館料その他博物館資料の利用に対する対価を徴収してはならない」と定めています。日本の国公立の博物館は、原則として無料であることが、法律で定められているのです。

ただし、23条は「博物館の維持運営のためにやむを得ない事情のある場合は、必要な対価を徴収することができる」とも定めています。日本各地の国公立博物館で入館料をとるのは一般的ですが、根拠はこの但し書きで、「やむを得ない事情」の「必要な対価」の範囲に留められています。

国立博物館が、「ランニング・コストさえも賄えない」と訴えているのは、博物館法を意識してのことでしょう。

英米は無料

国立博物館の規模、収蔵点数を考えれば、東京1,000円(9.1米ドル)や京都・奈良700円(6.4米ドル)という新観覧料金は、世界的に見ても高いとは思えません。

一方で、大英博物館(イギリス)やスミソニアン博物館(アメリカ)は無料(寄附)です。ルーブル美術館(フランス)は有料(15ユーロ)ですが、毎月第1土曜日の18時~21時45分は無料開館となっています。

ちなみに、東京国立博物館にも無料開放日はあり、国際博物館の日(5月18日)、敬老の日(9月第3月)、文化の日(11月3日)などです。2019年は即位礼正殿の儀(10月22日)なども無料でした。

観覧料金をめぐる論争

博物館の観覧料金をめぐる論争は古くからあり、国家を代表する博物館の観覧料金の適正価格がいくらなのかはなんともいえません。

博物館には公共財の側面と私的財の両面があり、公共財の側面から見れば、税金で購入した収蔵物を、税金で運営している教育・文化施設で保管しているのだから、それを観覧するために納税者がさらに高額の入館料を払う必要はなく、払うにしても最低限、という考え方があります。

一方で、私的財の側面に注目すれば、収蔵物には市場経済的に商品価値があり、それを観覧するのにお金を払うのは当然で、国立博物館レベルなら相応の入場料を取るべし、という考え方もあります。

現実には二つの考え方の間で折り合いを付けるほかないのですが、今回の値上げに関しては、インバウンドの増加を背景に外国人からの収益を拡大しようとしている印象があります。その結果、納税者が国家の貴重な文化財に触れるための機会を減らしてしまうかもしれません。

国立文化財機構がそうした弊害を考慮するならば、博物館法23条前半の趣旨を尊重し、値上げを機に無料開放を拡大してもいいのではと思います。

月に1日程度、週末に定例の無料開放時間帯があれば、より多くの人が訪れやすくなります。国立博物館の意義を、外国人だけでなく納税者たる国民に伝えるいい機会になるのではないでしょうか。

国立博物館の運営費の多くが税金でまかなわれている以上、より多くの納税者に見てもらい、その存在価値を理解してもらうほうが、博物館にとってもよいことだと思うのですが。(鎌倉淳)

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