赤字ローカル線を「JR運行のBRT」に転換へ。「地域モビリティ検討会」論点整理を読み解く2

出口論を考える

国交省がローカル鉄道路線の見直しを検討する会議で、新たな論点整理を公表しました。資料を読み解くと、国交省はローカル線問題の解決策として、JRが運行する「BRT」を中心に据えていることが見えてきます。

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第4回地域モビリティ検討会

国土交通省は、ローカル鉄道路線の見直し方を検討するため、「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」(以下、地域モビリティ検討会)を開催しています。

その第4回会合が2022年5月13日に開催され、「論点整理」の資料が公表されました。4月に開催された前回(第3回)会合での論点整理に新たな項目を加えたもので、とりまとめへ向けた叩き台となります。

前回会合の論点整理については、すでに記事にしていますので、こちらをお読みください。

ローカル線切り離しに新基準。「地域モビリティ検討会」国交省の論点整理を読み解く

前回の論点整理を簡単にまとめると、ローカル線を「鉄道特性の有無」で切り分けて、「鉄道特性がないローカル線」を存続させる場合は、地域が応分の負担をすべきという内容でした。

「鉄道特性」の基準は輸送密度4,000以上が示唆されています。ただし、それを下回る場合でも特急走行線区、貨物走行線区、ピーク時の輸送量が多い線区、バス転換が困難な線区、クロスセクター効果の高い線区などは例外として「鉄道特性がある」と認められる可能性があります。

そうした例外事項に明確な基準は示されておらず、地域公共交通活性化再生法に基づく法定協議会で議論すべきという内容でした。

この記事では、前回会合の内容を前提にして、第4回会合で新たに提示された論点の中身を読み解いていきます。

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「出口論」を議論

第4回会合で示された新たな論点は「地域モビリティの利便性・持続性を向上するための課題と対応方策」と題されました。いわゆる「出口論」です。

前回示されたのは、赤字ローカル線をどこまで維持すべきかという「線引き」を探る内容でしたが、今回は、線引きを終えた後の「鉄道の残し方」と「廃止後の代替交通のあり方」についての議論といえます。

受益に応じた支援

最初に示されたのは、「地方公共団体による支援の一層の推進」。つまり、地域の公共交通を維持するには、地方自治体の支援が欠かせないという論点です。

前述したように、前回までの議論で、鉄道存続の条件の一つとして「クロスセクター効果が認められる場合」が挙げられました。観光や福祉、教育などに大きな効果がある場合、鉄道事業が赤字で利用者が少なくても「鉄道特性」が認められ、残す価値がある、ということです。

今回の論点整理では、鉄道によるクロスセクター効果が認められる場合には、「上下分離等を含めて、受益の観点から、沿線地域が適切な関与のレベルで支援を行うよう促していくべき」としました。

クロスセクター効果の受益者である地域が一定の支援をすべきであり、その手法として上下分離を例示したことになります。

支援の具体例として、上下分離のほか、欠損補助、土地等の譲渡、固定資産税の減免、まちづくりとの連携、設備投資補助、駅の有効活用(合築等)などが示されました。

要は、鉄道施設の維持のみならず、赤字の補填まで地方自治体に求めているわけです。こうなると、「クロスセクター効果」による存続は、簡単な話ではありません。

前回議論で「鉄道特性のある線区」について、特急運行線区や、貨物運行線区、ピーク時の輸送量の多い線区などと並んで例示された「クロスセクター効果のある線区」ですが、今回の論点整理を見ると、特急運行線区などとは同等に扱わないことが感じられ、「高校生の通学に不可欠だから」程度の理由の場合、存続へのハードルは高そうです。

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前向きな上下分離の導入

上下分離に関しては、「鉄道の利便性・持続性を向上させるために前向きに実施するような上下分離も対象とするべきではないか」という意見が付されています。

上下分離に「前向き」「後向き」があるのか、と頭を抱えてしまいそうですが、これには背景があります。

鉄道の上下分離は、地域公共交通活性化法の鉄道事業再構築事業に基づくことが多いのですが、同事業は「継続が困難となるおそれがある旅客鉄道事業」を対象にしているためです。

つまり、上記の意見は、「継続が困難でない鉄道事業でも、上下分離を導入しやすく」ということを指摘しています。

わかりやすく言い換えると、JR上場4社が上下分離を導入しやすくする方策を求めた意見といえます。JR4社の鉄道事業は新型コロナがなければ黒字ですから、「事業継続困難」とはいえません。そうした会社がローカル線で上下分離を導入することを「前向きな上下分離」と定義づけ、鉄道事業再構築事業で対象にする必要がある、ということのようです。

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設備投資への投資

次の論点は、「鉄道運送の高度化とその支援の必要性」です。

端的に言うと、自治体が鉄道会社の設備投資に対して支援してはどうか、という話です。具体的には、「鉄道の競争力回復のための前向きな取り組み」と「最新技術を取り入れたスマート化のための取り組み」への支援です。

前者の例としては、優等列車・直通列車の復活、増便、新駅設置、既存駅移設、サイクルトレインや観光列車、バスとの共同運行や接続改善などです。

後者の例としては、架線レス化、蓄電池車両、自動運転システムやワンマン化、無線式列車制御システム、駅のスマート管理、QRなどの新たなチケットシステムの導入、一部または全部区間のバス代行などです。

これらの事例は、近年、ローカル線で取り入れられはじめていますが、多額の投資が必要なものもあります。そうした先進的な取り組みに対しては、自治体が支援すべきではないか、ということです。

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運賃問題

前回の論点整理ではスルーされた、運賃問題にも触れています。「運賃制度の見直しの必要性」と題した内容です。

よく知られていることですが、鉄道運賃は総括原価方式に基づく上限認可制度で、上限を超える運賃設定はできません。上限認可運賃の値上げには大きな手間と長い時間がかかります。

そこで、「沿線地域の同意を得た場合については、上限認可の枠を越えて、柔軟な運賃設定を可能とできないか」という論点を提示しました。

「柔軟な運賃設定」の例としては、受益者負担の観点に基づく運賃引き上げ、バスとの共通運賃、観光列車・観光客料金の導入などを挙げました。

受益者負担の観点に基づく運賃値上げは、バリアフリー料金制度などが最近知られていますし、たとえば新線建設時にその区間だけ運賃を加算するという仕組みもあります。こうした「地域限定運賃」を、受益者負担の名目でローカル線に導入してはどうか、という議論です。

国交省は、新幹線の耐震化促進の加算運賃制度も検討しているようですし、鉄道会社の経営難への対処として加算運賃を積極的に取り入れる姿勢を見せています。JRとしても、利用者の少ないローカル線への加算運賃は望むところでしょうし、「ローカル線加算運賃」は実現する可能性が高そうです。

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