JR東日本が2016年度の輸送密度を公表しました。北海道新幹線開業により特急列車の運行がなくなった津軽線が激減するなど、東北地方のローカル線の苦戦が続いています。今回は、JR東日本の各線から、輸送密度の低い路線をランキングしてみました。
JR東日本が資料公表
輸送密度は1日1kmあたりの旅客数を示し、鉄道利用者数の目安として用いられています。国鉄時代には輸送密度が4,000を下回ると、「特定地方交通線」として廃止対象になりました。
JR発足直後は、あまり公表されることのなかった数字ですが、近年はローカル線の輸送実態を知っておうと考えたのか、JR各社が開示をするようになりました。JR東日本も、比較的早くから区間別の輸送密度を公開しています。
以下は、2017年に公表されたJR東日本の資料を基に、同社の輸送密度の低い区間をランキングでご紹介します。
JR東日本・輸送密度の低い路線ランキング
以下のデータは、JR東日本が公表した2016年度(2016年4月~2017年3月)の輸送密度(平均通過人員)で、単位は1日1kmあたり利用者数(人)です。
*はBRT輸送を行っている区間です。振替バス輸送を行っている区間**では、定期券及び回数券利用者のみ計上しています。期間内に運転を見合わせていた路線・区間、振替バス輸送を行っている路線・区間は「参考値」です。
輸送密度200未満
只見線・会津川口~只見 37
花輪線・荒屋新町~鹿角花輪 95
陸羽東線・鳴子温泉~最上 95
山田線 上米内~宮古 112**
只見線・只見~小出 114
津軽線・中小国~三厩 116
北上線・ほっとゆだ~横手 122
久留里線・久留里~上総亀山 122
飯山線・戸狩野沢温泉~津南 156
米坂線・小国~坂町 184
只見線・会津坂下~会津川口 199
輸送密度200~500
水郡線・常陸大子~磐城塙 253
気仙沼線 前谷地~柳津 268
気仙沼線 柳津~気仙沼 271*
山田線 宮古~釜石 275**
大船渡線・気仙沼~盛 276*
磐越東線・いわき~小野新町 331
山田線 盛岡~上米内 379
吾妻線・長野原草津口~大前 383
陸羽西線・新庄~余目 389
飯山線・津南~越後川口 441
花輪線・好摩~荒屋新町 445
陸羽東線・最上~新庄 446
磐越西線・喜多方~五泉 455
北上線・北上~ほっとゆだ 458
輸送密度501~1000
五能線・東能代~五所川原 512
米坂線・米沢~小国 528
弥彦線・弥彦~吉田 543
花輪線・鹿角花輪~大館 552
八戸線・鮫~久慈 563
大湊線・野辺地~大湊 590
中央線・辰野~塩尻 617
大糸線・信濃大町~南小谷 696
小海線・小淵沢~中込 708
上越線・水上~越後湯沢 739
津軽線・青森~中小国 763
釜石線・花巻~釜石 798
大船渡線・一ノ関~気仙沼 838
上越線・越後湯沢~ガーラ湯沢 846
奥羽線・新庄~大曲 981
輸送密度1001~2000
水郡線・常陸大宮~常陸大子 1010
水郡線・磐城塙~安積永盛 1052
陸羽東線・古川~鳴子温泉 1071
羽越線・酒田~羽後本荘 1131
鹿島線・香取~鹿島サッカースタジアム 1171
奥羽線・大館~弘前 1228
只見線・会津若松~会津坂下 1250
石巻線・小牛田~女川 1264
羽越線・新津~新発田 1462
飯山線・豊野~戸狩野沢温泉 1478
烏山線・宝積寺~烏山 1488
久留里線・木更津~久留里 1643
五能線・五所川原~河辺 1648
羽越線・村上~鶴岡 1881
輸送密度2001~4000
男鹿線・追分~男鹿 2055
東北線・小牛田~一ノ関 2180
東北線・黒磯~新白河 2253
羽越線・鶴岡~酒田 2272
奥羽線・追分~大館 2364
羽越線・羽後本荘~秋田 2472
磐越東線・小野新町~郡山 2477
常磐線・原ノ町~岩沼 2517
水郡線・上菅谷~常陸太田 2603
八戸線・八戸~鮫 2809
磐越西線・郡山~喜多方 2935
八高線・高麗川~倉賀野 2990
吾妻線・渋川~長野原草津口 3027
内房線・君津~安房鴨川 3187
成田線・佐原~松岸 3227
弥彦線・吉田~東三条 3232
左沢線・北山形~左沢 3384
信越線・犀潟~長岡 3741
奥津軽いまべつ駅は効果なし?
前年度から大きく数字が変わったのは、北海道新幹線開業にともなう青函区間です。津軽線から特急利用者がなくなったため、輸送密度が激減しました。
青森~中小国間は前年度の4202が763となり、82%の大幅減。また、中小国~三厩間も126が116に減少しています。中小国以南の特急廃止が、中小国以北にも影響を及ぼしたとも取れますし、自然減の範囲内とも見て取れます。
津軽線は、津軽二股駅で北海道新幹線奥津軽いまべつ駅と接続していますが、「新幹線駅効果」は及んでいないようです。
特急区間でも利用者減
2016年3月ダイヤ改正で特急運転がなくなった区間としては、吾妻線の長野原草津口~大前間も挙げられます。輸送密度が383にまで落ち込みました。
2013年度から2015年度にかけて、輸送密度が545、482、436と減少傾向でしたので、特急が走っているときから利用者の減少傾向ははっきりしていました。そのため、「特急廃止が輸送密度を押し下げた」という単純な話ではなく、もともと、長野原草津口以西で特急列車を利用する人が少なくなっていたのでしょう。
特急が今も走っていて利用者が少ない区間も挙げてみると、大糸線・信濃大町~南小谷の696、羽越線・酒田~羽後本荘の1131、奥羽線・大館~弘前の1228あたりでしょうか。
全体的に、奥羽・羽越線関連は、特急運行の有無にかかわらず利用が低迷しています。バスやマイカーへのシフトに加え、高齢化や人口減少などの要因があわさったのではないか、と思います。
東北地方の「肋骨線」は苦戦
最も輸送密度が低かったのは、只見線・会津川口~只見の37。これは不通区間なので参考値です。次いで、花輪線・荒屋新町~鹿角花輪と、陸羽東線・鳴子温泉~最上の95が続きます。
このほか、輸送密度200未満には、山田線、津軽線、北上線、久留里線、飯山線、米坂線といったローカル線が並びます。目立つのは、東北地方の山岳地帯を東西に走る「肋骨線」と呼ばれる路線群の苦戦です。
首都圏路線の膨大な利益のおかげで、JR東日本のローカル線の赤字は大きな問題となっておらず、災害以外での廃線案も浮上していません。ただ、冷静に見てみると、輸送密度のきわめて低い路線が多いことは気になります。(鎌倉淳)