函館線長万部~小樽間の存続厳しく。北海道新幹線並行在来線の収支予測公表

余市~小樽の存続が焦点に

北海道新幹線並行在来線のうち、函館線の長万部~小樽間(山線)の、新幹線開通後の収支予測が公表されました。鉄道維持の場合は毎年20億円以上の赤字が見込まれ、全線存続は厳しそうです。

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収支見通し示される

北海道新幹線は、新函館北斗~札幌間の2030年度延伸開業を目指して工事が進められています。延伸にあわせて、並行在来線である函館線・函館~小樽間287.8kmがJR北海道から経営分離される予定で、この区間を鉄道として残すか、バス転換をするかが、大きな焦点になっています。

この問題を話し合うのが、沿線15市町などで構成する「北海道新幹線並行在来線対策協議会」です。協議会は函館~長万部間147.6kmを話し合う「渡島ブロック」と、長万部~小樽間140.2kmを話し合う「後志ブロック」に分けられ、後志ブロックの第8回会議が、2021年4月21日に開かれました。

今回の会議では、第3セクター鉄道に移管された場合と、バス転換した場合の収支見通しが示されました。

函館線H100型

輸送密度はどう変わるか

今回公表された収支見通しは、2018年度の旅客流動調査を元に、2030年度の北海道新幹線開業から30年間の将来需要を見越して予測したものです。

函館線・長万部~小樽間のいわゆる「山線」区間に関して、第三セクター鉄道会社が運行を引き継いだ場合と、バス転換した場合の収支を推計しています。さらに、余市~小樽間のみ鉄道とし、残りをバス転換にしたケースも予測しています。

まず、需要予測ですが、北海道新幹線開業にともない、例えば倶知安から札幌に行く場合の移動は、これまでの函館線利用から、新幹線利用に転移することが見込まれます。そのため、相対的に在来線の利用者が減少すると判断しています。

さらに、将来の沿線人口減少の影響により、地域の利用者の減少も避けられません。そのため、新幹線開業10年後の2040年度には、2018年度の6割程度の輸送密度になると予測しています。

具体的には、長万部~小樽間の輸送密度は、2040年度には310となり、2060年度には184にまで低下すると見込んでいます。ただ、余市~小樽間のみ取り出すと、2040年度が1,048、2060年度は566で、2040年度ごろまでは4桁を維持すると予測しています。

函館線山線輸送密度
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会資料
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鉄道全線存続の収支

ここからが本題となる収支予測です。まず、全線を第三セクター鉄道に移管した場合、初期投資に約191億円が必要で、毎年24億円程度の赤字が出ると見込んでいます。2060年度までの30年間の赤字累計は約926億円に達します。

函館線山線資料
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会資料

収支内訳を見てみると、2030年度の単年度収支は、鉄道運輸収入が2.8億円に対し、営業費用は26.6億円となっています。収入がきわめて少なく、経費の1割ほどしかまかなえません。

約191億円の初期投資の内訳は、土地、建物などのJRからの譲渡資産が約30億円、車両(新車8両、既存14両)が約60億円、大規模改修費用が約62億円などとなっています。約3分の1が車両費で、橋・トンネルなどの土木構造物の補修費が3分の1です。この二つの負担が大きいことがわかります。

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鉄道部分存続の収支

長万部~余市間をバス転換し、余市~小樽間のみを鉄道で残す場合、鉄道部分の初期投資は約53億円、単年度赤字は約6億円と見込みます。30年間の赤字累計は約254億円です。

収支内訳を見てみると、2030年度の単年度収支は、鉄道運輸収入が約1.5億円に対し、営業費用は約7.8億円となっています。経費の2割ほどしか収入でまかなえませんが、全線鉄道維持に比べると金額はだいぶ小さくなります。

初期投資の内訳は、JR譲渡資産が約7億円、車両費が8両で約18億円、大規模改修費用が約8億円などとなっています。

函館線山線資料
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会資料

長万部~余市間のバスに関しては、初期投資が約11億円、毎年の赤字が約1億円で、30年の赤字累計は約56億円となっています。

バスの初期投資の内訳は、車両購入費が28台で約8.4億円、営業所整備費が約2.7億円などです。

余市~小樽間のみを鉄道で残す場合の、鉄道とバスをあわせた全体の初期投資は約64億円、毎年の赤字は7~8億円で、30年累計の赤字は約311億円です。2030年の単年度収支を見てみると、約10.7億円の費用に対し、約3.3億円の収入で、経費の3割程度をまかなえます。

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全線バス転換の収支

全線をバス転換した場合については、初期投資が約18億円で、毎年約2億円の赤字が出ると見込んでいます。30年間の赤字累計は約96億円です。

函館線山線資料
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会資料

初期投資の内訳は、46台の車両購入費が約13.8億円で、多くを占めています。

収支の内訳は、2030年度の単年度で、運輸収入が約2.9億円に対し営業費用が約4.9億円です。費用の6割程度は収入でまかなえることになります。

全体をまとめると、下表のようになります。

函館線山線資料
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会資料

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余市~小樽間の輸送量

バス転換の課題として挙げられたのが、余市~小樽間の輸送です。下図は同区間の時間帯別輸送量ですが、下りの小樽着7~8時台は、毎時200人近い利用があります。上り小樽発の18時台も、140人程度の輸送量です。

小樽余市バス輸送量
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会資料

バス1台に70~80人程度は乗せられますので、数字の上では、朝ラッシュ時でもバスが5~6台もあれば運びきれる輸送量です。都会の感覚ではなんてことない数字にも見えますが、ピーク時に集中的にこれだけの運転手を、この地域で毎朝欠くことなく確保できるのかは、何とも言えません。

現実に、小樽市ではバス運転手不足により、思うようにバスを運行できていないそうです。余市~小樽間の鉄道を廃止する場合、運転手の確保方法の議論を避けて通ることはできないでしょう。

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メリットとデメリット

資料では、鉄道存続のメリットとして、現状の輸送力や利便性、速達性を確保できることを挙げています。また、地域に密着した運営や、観光への活用ができる可能性もあります。

鉄道存続のデメリットは、いうまでもなく費用で、将来にわたる地域負担の大きさが挙げられます。初期投資も巨額ですし、経営維持のために運賃増額の可能性もあります。将来の人口減少や、新幹線開業にともなうさらなる利用者の減少も覚悟しておく必要があります。

バス転換のメリットは、柔軟な路線や運行本数、ダイヤの設定が可能な点で、うまくやれば利便性を向上させることができる点です。鉄道に比べて地域の財政的な負担が少なく、国による補助も期待しやすいです。観光面では、鉄道廃線跡を活用できる可能性もあります。

バス転換のデメリットは、やはり移動時間増です。小樽駅でのJR線の乗り換えの接続時間も増えるでしょう。また、運賃負担も増加します。余市~小樽間のピーク時の需要の対応も課題ですし、運転手不足への対策も立てなければなりません。

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今後の議論は?

率直な印象として、ここまでの数字を見る限り、長万部~余市間の鉄道存続は非常に困難というほかありません。今後の議論は、同区間のバス転換は避けられないものとして、余市~小樽間の鉄道存続が焦点になるとみられます。

余市町は、並行在来線問題で大きなデメリットが生じるにもかかわらず、北海道全体の利益を考慮して、新幹線建設に同意したという経緯があります。それに対し、北海道がどのような配慮を見せるかもポイントとなるでしょう。

一部の意見としては、小樽~ニセコ間を残して観光面で活用すべし、という声もあります。新幹線と接続する倶知安を起点に、観光客を呼び込んで利用者を増やせないか、という視点です。ただ、余市町を除く沿線自治体は、巨額の負担をしてまで鉄道にこだわる姿勢をみせておらず、今回、区間別の調査対象にもなっていません。したがって、小樽~ニセコ間というくくりでの存続はなさそうです。

対策協議会では、今後、9月までに2回の会議を開き、北海道新幹線開業後の並行在来線の方向性を示すスケジュールを示しています。最終的には、2022年度中に、函館線山線の存廃が正式に決まる見通しです。(鎌倉淳)

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