函館線長万部~余市間、年内に廃止合意も。並行在来線首長の発言を読み解く

北海道新幹線開業時に

北海道新幹線の並行在来線のうち、長万部~小樽間について、早ければ年内にも存廃の結論が出そうです。このうち長万部~余市間は鉄道廃止の方向性で合意する可能性が高くなってきました。対策協議会の議事録から沿線首長の発言を読み解いてみましょう。

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「後志ブロック」第9回会議

北海道新幹線は、新函館北斗~札幌間の延伸工事が進められています。開業時には、並行在来線である函館線・函館~小樽間287.8kmがJR北海道から経営分離される予定で、この区間を鉄道として残すか、バス転換をするかが焦点になっています。

この問題を話し合うのが、沿線15市町などで構成する「北海道新幹線並行在来線対策協議会」です。協議会は函館~長万部間147.6kmを話し合う「渡島ブロック」と、長万部~小樽間140.2kmを話し合う「後志ブロック」に分けられ、後志ブロックの第9回会議が、2021年8月6日に開かれました。

その議事録が公表されましたので、内容をひもときながら、函館線長万部~小樽間の行方を見通してみましょう。

H100系

新たな収支見通し

並行在来線の存廃を検討する上で、もっとも重要なのは収支予測です。これについては、鉄道存続する場合と、バスに転換する場合に分けて、第8回会議(2021年4月)で最初の試算が公表されています。

詳細は「函館線長万部~小樽間の存続厳しく。北海道新幹線並行在来線の収支予測公表」にて記事にしました。

第8回会議での収支予測発表後、さらに内容を精査する作業が行われ、今回の第9回会議で提示されました。新たな収支予測は前回と大きく変わりませんが、細かい点の見直しで、多少、赤字金額を圧縮した数字になっています。

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3通りの予測

収支予測の試算は3通りで行われています。(1)長万部~小樽間の第三セクター化による鉄道存続、(2)長万部~小樽間のバス転換、(3)長万部~余市間のバス転換+余市~小樽間の第三セクター化による鉄道存続です。

新たな試算では(1)の初期投資が152億円、単年度赤字(2040年度)が23億円、30年累計赤字が874億円となりました。

(2)は初期投資が18億円、単年度赤字が2億円、30年累積赤字が96億円となりました。

(3)は鉄道部分の初期投資が45億円、単年度赤字が5億円、30年累積赤字が211億円。バス部分の初期投資が11億円、単年度赤字が1億円、30年累積赤字が56億円となりました。

鉄道を維持する場合、多少収支見通しが改善したとはいえ、大きな赤字が出ることに変わりありません。

函館山線収支見通し

函館山線収支見通し
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会 第9回後志ブロック会議 資料

転換バスルート案

バス転換した場合のルート案も公表されました。

バス路線は長万部~黒松内、黒松内~倶知安、倶知安~余市、余市~小樽の4区間にわけて検討。どの区間でも、函館線に沿う国道5号線をおおむね走りますが、病院への通院や、高校への通学がしやすいよう配慮したルートを検討しています。

たとえば、倶知安市街地では、通院、通学を考慮して病院や高校に近いルートを検討します。

倶知安市内バスルート
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会 第9回後志ブロック会議 資料

余市~小樽間では、最上トンネル(建設中)を経由するルート案も検討しています。このルートの場合、余市町から小樽市内の各高校へ、鉄道利用より通いやすくなりそうです。さらに、後志自動車道を経由して、札幌市内へ直通するバスの設定も検討しています。

余市~小樽バスルート案
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会 第9回後志ブロック会議 資料
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ルート案は了承

今回の会議は、こうした資料を基に、沿線自治体の首長が意見を交わしました。議事録を基に、その内容をみてみましょう。

まず、座長である北海道交通企画監が、バスルート案について各自治体の意見を尋ねたところ、どの首長からも、ルート案自体についての異論はありませんでした。

ただ、長万部町長は「バス転換が最有力なのかな、という気もするが、まだ大きな課題も残っている。(バスルートを)了承しますとなったら、バス転換の方向に大きく舵が変わっていくことになるのか」と質問。

座長である北海道交通企画監は、「そういうことではなく、住民、議会に説明をする上で、鉄道であればこうなる、バスであればこうなる、という案を説明する必要があると考えている。概ねバス会社が了解するバスの体系、実際の鉄道の経費などを比較する資料を作るので、何かありきではない」と答えました。

要は、今回提示されたバスルートを了承したことが、バス転換に合意したことにはならず、鉄道とバスについて比較する資料を、北海道が用意する、ということです。

この説明を受けて、各首長はルート案について了承。さらに詳しいダイヤ案の作成など、次の段階に進めることが決まりました。

「かなり厳しい」

このやりとりを見ると、鉄道廃止一辺倒の議論ではないようにも感じられます。ところが、自治体側が、第三セクター鉄道を残す場合について、さらなる精密な検討も要望したところ、道側のニュアンスが変わります。

ニセコ町長は「第三セクターの鉄道(の収支見通し)に関して、初期投資や単年度収支を含めてレベルアップしていく、という解釈でよろしいか」と、鉄道存続案の精査を求めました。

これに対し、北海道交通企画監は、「内情を言うと、かなり厳しい」と述べたうえで、「実際に鉄道を引き取るということになれば、相当精査できるが、そういう前提でなければ、限りがある」と釈明しました。

要は、「本気で実際に鉄道を残す気なら精査するけれど、そうでないなら、ある程度のところで勘弁してほしい」ということです。北海道としても、調査に使える人員や予算には限りがあるのでしょう。

この釈明に対して、強い異議は出なかったようです。となると、各首長とも、「実際に鉄道を引き取る」方向にないことを認容したと受け取れそうです。

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余市町が独自の立場

ただし、余市町だけは立場の違いを明確にします。「小樽・余市間は個別協議を行っていて、鉄道の単年度の収支予測は余市・小樽間だけであれば5億円ほどの赤字。引き続き余市・小樽間に関しては鉄道路線の維持を念頭におきつつ、やっていくのが合理的と考える」と鉄路維持に意欲を見せました。

さらに、「富山港線など他地域の事例をみながら、多頻度化や多駅化などを図り、この区間の収支を上げるなど検討をしてはどうか」と提案しました。

余市~小樽間に関しては、7月に株式会社ライトレールの阿部等氏を招いての説明会が開かれています。公表された結果概要によりますと、「富山ライトレールの事例を踏まえ、余市・小樽間において駅を増やす『多駅化』と、増便による『多頻度化』の導入によって、利用者の増加が見込まれるとの提案を受けた」とのことです。

富山港線を参考にするのであれば、余市でもLRT導入を検討する、とも受け取れますが、現時点では、そうした計画は公表されていません。LRTにしないまでも、駅と運行本数を増やすことで収支を改善できないかについて、検討をしていくのでしょう。

12月に方向性

会議では、今後の検討スケジュールについても案が示されました。倶知安町が、駅周辺のインフラ整備の都合で早期の結論を求めているという事情もあり、北海道側は、12月に方向性を決めることを提案しました。

具体的には、9月~10月に収支予測やルート、ダイヤ案などの最終報告をまとめ、第10回ブロック会議を開催して提示。それを基に各自治体が議会や住民に説明をし、12月に第11回ブロック会議を開催します。そこで、(1)全線鉄道存続、(2)全線バス転換、(3)余市~小樽のみ鉄道存続、の3案のうち一つ選び、方向性を決めます。

各自治体は、大筋でこのスケジュールを了承。12月の議会で説明し、終了後に、各自治体で決めた方向性を携えて、12月下旬に開かれる第11回会議に臨むというスケジュールが固まりました。ただ、日程調整が難しい場合などは、1月にずれ込む可能性もあります。

つまり、各自治体の意見がまとまれば、2021年12月か2022年1月に、函館線長万部~小樽間の存廃について、自治体間で合意することになります。

議論の流れをみると、首長会合の段階では、長万部~余市間のバス転換と、余市~小樽間の第三セクター化(鉄道存続)の方向性は、固まりつつあるようです。となると、早ければ12月にも、長万部~余市間の2030年度鉄道廃止について、自治体間で合意される可能性が出てきたといえます。

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余市~小樽間は先送り

余市~小樽間については、鉄道維持を模索する方向性になりそうです。といっても、年5億円規模の赤字は莫大で、本当に維持できるのかという疑問もあります。

北海道新幹線の開業予定は2030年度。まだ9年ありますが、この時期に鉄道の存廃を決めなければならない背景として、先に触れた倶知安駅周辺整備の事情があります。しかし、余市~小樽間とは無関係なので、この区間のみ鉄道存続をさらに模索して、もう少し後に、最終的な判断をしても遅くはありません。

つまり、現段階で(3)を選択したとしても、あとで(2)に変更することも可能なわけです。

ということで、年明けには(3)長万部~余市間のバス転換と、余市~小樽間の三セク化検討の方向性で合意する可能性が高そうです。ただ、余市~小樽間に関しては、それを最終決定として受け止められるかは、現時点では見通せません。

また、長万部~余市間のバス転換に関しても、議会や住民から異論が出る可能性は十分あり、その場合は1月までに決着が付かない可能性も残されています。(鎌倉淳)

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