大手旅行会社のHISは、2020年4月の海外旅行取扱高が前年比1.2%に落ち込みました。今期業績予想を取り下げ、1年以内に国内店舗の約3分の1を閉鎖します。
上場初の上期赤字
エイチ・アイ・エス(HIS)は、2020年6月24日の決算説明会で、2019年11月~20年4月期(上期)の連結売上高が、前年度比8.9%減の3,443億円となったと発表しました。連結最終損益は34億円の赤字(前年同期は49億円の黒字)です。2002年の上場以来、上期として初めて最終赤字です。
赤字転落の理由はもちろん新型コロナウイルス感染症の影響ですが、それでも、この程度の減少ですんでいるのは、旅行需要が堅調だった2月までの数字が寄与しているからです。3月、4月に限れば、旅行取扱高は激減しています。
ほとんどゼロ
同社月次情報によりますと、2020年3月の海外旅行取扱高は102億円で、前年比27%。4月は4億6,500万円で、前年比1.2%に落ち込みました。2019年度全体で4,520億円の海外旅行を取扱った同社としては、4億円はほとんどゼロに近い数字です。
同社の旅行事業のうち、海外旅行は8割を占める屋台骨です。それがこの数字となると、苦境の深刻さがうかがえます。
4月の国内旅行は2億2,500万円で、前年比4.3%。海外旅行より比率ではマシとはいえ、やはり同社の規模からすればゼロに近い数字といえます。訪日旅行取扱高は500万円。前年度比0.2%となり、こちらはほぼゼロといっていいでしょう。
業績予想は未定に
日本政府による緊急事態宣言の終了を受け、国内旅行には回復の兆しが見えていますが、海外旅行はまだ先行きが見通せません。
そのため、HISは2020年10月期の連結業績予想を取り下げ、未定にすると発表しました。新型コロナウイルスの感染症の終息時期が不明なため、業績に与える影響を合理的に算出するのが困難であることを理由にあげています。今期の配当予想も取り下げました。
また、国内店舗約260店のうち、3分の1にあたる80~90店を閉鎖します。具体的な店舗名は発表されていませんが、都市部を中心に選定されるようです。
国内旅行を主軸に
HISは、当面の策として海外旅行に係わるリソースを国内旅行市場へ再配置し、国内旅行を主軸とした社内体制を整備するとしています。「GO TO キャンペーン」による需要の獲得もめざします。
海外旅行に関しては、アフターコロナに向けてシェア拡大のチャンスととらえ準備を整えるとしています。
HISは4月末時点で4,881億円の総資産があり、1,243億円の現預金を有しています。旅行会社としては財務が堅固で、資金的に当面の問題はありません。すでに銀行と330億円の融資枠を設定していて、十分な運転資金も確保しています。
むしろ気になるのは、海外旅行を主業務とする他の旅行会社でしょう。「前年比1%」の衝撃が襲っているのはHISだけではないからです。