四国新幹線計画について、徳島県の後藤田正純新知事が岡山ルートを推進していく方針を表明しました。前知事が推進していた淡路島ルートを撤回する形です。これにより、四国新幹線計画は変わるのでしょうか。
二つのルート案
四国への新幹線には二つのルート案があります。一つは淡路島から大鳴門橋を渡る淡路島ルートで、もう一つは岡山から瀬戸大橋を渡る岡山ルートです。
新幹線基本計画では、「四国新幹線」として、大阪市を起点に、淡路島、徳島市、高松市、松山市を経由して九州の大分市に抜ける淡路島ルートが定められていてます。一方、「四国横断新幹線」として、岡山市から高知市に抜ける岡山ルートが定められています。
しかし、これだけの新幹線を一気に整備するのは現実的ではなく、地元経済団体などで作る「四国新幹線整備促進期成会」では、岡山ルートを軸に、徳島、高知、松山方面に分岐する「T字型ルート」を提案しています。
ただ、T字型ルートでは、大阪方面から徳島への時短効果が小さいという問題があります。そのため、徳島県はT字型ルートに対しやや冷淡で、飯泉嘉門前知事は、淡路島ルートを推進する姿勢をみせていました。
「四国は一致して岡山ルート」
ところが、2023年5月18日に就任した後藤田新知事は、5月25日に開かれた「近畿ブロック知事会議」において、「四国は一致して岡山ルート。徳島が賛同することによって、四国はまとまりますので、ぜひお願いしたい思います」と発言。岡山ルート推進に転換する方針を明らかにしました。
会議終了後、記者団からの取材に対して、その理由を説明。「新幹線を作るということは、じつは在来線を維持するということです。JR四国の毎年100億円を超える赤字をどう削減していくかという挑戦です。これをしなければ在来線の赤字はこれ以上もっと増える。そうすると、まさに鉄道網の消滅につながっていく」と述べました。
つまり、JR四国の経営基盤強化のために新幹線が必要で、それが徳島県の在来線の鉄路を守ることにもつながる、すなわち県益である、というロジックのようです。
岡山~松山ルート優先を容認?
このロジックに従うならば、四国新幹線はできるだけ収益性が高い方がよい、ということになります。
となると、後藤田知事のいう「岡山ルート」はT字型ですらなく、最も収益性が高い「岡山~松山ルート」の優先建設すら容認することを意味するでしょう。収益性に難がありそうな高松~徳島間は当面作らなくてもいい、という論理的な帰結となります。
後藤田知事がそこまで考えて発言しているのかは定かではありませんが、徳島県が岡山ルート推進に転じることにより、四国新幹線計画は、ひとつのターニングポイントを迎えることになるでしょう。
ローカル線維持への布石?
後藤田知事が、岡山ルート推進の理由として、「在来線の維持」を掲げたことも興味深い点でしょう。
新幹線に対する「在来線の維持」とは、並行在来線問題を連想しがちですが、後藤田知事の発言は、それとは異なるようです。ローカル線を含めた、四国の鉄道網全体の維持について述べています。
おりしも、JR四国は、ローカル線の「再構築」について議論を始める構えを見せています。これに対して、徳島県としては、「在来線の維持」を掲げて新幹線計画で譲るわけですから、JR四国で真っ先に廃線候補に挙げられそうな、牟岐線末端部の維持を強く訴えることができます。
つまり、これから浮上するであろう、JR四国の赤字ローカル線の「再構築議論」に対して、布石を打つ意味があるのかもしれません。
そもそも、淡路島ルートは巨費がかかるため、非現実的とみられてきました。徳島県が在来線の維持を条件に岡山ルートを認めるというのであれば、現実的な取引を選択した、とも取れそうです。(鎌倉淳)